第40話『呪いの勇者、悪鬼が如く』


 「エリィ達にプレゼントを渡すの忘れてたな……」


 今更なんだけどな。こんな事なら、もっとマリエルにも優しくするべきだったと後悔する。あれでも、自分にしっかりと向き合える女の子だったし、赤面すると可愛いかったりもする。


 アリアドネは、最初は俺と相性最悪だったけど今となってはみんなのまとめ役にもなっているし、頼れる存在だ。アリアドネがいない局面において、死んでいただろう状況なんていくらでもある。


 そして、エリクシアだ。彼女に出会って無かったら、俺はきっと、この世界が憎くてたまらなかったんだと思う。初めてのキスは衝撃を受けたよ。本当に、死ぬかと思った。


 それでも今の俺の存在価値は、エリクシアとの出会いだったんだ。そうでも無けりゃ、仲間なんて今頃いなかっただろうし、何なら俺が魔王とやらになってたのかもな。


 思い出が蘇るようで、自然と楽しくなっていた。そりゃそうだな、だって俺はエリクシア、マリエル、アリアドネ、そして、ブレッドのことが『大好き』なんだからさ。


 臓物潰しの戦闘に備える為に、カバンにありったけのポーション(毒)を詰め込む。エリクシアがいないからな。回復手段が、一切無いってのもあって必需品である。


 俺って本当に一人じゃ何も出来ない無能なんだなって常々思うよ。でも、これだけは譲れねぇ。俺が死んでしまったとしても、必ずみんなを救ってみせる。


 「クゥーン!」


 「何だよ、ブレッド。お前も着いて来るのか? 心配してるんだな。でも、俺は行かなくちゃならん。仲間の為に命を張らなきゃな」


 話している内に、臓物潰しに渡された紙に記された場所まで辿りついた。恐らく、この転送魔法陣なんだろうな。敵の本拠地に、わざわざ出向くなんて自殺行為でしかない。


 そうだとしても、俺は引けない。みんなを助けるって誓いだけは、絶対に曲げてなんかやらねぇからよ。みんな、一人で戦ってきたんだ。


 一人で戦うのなんて、結局俺はした事がないんだよ。エリクシア達は、本当に凄いと思う。いつも、こんな感じだったのだろうか。


 寂しくて、悲しくて、不安で、助けて欲しいけど助けてって言えなくてよ。いろんな感情が混ざりあって、複雑な心境です。


 『いい? 女の子が困ってたら、絶対に助けないと駄目なんだからね』


 ある時、誰かに言われた言葉を今更思い出して、懐かしくなってしまった。すみません、今回ばかりは心が折れそうです。


 それでも、あの時の誓いは絶対に護りますから。


 勝てる勝てないじゃなく、信念を貫き通し、後悔しない選択を俺はして来ます。


 ブレッドと共に、異世界発地獄行きの転送魔法陣に片足突っ込んで、俺は臓物潰しを殺すため、『鬼』となる。

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