第13話

だいたい王位になんの執着もない。


私の従兄弟が育ったならもうさっさと譲ってしまってもいいのだ。


叔父はいい人だ。


こんないい人が王宮で王子として育っていただなんて信じられないくらいの


良心の塊だ。


だが馬鹿なわけではないし、どちらかというと裏から操るほうが好きだったと


笑いながら毒を吐くところが私は気に入っている。




父に何ら似たところがない。


それはそうだな、我が父とは母が違うのだから。


母親の身分が低いからと言って第二王子に甘んじたのは叔父自体がきっと王位に


なんの魅力も感じていなかったからだ。


叔父は叔母を見初めた時に王位継承権を変換した。


庶民だった叔母をどうしても妻にしたかったからだ。


王位継承権を返し、公爵としてたち、王家を支える方を選んだ。




叔父の息子たちは幼くとも聡明ではつらつとし、そして健康だ。


私の疾患は治るかもしれないが、それがどうした。


私はいつか、このいとこに王位を譲りたいと思っている。




そう言うと叔父は困ったように笑う。




ルーゼにエルンのことを頼まれているんだ。だから公爵でいるんだよ。


仕方なくね。


本当ならもうやめて妻と共に引きこもりたいんだが。






そう言ってため息をつく顔はとても幸せそうだった。




そういうところも私は好きだ。




私は恋をしたことがない。誰かに心を動かされたこともない。


誰かを愛おしく思うことはもうきっとできない。


そんな心は兄様がもっていってしまったのだろう。


ただふっと思い出したことがある。






あの日。






兄の命をつなぎとめるために医療国に行ったことがある。


その医療国に行けると分かった時点で兄には黙って、エルロッドウェイ皇国に密書を送った。


返信が来た為外交を兼ねての国の顔見世の時に立ち寄った。


兄は多分私を派遣した時点で、私を国王と定めることを決めていたのだろう。


私はそんなことには全く気づかず、ただただ兄の命を延ばすことだけを考えていた。


その時私はもうすぐ兄の命が付きかけることだけに怯えていたのだ。






「この国の医療を兄に施していただくことは出来ませんか?」


その私の言葉にエルロッドウェイの皇国の王は穏やかに言った。


「兄上が望まれましたか?エルンハルト様?」


「兄上は・・・兄にはまだ知らせておりませぬ。」


「ならばなりません。」


「何故?!」


表情がなくなっただろう私の方に手を置きエルロッドウェイの王は静かに行った。


「納得しない医療は、毒ともなり得るのです。薬を飲ませればよいのではありません。


私達は医療を生業にしておりますが押し付けるわけではないのです。」


「分かっています。分かっています。私はただ兄を助けたいだけなのです。」




今にも泣いてしまいそうな私を見て、王は背を屈めたのを覚えている。






視線を合わせたその瞳は、痛ましさを滲ませてた。


私が泣きそうだったからだろうか。


今はもうわからない。私にはわからない。




「エルンハルト様。私達はその方を見て診断をしなければ薬を処方することも


治療することもかなわないのです。


本来だったらここにいらっしゃるのはルーゼハルト国王陛下なはずでしたが


あの方は来られなかった。そしてここにいらっしゃるのはあなただ。


ルーゼハルト国王陛下はあなたを診ろとおっしゃっているのではないですか?」






それを聞いて頭が真っ白になった。






何故だ。何故?兄上を助けたかったのに兄上は私を助けたがってしまう。


私が弱いから。弱いからだ・・・。






カタカタと震える体の両肩に手を乗せたエルロッドウェイの王は何も言わずただ


私の震えが収まるまで温かな手を置いてくれていた。


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