異世界学園記~異世界転生してチートスキルを手に入れた俺と婚約破棄された悪役令嬢とパーティ追放されたハズレスキル使いと力を隠していた聖女の四人で仲良くやる話~

棘沢忍

第1話

Case1.東森黒矢の場合 


 白い床、白い壁、白い天井。


「えー、まあ。ひとまず人生お疲れ様でした。」


 真っ白な服を着た偉そうな人。


「え?ああ、どうも」


 俺は相手の顔を見つめてみたが、いまいち感情の伝わってこない顔をしていた。


「はい、じゃあね。面倒なのは全部はぶいちゃうから。東森黒矢さんね。トラックにひかれて死亡。これから異世界に転生しますけどなにか欲しいスキルとか神器とかあります?」


「えっ、はい?えっ?」


 ここまで言われて、ようやく自分のおかれた立場に気付く。異世界転生だこれ。しかも俺トラックにひかれて死亡て。ベタベタにベタなやつだ。


「じゃあ、スキルを作るスキルとかって貰えますか?」


「OKじゃあそれで。いってらっしゃーい」


「待って待って早い早い早い」


 ないのか、説明とか。もうちょっとこう自分の死を噛みしめる時間とか。そんな事を考えている俺に構わず魔方陣らしきものがドンドン足を飲み込んでいく。


「いやいやいや説明的なものとか、『これからお主は魔王を倒さねばならない……』的な奴とか、いやそもそも俺が言うのも何ですけどスキルを作るスキルって最初から強すぎません?もっと最初はこういかにもハズレっぽいスキルで、それが後から覚醒するとか」


「えー、やだよ。一日に何人に転生すると思ってんのさぁ。マジで一日12時間勤務だからね私。マジで最近全然寝てないからマジで。もう新しいスキル考えるのも面倒くさいし、適当に頑張って下さーい」


「お、お疲れ様です……」


 他にも色々言いたいことはあったが、一日12時間勤務の部分が憐れすぎて突っ込めなかった。


スキルを生み出す金剛ダイヤモンドスキル【産めよ増やせよ地に満ちよ】を獲得しました


転送中………………


転送中…………


転送中……


Case2.姫川白雪の場合


 目が覚めると、そこは天蓋のかかったベッドの上だった。


「うわすっご……」


 生まれて初めて天蓋のかかったベッドなんて寝たよ。しかもやたらふかふかだし。天井にはシャンデリア付いてるし。


日本の中流階級の家庭でニートやってる私がなんでこんなとこで寝られるのかさっぱり分かんないけど、せっかくだし二度寝しーちゃお。


 そう思い目をつぶると、突然頭の中に誰かの記憶が流れ込んできた。


『シンデレラ、あなたみたいな愚鈍な女が妹だという事実だけで私吐き気が止まりませんの』


『シンデレラ、靴が汚れてしまいましたわ。貴女の舌で綺麗にして下さいまし』


『シンデレラ、食事中にその臭い口を開かないで下さいまし』


 うわ、悪。でも記憶の中の鏡に映ったそのいじめっ子の顔はとっても綺麗で、艶やかな銀髪で。ムカつくくらい美人だった。と、そのとき。シーツの上に広がっているのが見慣れた黒髪でなく銀髪なのに気付いた。まさか、いや、まさか。飛び起きて化粧台を覗き込むとそこには記憶の中で見たのと同じ顔。


「あ……、悪役令嬢に転生してしまった……」


 落ち着け私。この手の話は何度も読んで予習済みじゃないか。まず私がやるべきことは最悪の運命を回避すべく日頃の行いを改めて平穏な暮らしを……。


「入るぞ、ホワイト」


 そこまで考えたとき、扉の向こうから声が聞こえた。確かホワイトというのは記憶の中の性悪女の名前、つまり今の私のことだ。


「ど、どうぞですわー」


 私が返事をすると、凄い勢いで扉が開いた。扉の先に立っていたのは顔を真っ赤にしたおじさん。記憶の中に何度も出てきたホワイトの父親だ。


「どうなされましたの、お父様?」


「どっ、どうだと!? どうもこうもあるか!! 今までお前の傍若無人っぷりを見逃してきてやったのは、ひとえにお前がアンドレ王子と婚約を結んでいたからだ。しかしアンドレ王子が婚約を破棄した今となっては、お前はメアリー家の汚点だ。今すぐにこの家を出ていけぇ!!」


 神様、なんで手遅れになった状態で転生させたんですか……。


Case3.トーマス・ブラウンの場合


「トーマス、テメェはクビだ」


 突然の宣告だったが、特に驚きはなかった。


「理由は……言うまでもねぇよなぁ?」


 分かっている。理由とは、僕のスキルが余りにも使えない事だ。僕がこのギルド、『ホワイトサウンド』に引き取られたのは10歳の頃だ。僕の住むバラン王国のしきたりでは、全ての子供は10歳の時にスキル鑑定を受ける事になっている。


 鑑定ではスキルの効果と等級ランクが分かり、それに応じて子供は大まかな自分の進路を決める。鑑定の結果、僕は有史以来初の、どの等級にも属さない測定不能スキルを持っている事が判明した。


効果こそ「モンスターの体液を摂取することで対象のデータを取得する」というパッとしないスキルだったが、前例のない測定不能スキルということで、なんらかの隠し効果があることが期待されて名の知れた三ツ星冒険者パーティ「ホワイトサウンド」に引き取られた。しかし。


