桃太郎、二度目の旅に出る

二条颯太

鬼退治から5年後

「桃太郎は宝を荷車につんで村に持ち帰り、みんなで分けました。めでたしめでたし」

「ねぇ、おかあさん。ももたろうはどうなったの?」

「おじいさんやおばあさん。お供の動物たちと一緒に幸せに暮らしたのよ」

「そうなんだぁ」

「さぁもう寝ましょう」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」

 母親は桃太郎を本棚に戻すと、息子に優しく布団をかけた。



『ブゥッ──』

 屋敷で豪快に放屁をしながら寝転がって天井を見上げるのは、鬼退治に成功して村を救った桃太郎。

「桃太郎や……」

「なんですかおじいさん」

「……わしと一緒に畑仕事に行かんか?」

「そんなの鬼たちにやらせればいいでしょう。おじいさんも年なんだから、家でジッとしてればいいじゃないですか」

「全部を鬼にやらせるというのもどうなんじゃろう」

「あいつら性懲りもなく宝を取り返しに来たんですよ? 殺されて当然のところを村のみんながどうしてもって言うから救ってやったんです。そのうえ衣食住まで保障して……身を粉にして働くのは当然だと思いますけどね」

 鬼と友好関係を築こうとする村人たちの考えに、桃太郎は納得していない。

「桃太郎……ちょっときなさい」

「ぇー声は聞こえてますよ」

「こっちにこんか!!」

 怒声を発せられた桃太郎はやれやれと起き上がり、気怠そうにあくびをしながらおじいさんの前で胡坐をかいた。


「お前さんが二度も村を救ってくれたことには心から感謝しとる。それでも今の生活はいかん」

でしょ。何度も聞かされたので覚えちゃいましたよ」

「だったら──」

「何度言われようが働く気は毛頭ありません」

 どこで育て方を間違えたのかとおじいさんは頭を抱えた。


 そんな心を読んだかのように桃太郎は続ける。

「別におじいさんのせいじゃありませんよ。鬼退治をした時に俺は戦うことが性に合ってるって気付いたんです」

 立ち上がった桃太郎は部屋の隅に投げ捨てられていた刀を手に取って腰に差した。

「今まで育ててくれてありがとうございました。この御恩は一生忘れません」

「ま、待たんか。どこに行くのじゃ」

「怠け者は出ていきます。この屋敷はおじいさんとおばあさんにあげるので自由に使ってください」

 呼び止める声を無視して桃太郎は屋敷を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る