髑髏屋敷にようこそ④


「ですから私はこれから少しずつ、エドウィン様と一緒に街歩きの回数を増やそうかと思っていまして」


 今日は、皆さんへのお礼としてバーベキューを開催しましたが、もう一つの目的としてこの頼みごとがありました。


 なんだか高級お肉を餌にして断れない状況を作ったみたいになっていますが……いえ、正直に言いましょう。狙ってました!


 でも、本当に無理難題ではないのでぜひ聞いてもらいたいのです。


「まずはギャレック領の人たちから。少しずつ本当の姿を知ってもらって、エドウィン様が本当はとてもお優しい方なのだという噂が広まっていけばなって」


 恐ろしい印象ばかりがついてしまって、誰も訂正しないんですもの。髑髏師団の人たちですら、エドウィン様の本当のお姿を知らない人が多いみたいですし……。


 さらにいえば、親しい方はみんな実力者。彼らが「エドウィン様は偉大な方だが、怖くない」と言ってもあまり説得力がないと思うのですよね……。

 それは強者であるあなた方だから言えるのでしょう? と思っちゃうじゃないですか。


「ですから皆さんに協力してほしいのです。言いふらすのではなく、それとなく、少しずつ、エドウィン様が優しくて美しい方だという噂を流してもらえませんか?」


 だからこそ、冒険者の皆さんという一般的な意見が重要になってくるのです。身内ではない、客観的な意見が噂として広まってもらいたい。


 あの時、私たちのデートを目撃してくれたコレットさんとリタさんには感謝しかないのですよね。予定外ではありましたが、ビッグチャンスでした。

 誤解させて驚かせてしまったのは申し訳ないのですけれど。


 あーだこーだと私が考えごとをしていると、モルトさんが最初に返事をしてくれました。


「その、協力するのは構わないんだが……急ぎすぎではないかと少し心配なんですが」


 彼の言葉を聞いて私は少しだけギクリとしました。実のところ、焦っているのは確かだからです。


 エドウィン様に無理をさせてしまわないよう、こういうことはゆっくり、じわじわと進めるのがいいに決まっているんですよ。わかっています。


「……えっと。出来ればですね、そのぉ」


 でも、それには訳がありました。実に自分勝手で、私のワガママとしか言いようのない理由が。


「け、結婚式の時にはっ! エドウィン様の素顔で出てもらえたらって、お、思っていて……!」


 きゃー! 言っちゃったーっ! 恥ずかしいっ!!


 両手で頬を押さえ、ブンブンと身体を左右に振る私はちょっと、いえかなり鬱陶しいですね。でも、動いてしまうんですもの。許してください。

 とはいえ、落ち着かないと! はー、顔が熱いです。深呼吸、深呼吸。


「こ、これはただの私のワガママです。もし、それでも難しければ無理強いをする気もありません。でも、でも」


 一生に一度の結婚式。私には無理だと思っていた結婚ですが、それなりに憧れというものは抱いていました。


 豪華な式にしてほしいとか、誰よりも美しいドレスが着たいだとか、見たこともないお料理がいいとか、そんなことは言いません。むしろ質素でいいのです。

 あ、辺境伯の結婚ですから質素にはならないでしょうけれど。ともかく、そういうことではないのです。


 私の目的は、ただ一つ!

 両手を頬から離し、私はパッと顔を上げて皆さんを見ました。そして両拳をギュッと胸の前で作りながら口を開きます。


「タキシード服のエドウィン様……絶対に素敵すぎますぅ! 見たいのです! 私はエドウィン様の晴れ姿が見たいのですよ!!」


 完全に己の欲望で突き進んでいる自覚はあります! 

 が! 譲れない、譲りたくない。この思い!


「ど、髑髏仮面の花婿と並ぶのが嫌だから、とかじゃないんですね……?」

「ぷっ……あははっ! ハナ様ったらブレなーい!」

「まぁ、らしいですよね。逆に安心しました」


 モルトさんが呆気に取られたようにポツリと呟き、コレットさんは大笑い、リタさんは苦笑を浮かべています。

 ローランドさんはどうでしょう? いまいち感情が読めませんがぽかんと口を開けたまま固まっているので呆れられているかもしれません。


 概ね、予想通りの反応ですね。ごめんなさい、取り繕うということをしない女で。


「あっはっは!! 花嫁のかわいいお願いかと思ったら……ひひっ、斜め上だったねぇ!」


 突然、背後から大きな笑い声が聞こえてきたので全員がビクッと肩を揺らしてしまいました。声の主はゾイです。どうやらツボに入ったようでお腹を押さえて笑っています。


 え……そんなに面白いことを言いましたかね? おかしいことを言った自覚はありますけれど。


「いいねぇ、ハナ様。あたしもその考えには賛成さ。あたしだってエドウィン様の晴れ姿が見たい。おそらく、ここで働く老人共はみぃんな同じ気持ちだろう」

「いえ、エドウィン様のお姿をご存じなら誰もがわかってくださるはずです!!」

「あはは! ハナ様の愛はわかったから、これ以上笑わせないどくれ! ひぃっ、ひひひ……」


 すみません、何がゾイをそこまで笑わせるのか私にはわかりません。でも、こんなに苦しそうなゾイは初めてですし、心配になってきたので黙ります。


 けれど、嬉しそうでもあるので私の提案はそこまで悪くはないのかもしれません。冒険者の皆さんも楽しそうに笑っていますし!


 もしかしたらもしかするかも……? いやいや、でもエドウィン様のお気持ちが第一ですからねっ! ちゃんと確認しますとも!

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