8 盗賊退治の準備

 ついに命令書が村に届いた。

 盗賊退治だ。


 結局、王国騎士団から討伐隊の本体を出して、反対側をここアフェリア子爵領の騎士団が攻める。

 村の俺たちはアフェリア騎士団と共に、これを討つこととなった。

 要するに折衷案だった。


「まあ、俺たちが正面切らされる心配がなくなって助かったな」

「ああ、助かる」


 ガイだ。うむ。本当にそうだ。

 一時はどっちも出てこないのでお前らの村がやれとせっつかれていた。


 村の戦えるもの総出となると被害が心配だ。

 盗賊は殺してもいいが捕えてもいい。

 逮捕できれば報奨金が出る。殺してしまうと報奨金は若干減るらしい。

 なんでも自供させたりなんなりと情報が欲しいとかで。

 余罪とかあるやつもいるからな。

 町でやんちゃして居られなくなって盗賊に落ちた人も当然いる。


 街道は北の王都から南の第二都市ベレマールに向けてつながっている。

 この村はアフェリア子爵領の一部で領都は南側にあるサンベルタンだ。

 王都の王国騎士団が北側から進軍する。

 アフェリア騎士団はサンベルタンから出て南側から北上する手はずになっている。


「まだ来ないな」

「アフェリア騎士団か。領主様ご自慢の」

「あんま、人前でいじるんじゃないぞ。味方のほうが怖い」

「そりゃそうだ」


 俺たちは合流地点の道がジャリバン村に分岐する追分でアフェリア騎士団を待っていた。

 俺、ガイ、クエ、それから村の男衆が八人。

 女の子は好奇心旺盛なのかエルナが唯一参戦している。

 参戦といっても武器は護身用のショートソードだ。

 彼女はいわゆる衛生兵のナースというやつで、ポーション係だった。

 どのポーションをどのように扱うかはスペシャリストであるから適格だ。

 それから俺たちのご飯のお世話もする。


「お茶がありがてぇ」

「エルナちゃん、さんきゅー」

「えへへ、エルナがんばりまっす」


 にへらとエルナが笑うと、場の雰囲気が明るくなる。

 エルナの癒しパワーは偉大だ。

 こういう時に美少女がいると助かる。


 彼女が居なかったら今頃は到着が遅れているアフェリア騎士団の文句でみんな口をへの字にしているところだった。

 このお茶、もちろんただのお茶ではなく、ほんのり甘味があって精神安定作用のある薬草が使われている。

 俺もたまに飲む。わりと好みだ。


「あの鳥、狙えるか、トム」

「ああ、いいぞ。俺は当たる方に銀貨一枚」

「じゃあ俺は外れるほうに銀貨一枚な」

「お、いいね。じゃあ俺も外れるほうに一枚」

「え、私? 私は当たる方ですっ。トムさんを信じてますから」

「いやはやお熱いことで」

「そういうんじゃないんですけど」

「まったくいちゃいちゃ見せつけてくれる」


 ガイとクエが俺とエルナをからかって遊んでいる。

 他にすることもなく、かといってこの場を動けないので、ストレスが溜まる。


 エルナもべーと舌を出して、態と俺にすり寄ってきてきた。

 エルナの甘いいい匂いがする。

 彼女の特製シャンプーの匂いだ。この辺では珍しい花の蜜を配合したもので、町で買うとめちゃくちゃ高いらしい。


 俺が手にしていた銃を構える。

 一応、すでに万が一に備えて弾は装填してある。


 バンッ。


 近くで遊んでいた茶色い鳥が落ちる。


「すげぇ」

「よく当てるな、あれ。散弾銃じゃねえんだろ」

「ああ、これはスラッグ弾だ。実は散弾も使えるけど、あれは獣の皮に無力で使ってない」

「ほーん」


 散弾銃は内部に小さな弾がたくさん入ってる弾なのだが、飛距離が短くかつ貫通力が弱い。

 鳥やゴブリンなど当たりにくいターゲットには有効だが、俺の用途では使い道が少ない。


「はい、俺とエルナに銀貨一枚ずつだぞ」

「ああ、ほれ」


 銀貨を放って投げてくるのを空中でキャッチする。

 マリエール銀貨だ。表には千を表す文字の頭文字の刻印。裏には三代前の王妃であるマリエール・シンビアン・エルダンタイム王妃のプロフィルが描かれている。

 プロフィルというのは横顔の肖像画のことだ。

 結婚当時、金髪ロングの十七歳のとびっきりの美少女だったそうだ。

 肖像画でもストレートに流れる長髪が描かれている。


 俺たちは撃ち落とした鳥を回収して、捌いてアイテムボックスに放り込んで置く。

 明日の朝ご飯に入れよう。


「トムさ~ん。おーい」


 遠くから声が聞こえる。

 あの高くて甘いロリ声はミリアリアちゃんだろう。


 小さい一角の白馬が飛ぶ勢いで走ってくる。

 もちろん背中にはミリアリアちゃんが軽装でしがみついていた。


「よう、ミリアリアちゃん。どうした?」

「どうしたじゃないよぉ」

「なんだ」

「私も雇われたというか男爵家だからね。応援を頼まれた」

「ほーん」

「つまり輸送班だ。もうすぐアフェリア騎士団が到着する」

「あ、了解」


 つまりアフェリア騎士団に随行してきたが、遅いので先に知らせにきてくれたと。

 ありがたいことだ。


「んじゃ今日はここで泊まるらしいから。鍋とテントを出そう」

「おう」


 ミリアリアちゃんがテント、食糧、鍋、魔道コンロなどを次々と出してくる。


「んじゃエルナちゃん。鍋よろしく」

「はーい」


 小麦の皮を剥いてあるオートミール用のものにすぐ近くの沢から水を汲んできていれる。

 このオートミールはミリアリアちゃんの物資だ。

 少し鍋をガイに見てもらう間に、エルナが適当に近場から薬草を摘めるだけ摘んできた。

 美味いほうがいいに決まっているので、俺の出資で干肉を少々。

 こうして薬草と干肉のオートミールが完成した。

 もう少し煮立てれば完成だ。


「おーい」

「おおぉ」


 そこへくだんのアフェリア騎士団がご到着となった。

 遅いわけだ。主力はみんな徒歩だった。

 馬とか馬車とか出してくれなかったらしい。


 もちろんメインの騎士様は馬に乗っている。

 しかし後ろには銃を担いだ銃歩兵が十人ほど随伴していた。


「銃歩兵ね。これが子爵様お抱えの銃部隊か」


 真っ青のお揃いの制服はなかなかかっこいい。

 銃歩兵にベテランは少ないようで、みんな顔からして若い。


「おぅ、もう食の準備ができてるじゃないか。ありがてぇ」

「助かるよ」

「ジャリバン村だったか、ごくろう」


 最後の発言は隊長の前にいる馬に乗った偉そうな人だ。

 つまり領主エルダン・アフェリアその人だった。

 なるほど領主自ら視察すると。そりゃあ領主の手柄というからには自分が出てくるのが一番説得力がある。


 飯はそこそこうまい。

 なんとか穏便に事が進むことを願った。


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