第10話 バンフ~ジャスパー 自転車一人旅

 6月12日。

 今回の海外一人旅の最大のハイライトの一つ、バンフ~ジャスパー間自転車での往復旅をスタート。

 日本を出発する時には考えてもいなかった冒険に胸が躍る。


 バンフの街を北に抜けた後、サンシャインスキー場やレイクルイーズスキー場に行くのに何度も通ったバス道に出る。トランスカナダハイウェイである。バンクーバー方面へと左折する。右手にカナディアン・ロッキーの山並、左手に湿地帯や湖沼群を見ながら気持ちよくペダルを漕ぐ。路傍には名も知れぬいろんな野の花が可憐に咲いている。

 やがて右手に頂上がゴジラの背中のような山が見えてきた。アイゼンハワー・マウンティンというようだ。バンフから近いので良い目印になる。


 バンフからレイクルイーズの街までは50㌔、3時間ぐらいかかった。ハイウェイを左折してルイーズ湖へ向かうに及んで急勾配になり腰が痛い。3㌔上りっ放しで少々脚が疲れたが無事到着。ルイーズ湖は、スキー場からは一度も見えた事はなかったが、見えない場所にあったのか氷と雪に覆われてたのか今もって分からない。日本でもお馴染みのその美しい姿がそこにあった。しかしながら、ひねくれ者の私にはそこまでとは思えない。あまりにも整然と整備されていて神秘性がない精か⁉

 ルイーズ湖の背後にある小さな山に登って、アグネス湖に向かう。途中からのルイーズ湖はエメラルドグリーン一色で美しかった。アグネス湖で見つけた小動物はマスクラットのようだ。


 翌朝、自転車一人旅の緊張の精か4時に目が覚め7時過ぎまで寝付けなかったが、少しウトウトして9時に起きた。ルイーズ湖とともに有名なモレーン・レイクに向かう。3㎞引き返した後右折して10㎞上る。1時間10分で到着。


 喉の渇きを感じてティールームに入ったらサンシャインスキー場で働いていた太めのおばさんがいた。"Have You ever worked in Sunshine?" と訊いてみたら、"Not too much." と返ってきた。

 自分では「サンシャインで働いていましたよね?」と訊いたつもりだが、発音の精で「天気、良いですか?」と取られたのかな…と思う。

 モレーン・レイクは後方にテンピークスという10ぐらいの峰を有する山を従えた美しい湖である。日本では圧倒的にルイーズ湖が有名であるが、ヒロはこちらの方が好きだと言っていた。私も同意見。ルイーズ湖はシャトー・レイクルイーズなど宿泊施設やレストランがあり周囲の環境も整備されているが、こちらはティールームが一軒だけ。それだけ山の湖の風情がある。

 今夜は連泊。このDeer Innと言う安宿、庶民的で居心地が良い。


 6月14日。

 今日はサスカチェワン・クロッシングまで行く予定で9時半過ぎに出発した。

 バンクーバーに向かうトランスカナダハイウェイから分かれて右側の北東へ向かい、パークウェイ・ハイウェイに進路を取る。

 出発時は晴れていたが1時間後には何やら雲行きが怪しくなってきた。6月だというのに雪が降り始めた。13時過ぎに湖のすぐ横手に小さなロッジが見える。身体も冷えてきてたので予定外に宿泊する事にした。

(後で調べると、湖はボウ・レイクという名)


 翌朝起きてすぐ、外に出てみると何と銀世界。重たそうなボタ雪がボタボタと降り続いており、一向に止む気配がなく連泊する事にした。

 朝食の時のウェイトレスはとても感じの良い娘だった。"Is there a Lodge on the half way to Columbia Ice Field?"(コロンビアアイスフィールドへの途中にロッジはありますか?)という質問に対して地図を描いて説明してくれた。

 5月初旬からここで働いているそうで、9月には大学に戻るそうだ。将来医者を目指す医学生である。


 翌朝、未来の医学生にお別れの挨拶をして出発した。ロマンティックなカッコいいお別れ…と思いきや、10分も経たないうちに雨雲が拡がり始め、あっと言う間に雨になった。寒い。結局引き返し3連泊する事になった。何ともカッコ悪い。映画のシーンのようには行かない。

 一度チェックアウトしたので、別の部屋に代ったが、その時休憩室に入ったらエルクやムースの角を使った椅子があったので掛けてみた。偉くなった感じ。

 明日の晴天を祈願しながら雨の一日、のんびり過ごした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る