♯17 盗撮には盗撮を

 僕が考えた制裁方法は「盗撮犯を盗撮し、その姿をネットに晒す」という方法だった。


 目には目を、歯には歯を、そして、盗撮には盗撮を…これは、古代ハムラビ法典の考え方に準じる制裁方法で、女装した僕がおとりとなり、リュックの背面に撮影状態にしたスマホを設置して、後ろの風景を撮影する…それだけで、盗撮犯の方から犯行の様子を撮影されに来てくれるという寸法だ。


 僕は計画を実行に移すことにした。


 まず、リュックの選定だが、僕は背面のポケットがメッシュになっているリュックを持っていたので、それを使うことにした。


 問題はスマホの固定方法だったが、予めスマホケースをリュックのポケットの中に固定し、撮影状態にしたスマホをケースに戻すことで解決した。


 また、カメラ前のメッシュの穴を広げることで、クリアな映像も確保できた。


 肝心の撮影時間も、画質を調整することで、バッテリーやストレージの容量に問題がないことが分かった。


 大学の講義を終えた僕は、京都駅で計画を実践することにした。


 いつも通り女子高生に変身した僕は、京都駅やその付近にある、あらゆるエスカレーターを1時間以上かけて上ったり下ったりを繰り返した。


 そして、部屋に戻った僕は動画を確認した。


 やはり、リュックに入れたスマホの動画は手ブレが酷い状況だったが、肝心のエスカレーターの動画は、立ち止まっている状態なので鮮明な動画が撮れていた。


 恐らく、盗撮犯がエスカレーターに乗った女性を狙うのも、手ブレがしないからだと思われた。


 僕が上りエスカレーターに乗った動画には、僕の後ろに立っている人物の胸から上がアップで映し出されていたが、肝心の手元が全く映っておらず、僕の目論見は外れていた。


 スカートの中を盗撮できる距離は、全身を映すには近過ぎたのだ。


 また、撮影中の画面を確認出来ないので、映したい画角にカメラを向ける事も出来なかった。


 僕の計画はいきなり破綻していた…しかし、得る事もあった。


 まず、本当に盗撮犯がいることが分かったのだ…しかも、何人も…。


 女装中の僕は、今まで自分が盗撮されていた事に気付いていなかったので、実際に盗撮する男がいる事に驚いた。


 画角的に手元こそ映っていなかったが、明らかに挙動不審な男が何人もいて、視線や肩の動き、それにエスカレーターに乗る前後の行動で、男が僕のスカートの中にスマホを入れていることが予測できた。


 盗撮犯たちの行動は似ていた。


 まず、エスカレーター乗り場の下でスマホを見るふりをしながら獲物を物色し、僕を発見すると後をつけて真後ろに並び、片手にスマホを持った状態でエスカレーターに乗り込んだ。


 そして、一連の不審な動きをした後、自分のスマホの画面を確認した。


 確証はないが、男たちが盗撮をしてることは明白だった。


 また、盗撮がやりやすいエスカレーターがあることも分かった。


 基本的に盗撮犯は、被害者と自分の間に出来た死角を利用して盗撮を行っていたので、上りと下りのエスカレーターが並んで配置されているエスカレーターを避ける傾向があった。


 それは、対面する下りエスカレーターに乗った人に横から犯行現場を目撃されるからだ。


 具体的に言うと、京都駅ビルの1階の中央コンコースから南北自由通路のある2階に向かうエスカレーターは安全だったが、地下から中央コンコースに向かうエスカレーターは危険だった。


 ただ、安全な配置のエスカレーターも、2階から大階段のある4階に向かうエスカレーターは利用者が少なく、犯行を目撃されるリスクも低いので危険と言えた。


 また、八条口にある商業ビルのエスカレーターも危険で、2階にあるドンキホーテで商品を探すふりをしながら獲物が来るのを待ち犯行に及んでいた。


 僕は鍵アカを新たに開設し、男たちの行動が映った動画をアップした。


 ハンドルネームを「麻里子」にした僕の鍵アカにアクセス出来るのは、K女の早耶ちゃんと瞳美ちゃん、それに、H高校の萌子ちゃんと花菜ちゃん、そして、詩央里ちゃんの5人だけだった。


 動画を見た彼女たちの反応は僕と同じで「手元こそ映っていないが男たちが盗撮をしていることに間違いない」という意見だった…。

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