[ドラ中]異世界駆け出しガンナーのお肉生活

滝川 海老郎

1 駆け出しガンナーとエルナ

 俺はガンナーだ。

 ガンナーつまり銃使いは現在、ハンターの一種だ。


 昔は冒険者もハンターも同じようなものだったらしい。

 しかしモンスターは数千年の間、姿を変えることなく今なお冒険者の相手をしている。

 一方、野生動物と言われる獣たちは人間に狩猟されるうちに皮が厚い個体が多く生き残り、その結果として進化したと言われている。

 なまくらな剣では獣を倒すことができない。

 そこで銃と言われる魔法火薬で弾を打ち出す武器が開発されて発展してきた。

 モンスター肉は人間の食べるものではない。

 家畜もいるにはいるが、特に都市部ではその土地を割くのは難しい。

 野生動物の肉は今もなお、人間の食糧として必要とされていた。


 とにかく――。


「肉は美味い。だから俺はガンナーになった」

「へぇ、そうだったんだ。確かにお肉美味しいよね。高いけど」

「高いからいいんだろ。俺の食い扶持が稼げて」

「さようですなぁ、トムさーん」


 俺に突っかかってくるのは、なんでか知らないが金髪の美少女エルナ。

 今年で十六歳になるらしい。


 金髪それ自体が珍しい世の中だ。

 その金髪が背中まで絹のように流れているさらさらロングヘア。

 これを切って売れば、金の髪が金貨に化けるという、村の噂がある。


 もちろん寝ている間にやれば簡単だ。

 だがそんなことはしない。エルナがガチ泣きするに決まっている。

 美少女は笑顔を浮かべているときが一番かわいい。


 胸、聞くな。ないものはない。

 一瞬、超美形の男の娘かと思うくらいだが、よく見るとほんの少しだけ膨らんでいるのを俺は知っている。

 こう背丈の低いエルナの顔から視線をさらに下げても、そこは服の厚みでよく分からない。


「ねえ、聞いてる? トムさーん」

「なんだよ、今、考え事をだな」

「どうせ私のおっぱいが少ししかないとか思ってるんでしょ」

「なっ、なぜそれを」

「トムさんの目、目線、ちょっと下の方見てエッチだった」

「うぅっ」


 確かに一瞬、顔から視線を下げて胸を見たさ、ああ。

 でも一瞬だぞ。それを目ざとく気づくのか、女の子は怖い。

 まあ、こんなことを会話しても大丈夫ぐらいに俺に懐いてしまった。


 事のあらましはこうだ。


 今から一週間前。

 一年間のガンナーの師匠との修行から別れて実家の村へ戻ってきて二月。

 駆け出しガンナーの俺は、町で調達した相棒の初心者用ライフルで森の中を獣を探して歩いていた。

 気配には敏感だ。


 獣も気配にはそこそこ敏感で人間に気が付くとほとんどの場合、逃げてしまう。

 襲ってくるのはびっくりした時と決まっている。


 モンスターも出る。スライムそれからゴブリン、コボルトなどがこの辺にいる。

 グリーンスライムは取るに足らない存在で無視されている。

 ゴブリンは集落があって、もう少し東側に多い。こちら側はほとんど出ない。

 モンスターは集団で襲ってくる習性があるので、ガンナーの天敵でもある。

 ガンナーもそういう時はライフルの代わりに剣を使う。


 それでだ、命知らずのエルナはこの森でひとりで薬草を採って歩いていたのだ。

 信じられない。こんな子が独り歩きとか。

 錬金術師の卵だと言っていて、その薬草知識には確かに感銘を受けるほどだが、それとこれとは話が違う。


「ぎゃああ、ボア、ボアがあ」


 森の中で彼女の悲鳴が聞こえた。

 たまたま聞こえる距離に俺がいたのだ。


「くそ、ボアに近すぎる」


 俺は狙いを澄ます。

 幸いなことに俺の銃は散弾銃ではなく一発の単装式だ。初心者用なので。


「よし、彼女がちょうど見えない、今だ」


 バキューン。

 そして興奮したボアをなんとか撃って仕留め、彼女を助けた。


「うわあああん、トムさん! トムさーん、トムさん、トムさんトムさん、怖かったぁ」

「あ、ああ。無事か」

「無事じゃないよう。ほら、膝、すりむいちゃった」

「そうだな、自分の薬草塗ろうな」

「うわーん。トムさん塗って」

「え、ああ、やりにくいか、わかった」


 俺が膝の頭に彼女の作った薬草ビン、ポーションを掛ける。

 あっという間に回復していく。


「ありがとう……」

「いえ、ああ。すごい効き目だな」

「うん。これ作るのにどうしても森にはこないといけなくて」

「そうか。一人じゃ危ないぞ?」

「うん」

「誰かと一緒に行動しろな」

「うん。トムさん、お願いね」

「ああ」

「いいの?」

「どうせ、他に居ないんだろ。こんな無茶して追いかけてきて」

「うん……」


 そう。近いのには理由があった。

 俺の後ろを追いかけてきて、近くの薬草を採っていたのだろう。

