第六話 オレは錬金術師で、薬師だ!!!

「さっきのは何だったんですか? 」

「あぁ……あれは」


 言えない!

 超が付くほどに秘匿ひとく技術のことだから言えない!!!

 しかしあの状況をどう説明したことやら。


 さっきの騒動そうどう一因いちいんでもあるケルブは知らぬぞんぜぬで前を歩いていた。

 何か新しい事にでも気付いたのか軽くスキップをしている。

 このままだと踊りそうだ。


 最前列を行くケルブについて行く形でオレ達は今下山げざんしている。

 もうあの樹は光っていない。

 ケルブの言う通りあそこで採りそこなったら一生おがめなかったかもしれないな。

 そう思うと感謝なのだが、素直に喜べない。


 せめて道を照らす者ガイドをやり過ごすのを手伝ってくれ!


「……不思議な光柱こうちゅう聖光せいこうの蒼白い光でもない。単に輝いているだけ」

「そしてケルブさんとアルケミナさんの食いつきよう」

「そもそも『陽光ようこうの大樹』って何ですか? 」

「……」


 言えない!

 誰か。助けてくれ!!!

 冷や汗を流しつつ、そう心の中で叫びながら黙秘もくひつらぬき通し山を降りた。


 ★


「! 血の臭い! 」


 あと少しで下山げざん完了という所でウルガスが、気付いた。

 瞬間全員が戦闘形態をとる。

 オレは後ろに下がった。


「……モンスター探知ディテクト・モンスター。モンスターじゃないみたい」

「いや。モンスターを倒した後かもしれない」


 モンスター探知ディテクト・モンスターは生きているモンスターに反応しても死んでいるモンスターには反応しない。

 もしかしたらモンスターとの戦闘で負傷したのかも。


「むう。ならば生命体探知ディテクト・ライフ


 ミスナが魔法を発動し、探知を広げた。

 瞳をつぶって集中している。

 するとピクンと体がはねた。


「……一人いた」

「! 」

ふもと。でも微弱。これは……厳しい」


 苦い顔をするミスナ。

 尻尾しっぽも耳もれている。


「行こう」


 ぽつりとオレはそう言う。


「しかし……」

「厳しくともまだ生きている。生きているのならばまだやりようはあるだろう」

「だけど犯罪者かも」

「ならば治した後で衛兵えいへいに突きつけるのみ! オレは錬金術師で――薬師だ!!! 行くぞ、ケルブ!!! 」


 そう言いオレはふもとへ走った。


「全く世話の焼ける相棒だ」


 ★


 多くのモンスターの死骸しがいぎ去りながらふもとまで降りると、そこには一人の騎士がいた。

 しかし周りに血だまりが出来ている。

 これはまずい。


「ケルブ! 」

「分かっている。だが」


 ああ、とうなずき騎士のよろいを脱ぎてる。


 デカッ!!!


 女だったか。

 だが関係ない。

 傷がある場所を探す。


「ケルブ。横腹よこばらをやられている。血管だ」

「まずは消毒。水球ウォーター・ボール


 ケルブが軽く傷口をステッキで叩くと水球を出る。

 そして傷口を洗う。

 ケルブに手を当て魔力を充填じゅうてんしながらその様子を見るがすぐに赤く染まった。

 まずいが……。


臓器増殖促進グロウス・スティミュラトリィ・オルガン


 ステッキを払いのけると水球も移動し土に染み込む。


 すぐさまステッキを突き付けて次の魔法を発動した。

 すると血管がふさがり、皮膚がふさがる。

 これで安全、ではない。


吾輩わがはいは最後の仕上げと行こう。硬化付与エンチャント・ハードニング


 軽くコンコンと叩き、細密さいみつな魔法操作で血管を、若干固くさせて破裂はれつを防いだ。


「よくやった。後は任せろ」

「任せたよ。相棒」


 腰に手をやりアイテムバックから一本のハイ・スタミナ・ポーションを取り出す。

 それを口に含み――口で飲ませた。


 口を離して、胸に耳を当てる。

 心臓は、動いているな。

 よし。大丈夫そうだ。


「けほっ! けほっ! 」

「ふぅ……。息はあるようだ。これで一安心だろう」


 むせる彼女を見ると気が抜け腰を地面につけた。


「お疲れ様。これで君はまた一つ命を救った」

「師匠ほどじゃないよ」

「そりゃそうだ。年季ねんきが違う。それに君の師はエルフ族。もしも誰かと比較したいのならば同じ人族を選ぶべきだろう。ま、もっともそう言うことをしたいのならば、だがね」


 シルクハットを深くかぶりつつこちらを見て言うケルブ。

 なんだかんだで手助けをしてくれるんだ。ありがたい。


「にしても……」

「??? 」

「いやなに。吾輩わがはいが記憶している限りだと、ファースト・キスだったような気がするが。もしかして君に今まで色恋沙汰いろこいざたが無かったのはそっちの趣味しゅみだったからかい? 」

「なにを言う! オレはヘテロだ! 」

「顔を赤くするところを見るとどうもそう思えないのだが? 」

「だぁかぁらぁ! 違うって!!! 」


 そう怒鳴っていると山の方から音がする。

 すぐさま身構えその場を立つ。

 が、見えてきたのは道を照らす者ガイドだった。


「……治っている」

「嘘だろ」

「ありえない」

「どうやって」


 驚く彼女達を近くに寄せて説明しようとするが――その前にウルガスがミスナに、ガロがイリアに殴られ気絶した。


 あ。

 あの騎士、上半身裸のままだった。


 閑話休題かんわきゅうだい


 彼女に消毒済みの、少し軽いよろいかぶせて説明した。


「わ、私の回復ヒールでもその状態からでは」

「なに、回復魔法だけが医療じゃないよ」

ひびく言葉です」


 だが実際問題、回復魔法の力は偉大いだいだ。即座に傷を治して回復させる。流石は神聖魔法。


 しかし今回は状況が違う。

 恐らく回復魔法で回復させても気付け用のハイ・スタミナ・ポーションが無ければ命はなかっただろう。

 こういう時はオレ達の出番だ。

 ハイ・スタミナ・ポーションには気付け以外に様々な効果がある。その中には名前の通り体力回復効果も十分含まれる。

 処置後なら、時間を待てば目覚めるだろう。


 よろいを上下させている彼女を見つつ観察。

 確か腹部をやられていたな。

 よろいにも傷があるが貫通かんつうしている感じではない。

 恐らくだがよろいの上からやられたというよりかは隙間すきまをやられた感じだな。

 彼女を見ているとイリアがおずおずと口を開いた。


「それで後はどうするんですか? 」

「ん~考えてない! 」


 そう言った瞬間空気が冷めた。


「だからアルケミナは馬鹿なのだ」

「なにを! 」

「一旦店で目覚めるのを待ちましょう。そして目覚めた後に彼女のその後について聞くと良い」

「そっ! それだ! それがいい! 」


 やれやれと首を振る猫紳士。

 反論したいが、出来ない自分がくやしい。


「よし。帰るか」


 彼女を背負いオレ達は帰路きろいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る