第29話

「いや、姫はよく踊るのか?」


「私は舞踏会では父と兄、それから乳兄弟としか踊ったことがありません。」


「何故?」


穏やかな声に釣られてクスクスと笑ってしまった。


「さあ?私には良くはわからないのですがいつもそうなのです。


私は、親兄弟、乳兄弟以外で踊ったのは陛下が初めてです。だから私が踊れているのかどうかも実際わかりませんの。兄たちは私をその・・・溺愛しておりますし、父は元々かわいがってくれます。


そのため私の踊りの評価は母が下すだけなのでございます。淑女の見本でもある母から及第点を取れたのは二年前くらいでしょうか?」


わたくしの話を聞いて、陛下は真顔になられましたがそのあとははっと笑われました。


機嫌が良さそうで何よりです。


そんな面白いことなんにも言ってないのですが・・・。


「そうか。わたしが姫の初めての男というわけか。」


わたくしは真っ赤になりながら否定してしまいました。


「ち、違います!そのような誤解されるようなことはおっしゃらないでくださいませ。」


赤くなった頬を隠すようにうつむくとまた低い声が聞こえてきます。


ああ、また笑ってらっしゃる。アンヌが言う通りいたずら好きな方に違いありません!


「だた、わたしが姫と踊った家族以外の初めての男だろう?」


「・・・そう言ってくださいませ。」






一瞬淑女の仮面が外れてしまい、取り繕えなかったけれども落ち着かなければ。


というか顔が赤くなったり青くなったりすると、皆さまから何を思われるのか・・・例えばお兄様たち・・・・・。


わ、笑っているけど何故かしら?フレディお兄様がロウに肩を掴まれているというその図・・・。


カインお兄様は・・・ああ、もうエルローズ様の手を取ってらっしゃる・・・


一瞬気が遠くなりかけたところをふっと手を握り直されて踊ることに集中する。


「・・・姫は私が苦手か?」


「苦手ではありませんわ。」


何故そのようなことを?すぐに返事をした事に対してもびっくりされてしまっているようだ。


わたくしはたしかに逃げたいとは思っておりますが苦手だとはおもっておりませんし、陛下の御身をお助けしたいとも思っております。


ただ、治った後にわたくしは自由になれるのかどうかという緊張感はありますが。


ええ、苦手ではありません。お美しいとも思っておりますわ。


「怖くもない?」


「怖くありませんわ。」


一体全体どうしてそのようなことを言われるのか全くわからない。


ふと首を傾げるとエルンハルト陛下と目が合う。






本当は銀色の瞳。


わたくしの色と同じ色のはずの瞳。


我が国の秘薬でダスティーブルーの瞳の色に変わっている。


ああ、良かった。


本当にきれいな色に変わっている。






「姫の瞳の色はきれいなラベンダー色だな。」


「・・・ありがとうございます。」






知っているくせにと思う。私の瞳の色の秘密も。


それを隠して、私に今の瞳の色の髪飾りを送ってきたのだ。それならばとわたくしも話し始める。






「陛下、わたくしはあなた様の身体を治すために来たのです。」


「・・・解っている。」


そう言った途端に軽く力を入れて軽く手を引かれたのでわたくしはターンをして踊ることにする。


ふふっと笑う陛下はやっぱり少し意地悪だと思います。


「陛下、わたくしと約束してほしいことがあるのです。お身体のためです。」


「何だ?」


そのたびに陛下はわたくしの手を強めにひく。それを合図にまた私はターンをさせられる。


もう!!話をしたいと言っているのに。させる気がありませんの?


少しだけ注意を引きたくて重ねている手の指に力を入れました。


注意が引けたのかじっと顔を見ていると、観念したようにまた笑う。


「聞こう。」


早くそういえばいいのに。






「陛下、必ず私が作った薬を一日三回。それから寝る前にお飲みください。」


「私に薬は効かない。」


「それでもです。それでも判断するのは私ですわ。お飲みください。」


「薬は好きではないが・・・姫が必ずわたしに手渡してくれるのであれば飲もう。見知らぬ者の手を介したものは飲めぬ。」


まあ、今までのことを考えればそうか・・・どのようなお薬を盛られたことがあるのかもわからないけど媚薬の一見でも大概なものだとは解りますものね。


「わかりました。私が必ず陛下の目の前で調合いたします。」


「ならば良い。」






まあ、ここまでの言質が取れればいいか・・・と考えていると今度は逆に問われた。


「姫は神託をどこまで聞いたのだ?」


「どこまでとは?」


首を傾げるとまた笑われる。この方はよく笑う人なのだなと思ったわたくしは仕方がないと思うのです。


本来の陛下はこんなに笑う人じゃないと知るのは少し先の話しで。




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