 遠くならないように、しかし近づきすぎないように距離を取っていた。

 まったく無茶をする。


 彼女は少し前にこの村にふらりとやってきて、宿屋もしている村長の家に泊まっていた。

 この村の周辺の薬草を採ってポーションを作り、家々に配り信頼を得て、現在はそのポーションを売って生活している。

 村に出入りしている商人にも売れるだけ売っているようだった。


 この一件以来、一人暮らしだった俺んちに居候している。

 宿代が浮くとうっきうきで男の家に上がり込んできた。

 もちろん両親が昔使っていた古いベッドを使ってもらっているが、俺は心穏やかとはいかない。


 俺は容量が少ないもののアイテムボックスが使える。

 これくらいなら別に珍しくはない。しかし個人用としか言いようがない。

 体重二百キロ前後のクマくらいまでなら、なんとか入る。

 ガンナーになるのを後押ししてくれた理由の一つだ。


 この一週間、二人で出かけて、エルナは薬草を採りを。

 俺は可能なら獣を狩ってくる。

 家に獲物を持って帰ってきたら解体して、生肉を村の家々に売って歩く。


「お肉、取ってきたよぉ。おばあーちゃんっ」

「おお、エルナちゃんめんこいのう。おばあちゃん、お肉買っちゃう」


 おばあちゃんがお肉をブロックで買ってくれる。


「お代はいつもの野菜でいいかい? なにがいい? トマト、ナス、キュウリ」

「あ、はい。ほどほどで。十分貰っていますので」

「そうかいそうかい。いやぁいいお嫁さん貰ってトム坊も安心だねぇ」

「お嫁さんじゃないですって、それに坊やもそろそろ……」

「あははは、いつになってもトム坊やだよ、このっ」


 おばあちゃんは歴戦の勇士なので、俺ではとても敵わないな。


 エルナは俺の横で、お嫁さんループに入りテレッテレだった。

 この状態になるとしばらく戻ってこない。


 エルナには感謝もしている。

 口下手な俺は村に戻ってきてからというもの、やや浮いていた。

 肉は感謝されるものの、あまりいい顔はされていない。


 それがエルナが笑顔で接客しだしたら、みんな人当たりがずっとよくなった。

 よっぽど俺は無愛想だと思われていたらしい。

 エルナにつつかれて、今では誤解もだいぶ溶けた。


 だからとても感謝しているのだ。


「お肉にお野菜、それにアレンじいさんのキノコ!」

「ああ、今日はいい日だな」


 アレンじいさんは村一番のキノコ採りの名人だ。

 季節を問わず、何かしらキノコの戦利品がある。


「具沢山スープでーす。こんなの村長の家でも食べられませーん」

「そ、そうなのか」

「そうでーす。では、いただきます」

「いただきます」


「「美味しい!」」


 こうして二人で具沢山スープを食べる。

 肉が多めなのがまさしく贅沢品だ。


 村長の家もお肉は買ってくれる。渡されるのは現金だ。

 俺の数少ない現金収入なので、こちらも大変あがりがたい。


 そして俺とエルナの横には、ザルに広げ陰干ししている肉が並んでいる。


「ジャーキーもいい感じだな」

「エルナさんに感謝してよぉ」

「おお、エルナ、いつもありがとう」

「えっ、えっ、んっ、ううん」


 俺が感謝を述べるとエルナはいつも少し恥ずかしそうにうなずいてくれる。

 こういうときの表情はとてもかわいい。


 エルナのおかげで二人で肉を切る作業ができて時間短縮効果はかなり高い。

 なるべく新鮮なうちに乾燥させた方がよいとされている。

 アイテムボックス内であれば時間経過はしないが、作業をするときには出しておく以外にはない。


 夕ご飯を済ませて、片づけをしたら、もう寝るだけだ。


 エルナが普段着を脱いで、寝間着になる。

 寝間着は薄着なので、胸が少しあるのがはっきり分かる。

 だから俺だけは知っているのだけど。


 エルナは準備が終わったのか、もぞもぞとベッドに入っていく。


「おやすみ! トムさーん!」

「ああ、おやすみ、エルナ」


 俺たちは小さい我が家で同じ部屋でベッドを並べて寝る。

 家が広かったら部屋を分けるのだろうが、物理的に無理なものは無理だ。


 こうして今日も忙しい一日が過ぎていった。


 すーすーとエルナの寝息が聞こえる。

 俺の『お姫様』はこうして今日もお休みになられました。


□◇□◇□─────────

 こんにちは。こんばんは。

 【ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門】参加作品です。

 他にも何作か参加していますので、もしご興味あれば覗いてみてください。

 よろしくお願いします。

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