「結局、なんの隠し効果もねぇゴミスキルだったな。やっぱ無能すぎて測定不能扱いされたんじゃねぇの?なぁ、なんか言ってみろよぉ。仮にも一端の冒険者ならよぉ」


 6年経った今でも、僕のスキルは何の隠し効果も見つからなかった。といっても、ホワイトサウンドの人たちが真面目に隠し効果を探してくれたのは最初の半年だけで、それからは雑用兼仕事が上手くいかなかった時のサンドバッグ扱いだったけど。


 パーティの人たちが手伝ってくれなくなってからも、僕は1人で隠し効果を探し続けた。みんなに押しつけられた便所掃除や荷物持ちの合間を縫ってバイトを入れて、様々な薬品やアイテムを買っては使い新しい力に目覚めるのを期待し続けた。


 周囲からクスクスと笑い声が聞こえる。でも、何も言い返せない。きっとホワイトサウンドの人たちもガッカリしただろうけど、一番ガッカリしたのは僕自身だから。


「……今まで、お世話になりました」


「ハッ、ダッセ~~。だせぇ奴は最後までだせぇのなぁ。そんなだせぇ雑用君にぃ、俺からプレゼントォ。これ、冒険者学校の入学希望書類ぃ、ぷっ、アッハ、ダァーハッハッハッハッハ!!」


 今度は周囲も笑いを隠さず、大声で笑い出した。僕の年齢で冒険者学校に入学するのは普通の事だが、一度冒険者として活動した人間が改めて学校に入るとなると意味が違う。それは即ち、冒険者として通用しなかったと言うこと。落伍者の証。しかし、ここで書類を突っぱねる勇気など僕にはない。


「……ありがとう、ございます」


 僕が書類を受け取ったことで、場は更なる爆笑の渦に飲み込まれた。でも、ある意味僕には相応しいのかもしれない。学校に入って一からやり直すのが、きっと僕の身の丈に合った生き方なんだ。


 僕は冒険者ギルドを出ると、村の役所に向かって歩き始めた。


Case4.ルナ・アルテミスの場合


 バラン王国中央教会は最近毎日バタバタしています。それもそのはず、バラン王国北方で強力な悪魔が目覚めたらしく「魂」にダメージを負った冒険者が続出しているらしいのです。


 「魂」の治療が出来るのは、というか魂に干渉できるのはホーリースキルの持ち主のみ。ホーリースキルとはブロンズシルバーゴールド白金プラチナ金剛ダイヤモンドのいずれの階級にも属さないレアなスキルで、このスキルを持つ者のみが教会で聖女や神官として働けます。


 まあ、レアと言っても私が10歳のときには史上初の「測定不能スキル」の持ち主が現れたらしく、聖スキル程度では全然チヤホヤされませんでしたけどね。他にも同じ年に最強のスキル候補として名高い雷を操るスキルだの、同じく最強候補の時を止めるスキルだの、もはや反則級のスキルを作るスキルだのが現れてマスコミは毎日大騒ぎで黄金世代とか言われてました。今頃あの人達は冒険者としてブイブイ言わせてるんでしょうね、知りませんけど。


「おいルナァ、新規の患者が来たぞ。テメェみたいな凡庸な聖スキルの持ち主はこういうときぐらいしか役にたたねぇんだから今ぐらいチャキチャキ働けよなぁ、どんくせぇ奴だぜ」


 このおじさんが言っている、「凡庸な聖スキル」というのは魂のダメージを修復するスキルの事です。聖スキルがレアと言ってもここはその聖スキルを持つ人が集まる中央教会。魂のダメージを直すことしか出来ない聖スキル使いはレアの中のハズレ枠とでも言うべきか、ともかくこの中だと平凡な部類です。私はその中でも道具の力を借りなければ魂のダメージを癒やすことが出来ない落ちこぼれ……と、周りには思われています。


「よろしくお願いします。『ブルーバード』」


 聖杖の名前を呼んで、力を起動。いつも通りのお仕事です。


「何度みても情けねぇなぁ。道具の力を借りねぇと魂の治療も出来ねぇなんて中央教会の長い歴史を見てもテメェくらいなもんだろうぜ。さぞ居心地が悪いだろうなぁ。俺なら仕事止めちまうぜ」


「あはは、そうですかねー?」


 笑って受け流したはいいものの、このおじさんは一向に自分の持ち場に戻る気配がありません。何しに来たんだよ。暇なのか?


「あー、遅い遅い遅い遅い。確かに俺が若い頃もさぁ、今の俺よりは仕事が遅かったけどさぁ。今のルナちゃん程じゃなかったなぁ。なんかさぁ、ルナちゃんって仕事に対する熱意?みたいなものが欠けてるんだよね。最近の若い娘の特徴っていうか」


 治療も終わったので、おっさんの話を無視して出て行きます。やっぱりこの仕事は辞めるべきでしょうか。同僚からは影で笑われるし、先輩からはマウント取られるし、後輩は生意気だし。それに、そろそろ自分の本当のスキルを隠すのも疲れてきました。


 私の本当のスキル、それは道具に宿る魂に呼びかけて道具の本来の力を引き出す能力です。このスキル、先代の魔王が持っていたのと同じスキルらしく「全ての生き物は前世のスキルを引き継いで生まれてくる」という迷信が広く信じられているこの国では少し生きづらいスキルです。そこで、スキル鑑定所の職員さんにも相談して私の本当のスキルは隠蔽して貰うことにしました。


 魂のダメージを癒やすのは私のスキルで力を引き出した聖杖『ブルーバード』の力。ブルーバードの力でこれまで本当のスキルを誤魔化して生きてきましたが聖女は思いのほかしんどい仕事でした。次は何をやりましょうか。そんなことを考えながら歩いていた私の目に、「冒険者学校新規生徒募集」の文字が飛び込んできました。


「冒険者、か……」

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