第6話 団員になる前に見習いになった

仮面サーカス団に着くと数十人の背広を着た男たちが列に並んでいた。

空我は自分の来ていたジャケットを秋に着せた。

小学生にはブカブカなジャケットだったが、空我はごめんな、これしかなくて。と謝った。

秋は大丈夫ですと言ってジャケットの袖口を折り、自分のサイズに合わせたのだった。

列に空我と一緒に並び、受付で空我は推薦書を出して、番号の15番を貰い、秋の胸に15番という札を着けた。

空我は秋に外で待ってるからと言って出ていった。

番号は順々に呼ばれ、12から15番の方来てくださいと列になり、部屋へと入った。

面接官と思われる人は3人いた。

1人は髪が長く、1人は角刈りで、もう1人はお爺さんだった。

明らかに真ん中のお爺さんが偉いのだろうなと思った。

真ん中のお爺さんが一言話したのだった。

『玉田だ。君たちは何歳だ?』

右から順に、20歳、32歳、52歳、11歳と答えた。

秋が11歳と答えた時、周りがざわついた。

玉田は一呼吸置き言った。

『お前、魔術情報誌は読んだのか?確かに年齢は不問と書いたが、若すぎる。推薦書も見たが、お前は何故このサーカス団に入りたい?』

僕は玉田さんを見て言った。

『僕は転生してここに来ました。あの世に来る前、電話ボックスで母のメッセージを聞いて、母に会いに来ました。でも、母は僕より大切な人がいました。僕にはもう僕を大切に思ってくれる人は居ません。空我さんだけが僕を大事に思ってくれました。僕の夢は玉田さんのように苗字を手に入れて、強くなることです。そのために、仮面サーカス団に入りたいんです。よろしくお願いします』 

玉田は黙り、他の2人に合図を送った。

2人は咳払いして片方が言った。

『すみませんが、12番から14番の方の合否はこの後発表致しますので、一度席を外して下さい』

玉田さんは僕を見て言った。

『団員には残念ながら幼すぎて無理だが、見習いならいいぞ。15番、名前はなんて言うんだ?』

秋は言った。

『僕の名前は秋(あき)と言います』

玉田さんは言った。

『それじゃあ、秋。君は今日から見習いだ。見習いはもう1人いるから後で紹介する。今回の団員試験の合格者は誰も居なかったことにしろ。見習い2人で手一杯だからな。それから、今日でこの街を離れるから、今のうちに秋は空我にお別れをしろ』

秋は玉田さんに頭を下げ、部屋を出た。

部屋を出ると試験を受けた受験者が、団員になれなかったことに腹を立て、抗議していた。

その抗議に対して、髪の長い1人の男が仮面を被り、何かを唱えたと思ったら、周りで抗議していた方々は皆、ここで何をしていたんだろうとワケが分からなくなっていた。

そんな彼らに仮面を外して、髪の長い男は言った。

『皆さんは今日で最終日のサーカスを見に来たんですよね。今日はスペシャルな日ですから。その番号が書かれたバッチも整理番号ですよ。

今日は観に来てくれてありがとうございます。もうすぐ始まるので待ってて下さい』

その姿を見た秋に対して男は口に人差し指を立てて、ナイショにしてねと言った。

僕は素直に凄いと思った。

これが魔法なのだと驚いた。

秋は思い出したように空我に駆け寄った。

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