35. 悩めるカトレア

35. 悩めるカトレア




 午前の授業が終わり、オレとカトレアは食堂に行く。レオンは読みたい本があるからと言って、図書館へ行ってしまった。久しぶりにカトレアと2人きりになる。なんか緊張する。


「お腹すきましたね。ステラ様は何を食べるんですか?またシチューですか?」


「そうねぇ……」


 本当はステーキみたいなものをガッツリ食べたいのだが、オレは今、貴族令嬢のステラ=シルフィードだから、あまりイメージに合わないものは極力食べないようにしている。そんなことでオレが男だとバレるのはつまらないからな。


「私はサラダとパンにしようかしら」


「えー、もっとたくさん食べた方がいいですよ!成長期ですし!大きくならないですよ!」


 カトレアはチラチラとオレの胸を見ながら言ってくる。……お前もかカトレア。本物のステラにぶっ飛ばされるぞ?というかカトレアもそこまで大きくない。その前にオレは男だから気にしないが。


「ううん、いいのよ」


 本当は肉を食いまくりたいけどな。家に帰るまで我慢、我慢!そして席について昼食を食べ始める。するとカトレアが急にため息をつく。


「はぁ……」


「どうしたんですの?何か悩み事かしら?」


「はい……そうなんです」


 え……悩み事って好きな人ができたとかそういうのじゃないよな?もしそうだとしたらオレが許さないが。


 しかし意外だな。いつも元気で明るいカトレアにも悩み事があるなんて。どんな内容なのか気になるところだ。


「実は……明日から3日ほど両親が旅行でいないんです」


「あら……それは寂しいわね」


「はい……。なので私1人で留守番をするのですが、正直不安で仕方がないんですよね」


 確かにそれは怖いだろうな。1人ぼっちの家にいるのは誰だって嫌だと思う。しかも女の子だしな。なんか放っておけないよな……。


「それならご両親が帰ってくるまで、私の家に泊まりにくる?カトレアが良ければだけど」


「えっ!?そんな恐れ多いことできませんよ私は平民ですし!」


「平民より前に、私の友達じゃない。それに家にはリリスもいるから安心して。彼女は何でもお世話してくれるわ」


「そ、そうですか……じゃあお願いします。でも迷惑になりませんか?」


「全然大丈夫よ。むしろ大歓迎ですわ」



 ◇◇◇



「やっちまった~!!」


 オレは学園から戻り、あのワガママ令嬢の部屋で1人で叫んでいた。仕方ないんだ。カトレアを放っておけないと思ったからつい言っちゃったんだ!!


 オレはなんてバカなんだ。自分から男だとバレそうなことばかり言って……。もし疑われたら、もう完全に言い逃れができないじゃないか!ヤバい、どうすればいいんだよ!その時だった。突然部屋の扉が開き、そこからメイド服姿のリリスが現れる。リリスは少しだけ驚いた表情をしていた。


「ど、どうかなさいましたかエリック様?そんな人生の終わりのような顔をして?」


「リリス……助けてくれ!大変なことになったんだ!」


「何があったのかわかりかねますが、とりあえず落ち着いてください」


「これが落ち着けるか!カトレアを家に泊める約束をしちまったんだよ!」


「まぁ!それは素晴らしいではありませんか!やりますねエリック様!男は少し強引なくらいが丁度いいですよ!」


 なぜかテンションがあがっているリリス。その男だとバレたらオレは死ぬんだよ。こいつ、やっぱりオレで楽しんでるだろ?


「オレはバレたら死ぬんだよ!」


「それなら今からでもお断りをすればいいのでは?」


「そんなことできるかよ……リリス協力してくれ。明後日から週末。学園は休みだから。お前の力が必要だ!頼む!」


「まさかこんなにお願いされるとは。私は感激です。ステラ様は私にお願いなんてしませんからね。いいですよエリック様!私に任せてください。」


 すごく不安だが、今はリリスを頼るしかない。こうしてオレはカトレアを泊めることになるのだった。

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