第2話 ヒロとの出逢い

 列車がバンフ駅に到着して先ず最初にした事は荷物の確認だった。見つけた時はほっとした。バンフ駅は無人の小さな駅である。

 ガイドブックの地図を頼りに、取り敢えず1週間宿泊予定のホテル、Cascade (カスケード) Inn(イン)に無事到着した。ビルの2階がホテルで、1階は『近江屋』と言う日本レストランである。和食が食べられそうで助かる。


 先ずは風呂で旅の垢を落とし、土産物屋に入ってみた。無事現地入りを知らせるべく絵葉書を買う為である。ここで思いもよらぬラッキーハプニング。絵葉書を持ってレジに行くと店員から思いもよらぬ日本語を聞くことができた。


「日本人ですか?」

「えっ? あ、そうです」


「僕も日本人です」

「あっ、そうですか? いやあ、分からなかった。メキシコ人かと思った」


「ヒゲ、生やしてるからね」

「そうやね」


「いつ、着いたの?」

「今日、昼前」


「グループ・ツアー?」

「いや、一人。ツアーは嫌いなんで」


「何日ぐらい、滞在の予定なの?」

「うん。バンフにはスキーで、1か月ぐらい。その後、ゆっくりアメリカ方面に南下して行こうと思ってる」


「ホテルはどこに?」

「すぐ前の、カスケードイン」


「1か月、ずっと?」

「うん、取り敢えず1週間。あと、安い所があったら代るけどね」


「じゃあ、うちへ来たら良いよ。1か月も居るんなら、勿体ないよ」

「ええっ!?」


「1日、5ドル。その方が安いよ」

「ああ。それは助かるねえ」


「最近まで、日本人の女性が居たんよ。彼女が日本に帰ったんで、丁度ベッドが空いてる」

「ほーお、そうなの。じゃあ、ホテルは2~3日でキャンセルするんで、よろしく」


 まさか、現地到着早々こんな素敵なハプニングが待っているとは!

 『近江屋』で夕食を済ませた後、彼の働く店[冬はスポーツ店、夏は土産物店になるようだ]で待ち合わせ、マンションに行き、部屋を見せてもらった。2LDKぐらいで1か月250ドル払っているとのこと。ホテルには2日宿泊した後キャンセルして、翌々日からお世話になることにした。


 彼は割とよく喋り、いろんな話を聞くことができた。

 名は『〇〇〇〇 ヒロシ』と言い、通常『ヒロ』と呼ばれている。3年前から住んでいるそうで、最近までバンフで知り合った日本人旅行者の女性と一緒に住んでいたそうだ。

 彼女は日本にいる両親から帰国命令があって帰国したとのこと。

 バンフの人口は4000人で、そのうち日本人は40人。夏に、ゴルフをやる日本人は月に一度日本人会としてプレーをするようだが、ヒロはやっていないそうだ。


 2時間半ほどお邪魔して、ホテルに戻った。初日早々、良い一日であった。 

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