第29話『呪いの勇者と失踪者』


 「パパじゃないの〜?」


 「パパじゃないんですー! お願いだからその手を離して! 僕、社会的に抹殺されちゃうからー!」


 「大丈夫ですよ、カケルさん。社会が抹殺する前に、私達が抹殺して差し上げますから」


 「本気にしてんじゃねーよ! 本当に違うんだって!」


 真剣な説得に何とかマリエル達には信じてもらうことが出来て良かったよ。それでも駄目だった時は、俺の全てをさらけ出すハメになったからな。


 俺と全く関与していない赤の他人の子供であると分かってもらったことで、この子は一体どうしたのだろう。迷子何だろうか。エリクシアが、優しく少女に何があったかについて聞いてもらっていた。


 女の子同士だし話しやすいこともあるだろう。俺は、後ろで黙って聞くことにした。面倒事じゃないといいけどな。そんな淡い期待は。一瞬で崩れ去ったのだけどね。


 「大丈夫? 何かあったの? おねぇさんに聞かせて?」


 「ママが誰かと一緒に消えちゃった。パパを呼んで来てって言ってたけど、私パパ知らない。お兄さんパパじゃないの?」


|(誘拐事件なんですけどー!!)


 お母さんが誘拐されて、娘に助けを呼ぶように指示したのだろう。厄介事はもう懲り懲りだけど、こればっかりは嫌だと言う訳にはいかないよな。


 この子の為にも、お母さんを安全に救い出して誘拐犯を捕まえてやろう。悲しませるのも気の毒だ。だが、俺は彼女の情報など全く知らない。ある程度は聞いておくか。


 「名前と歳は?」

 「ララ! 五つ」

 「そうか、行くぞ」

 「ちょっとカケルさん! 雑過ぎるでしょ!」

 「だって子供嫌いなんだもん」

 「ララちゃーん。可哀想なパパですねー」

 「うん! パパ可哀想!」


 俺の心に、千本ぐらい矢が突き刺さっている。マリエルめ、子供をダシにして俺に精神攻撃を仕掛けて来るとは、貧乳の癖にいい度胸してんじゃねーか。隙見てやり返してやるから覚悟しておけよ。


 更なる情報を集める為に、ある人物とコンタクトを取ったのだが、その人物すらも仰天する始末である。勘違いだけはやめて頂きたい。


 「カケルさん。うちはギルドですよ。託児所ではないですが……」


 「アクアに聞けば分かると思ったんだよ! 最近、誘拐事件とか無かったか?」


 「まぁ、無くはないですが、まさか誘拐ですか?」


 「その線が濃厚だな。もう訳分かんねぇよ」


 「また変なことに首突っ込むんですから。頑張って下さいねララちゃんパパ」


 「茶化してんじゃねーぞ! 俺の心は繊細なんだからな!」


 「ハイハイ、分かりましたよ。ちょっと待って下さいね」


 十分程、席を外していたアクアが受付に戻ってきた。何やら深刻そうな顔立ちだが、まさかな……。


 恐る恐る、分かった事があったのか聞くことにしたがそう言うことだったのか。こりゃ、面倒だな。今回もまた人助けの為に、一肌脱がないといけないらしい。


 「ここ最近、この辺一体で誘拐事件が多発しているみたいですね。その誘拐の目的は生贄、らしいですよ」


 「生贄? 誰のだよ」

 

 「若い女を拐い売り飛ばして、ドラゴンの供物にしてるようです。街二つ超えた先のダンジョンに、生息している情報がありますね。ギルドでも、クエストとして受理しますけど行きますか?」


 「行くに決まってんだろ。ちょっくらドラゴン倒してくるわ〜。アクアありがとうな」


 「カケルさんって、女の子しか助けませんよね」


 「絶対に気のせいだ!」


 とりあえず、行き先は決まった。二つ隣の街にあるダンジョンへ向かい、ドラゴンを倒さなければならないようだな。上等だよ。みんなまとめて助けるし、ドラゴンを討伐して犯人も見つけてとっ捕まえてやる。


 目的を定めた俺とエリクシア達は、ダンジョンに向かう為に準備物に不備がないか確認して二つ隣の街に出発した。

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