前編 骨接ぎ屋、十蔵

「なに……?」


「血生臭い……ドス黒い獣が住み着いてる奴の臭いです……」


「……」


「おっとと。大丈夫ですか?お嬢さん……」


「っ?!」


「あらら……」


歩いていると向かいから色白で二重瞼のお嬢さんとぶつかるが、お嬢さんは何も言わずに逃げる様にその場を走り去る。


「なんか感じ悪いな。あのアマ。」


「オイラの顔は怖いんでしょうね。アハハ。」


「それにしても……なんか騒がしいな。なんか遭ったのか?」


「恐らくは楽しく酒を楽しんでしょうね。それにしても……今日は上弦の月が綺麗ですね万屋さん。」


「おいおい大将。そう言うのはワッシじゃなくて年頃の娘にだな。」


「ハハハ。」


オイラ達は橋の目の前に何か禍々しい雰囲気の人を1人見付ける。上弦の月を背後に何とも身の毛が立ちそうな男が1人。


「大将……」


「万屋さん。少し、下がっていて下さい。」


その禍々しい雰囲気の男に見覚えがあった。それは今朝、圭史郎様がオイラ達に見せた下手人の手配書の姿がそのまんま。


獣の様に目が鋭く、鼻が高く、髪の色は白銀で雪の様な白い肌に全身が黒付くめ。何よりも昔鎖国になる前に居た、南蛮人みたいな服装。


「グフフ……」


「……」


下手人はジリジリとオイラとの距離を詰めながら近寄る。オイラは仕込み杖を逆手で持ちながら居合いの間合いまで誘い込む。


この下手人の笑みが何とも不気味で……オイラの魂が吸いとられそうだ。


「グフッ!!」


「ッ!!」


下手人が飛び跳ねながらオイラに突進して来ると同時にオイラは仕込み杖の刀を抜き居合いで下手人の胸に一太刀。


手応えあり……


下手人は倒れ込み胸から鮮血の血が地面に流れ出す。


「大将!まだ生きてるぞ!!」


「グフフッ!!グヘヘヘッ!!」


「ちぃっ!!」


下手人はオイラが背を向けた瞬間に背後から襲い掛かる。万屋さんの声が無ければ反応出来ずに……オイラはあの世行きだった。


だが今度は下手人の右腕を切断してから螺旋の如く身体を回転させながら胸に腹に一太刀、一太刀と浴びせて腹に突き刺し背中まで貫通させる。


コレだけ……殺れば……


「グフッ……グフフ……」


「ッ!!」


下手人はまだ生きてやがった……さすがのオイラも恐ろしくなり下手人の頭を刀で突き刺す……


下手人は身体を少しの間だけピクピクしながら薄気味悪い笑顔で息絶えた……


「大丈夫か?!大将!!」


「あぁ……さすがに骨が折れそうな相手だ……手の震えが止まらねぇ……」


「それにしても……」


「はぁ……はぁ……ちょっと一服良いかい?万屋さん。」


「あぁ……」


オイラは服の中から煙管を取り出して一服する。心を落ち着かせようとしても……手の震えが止まらねぇ……


久しぶりに感じた……恐怖だ。


「これは……白い粉か……?」


万屋さんは下手人の服から溢れ落ちた紙包みを拾い包みを開けると白い粉があった……


「万屋さん……下手に触らない方が良いと思いますよ……」


「あっ、おう。」


俺は月を見上げながら思う。


月がオイラの咎人ととしての罰を与えにきた……


恐怖という罰を……

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