図書室の神隠し (3)

 翌日、俺は二年の教室に行くことにした。

 五組の横を通り過ぎる時、それとなく中を確認したが沢渡の姿は見つからなかった。

 一年がいると目立つのではやく用事を済ませたい。

 できれば女子、それもよく喋りそうな人がいい。噂話が好きそうな女子だ。

 そう思っていると、ちょうど廊下の端で楽しそうに話していた二人組の女子生徒がいた。俺は渾身の弱り顔で声を掛けた。

「あの……すみません。僕、一年の天内って言います」

 二人はまったく見覚えのない俺の顔に怪訝そうな顔をした。

「二年の先輩で、行方が分からない人がいるって聞いて……何か話が聞けないかと」

 友達が行方不明でそれに繋がるような情報を探している、とはっきり嘘をついた。

 すると二人は先程までの警戒心を解いて、わかる限りのことを教えてくれた。

 二人の話はこうだ。

 行方不明なのは櫻井里奈さくらいりなという女子生徒。櫻井は目立つ方ではなかったが別段暗いというわけでもない、普通の生徒だった。

 行方不明になる少し前からは悩んだ表情をよくしていた。

 最後の目撃情報が図書室だったこと。

「櫻井先輩と仲の良い人ってわかりますか?」

 最後に聞くと二人は少し相談して答えた。

「五組の沢渡さんかなぁ」



 まぁ、そんなことだろうとは思った。いくら信憑性があっても、現実味を帯びていても、それは所詮、あくまでも噂に過ぎない。噂は噂だ。

 もし、出会って数時間の人間が、少し姿を消したくらいで涙を流すほどの理由があるとすれば、それは被害者がいること。

 仲の良い友人の失踪という非日常は、最近悩んだ素振りを見せていたという櫻井の様子と合わせて、沢渡に噂程度の超常を信じさせてしまうほどの説得力を持ってしまった。

「あっ、天内くん」

 放課後、たまたま沢渡と出くわした。沢渡は笑っていたが、表情や言葉の端々に暗い感情が見え隠れした。

「先輩、明日の放課後、図書室に来てください」

 図書室という単語に、沢渡は一瞬怯えたような表情になる。

「大丈夫ですよ。あんなのただの噂ですから」

 それじゃ、と沢渡の言葉を聞かずに校舎を後にした。



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