手繋ぎ初デート④



 屋敷を出て暫く歩いた頃、町に近付くにつれてエドウィン様がソワソワとし始めたのを察知しました。


 本当は馬車で町まで向かうのが普通なのですが、それだとエドウィン様の正体がバレバレになってしまうので徒歩で向かうことにしたのですよね。大した距離ではありませんしね。

 ただ、こうして手を繋いで歩いていると距離が近いからかちょっとの変化がよくわかると言いますか。


「あの、エドウィン様。大丈夫ですか?」

「だっ、大丈夫……と言っても、説得力はないな。すまない、ハナ」


 しゅん、としたエドウィン様の頭に垂れた耳の幻覚が見えますね……か、かわいいっ!


 っと、萌え転げている場合ではありませんでした。せっかくのデートなのです。どんなお姿でも素敵すぎますが、出来れば笑顔になっていただきたい!


「情けないことに、とても緊張している。ハナと手を繋いでいるのもあるが……顔を出して外に出るのは本当に久しぶりだから」


 苦笑するエドウィン様は、握る手の力を少しだけ強めました。……ああ、不安なのですね。


 ここでいくら大丈夫、と告げたところで気休めにもなりませんよね。どうにか自信を持ってもらい、そんなこと気にもならないくらいに楽しい時間を過ごせたら良いのですが……。


 無駄なお喋りには自信がありますが、気の利いた言葉をかけられるかはわかりません。ですが、やらないよりやるべきでしょう。私には何もしないという選択肢はないのです!


「エドウィン様は、意外と手が大きいのですね」

「え?」


 急に話を変えた私に、エドウィン様はきょとんとしたお顔を見せてくれました。かわ……ああ、落ち着きましょうね、私。


「気に障ったならすみません。その、白状すると、そんなに手の大きさも変わらないだろうなって思っていたんですよ」


 えへへ、と笑いながら失礼なことを口走る私。案の定、エドウィン様は少しだけムッとしたようなお顔になりました。実は顔に出やすいですよね、かわいいです。


「でも、エドウィン様の手は思っていたよりもずっと大きくて、力強いです。硬いですし。男の人の手って感じで……とても頼もしい手です」


 そう伝えながら、私はキュッとエドウィン様の手を握りしめました。

 正直、恥ずかしすぎて爆発寸前なのですが、頑張れ私! 笑顔、笑顔……!


「大丈夫ですよ、何も怖くありません。もし、誰かが何かを言ってきたとしても、私がお守りします!」


 誰よりもお強いエドウィン様をお守りするなんて、烏滸がましいことだとはわかっています。でも、繊細な彼の心くらいは守りたいと思うのです。婚約者として!


「……誰かに守られる日が来るなんて、思ってもいなかった。ハナはいつも、俺に驚きをくれるな」


 暫くの間を置いて、エドウィン様はふわりと微笑んでくださいました。

 それから軽く深呼吸をすると、先ほどまでとは打って変わって自信に満ちたお顔になります。切り替えがお早い!


「君には情けない姿ばかり見せてしまっているな、俺は」

「そうですか? どんなお姿でもエドウィン様は素敵ですので問題ありませんよ!」

「あ、あまりそういうことを言うな……」


 本心ですのに。困ったように顔を赤くするエドウィン様でしたが、先ほどとは違って少し楽しそうにも見えました。


「ありがとう。とても心強いな。俺も、ハナのことはどんなものからも必ず守る」

「ふふ、ありがとうございます。でも今日はデートですので! 楽しむことを優先しましょう?」


 まるで戦いにでも行くかのような言葉に、私はクスクス笑ってしまいます。エドウィン様もようやくそうだな、と言いながら声を上げて笑ってくださいました。


「ではハナ。まずは一つ約束をしてほしい」

「約束、ですか?」


 街の入り口に差し掛かった時、エドウィン様が小声で提案をしてきました。なんでしょう? どんな約束でもしますよ、私は!


「町に入ったら、俺のことはエドと呼んでくれ。その呼び方だとさすがにバレてしまうかもしれない」


 そう意気込みはしましたが、なかなか難しいことをおっしゃいますね! けれど、身バレを防ぐためには必要だということくらいわかります。勇気を出して、愛称で呼ばせていただきましょう。


「そ、そうですね! で、では、エド様……」

「エド、だ」


 よ、呼び捨てですかぁ!? ブワッと顔が急速に熱くなっていきます。

 くっ、さすがは最強と名高い髑髏領主様……! 手強いです! けれどどんな約束でもしてみせると決意した手前、引くわけにはまいりませんね。落ち着きましょう、スーハー……よし。


「え、エド……?」


 決意だけはあるのですが、いざ呼んでみるととても恥ずかしくて小さな声になってしまいました。ですが、どことなく距離が縮まったような気がして嬉しくもあります。


「ああ」


 エドウィン様も満足そうに口角を上げていらっしゃいました。あ、良かった。満足していただけて……


「普段も、そう呼んでくれて構わないぞ」

「っ!」


 でも、やはり髑髏領主様は手強いようで。


 ご要望の難易度が高いのですよーっ! お手柔らかにっ、お手柔らかにお願いしますってーっ!


 こうして、顔を真っ赤にしてしまった私の手を引き、エドウィン様はどこかご機嫌な様子で人の多い大通りへと向かいました。先ほどまでとはまるで別人のようです。


 ま、まぁ、緊張が解れたのなら良しとします! 私も、いつまでもときめいてないで、楽しむことだけを考えますよー! はぁぁっ、エドウィン様かわいいっ!!


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