第10話

「レーヌ様お疲れさまです。」


そういって笑顔のサラはドレスを選べと笑顔で凄む。


ううううう・・・・。


仕方なくエルロッドウェイのドレスを手に取る。




「こちらにします。」


「わかりました。」




ニッコリと笑うサラは本物の笑みだったのであたりだったとホッとする。




「こちらを選ばなければアンヌ様たちの折角のお仕事が無駄になりますもの。」


「ん?」


「アンヌ様たちがレーヌ様の髪をテスカの花の形にサイドを結ってくださったではないですか。」


はあ、としかたない子を叱るような目を向けられた。


ああ、だからか。


ダスティブルーのドレスを着せてくれながらわたくしの方を見てニコニコと笑っている


侍女さんの方を見て首をかしげる。


「アンヌさん?」


「はい。ですがナディアレーヌ様私のことはアンヌとお呼びください。」


「アンヌ、ありがとうございます。」


「はい。二人体制でですがお世話をさせていただきます。これは陛下よりの下命があったものなので


ご了承ください。それから私達は護衛も兼ねます。陛下と同じようにお護りしますのでご安心を。」


「わたくしには護衛がいますが?」


大体わたくしには護衛が必要な程に出歩くこともない。ええ、地味に過ごしたいので。




ニッコリと笑いながらアンヌが続ける。


「ロウ様がお強い方でいらっしゃることは一目で解りますが、それだけでは防げません。


ロウ様だけでは女性しか入れないところはお護りする事はできませんので。」


まあ、確かにそうですね。化粧室とか仲間で入ってきたら蹴り倒しますね。




「陛下の場合はどうされているのですか?」


「本日陛下に会われた時に側に居ました者を見ましたか?」


「ああ、黒髪の騎士のことですか?」


「はいそうです。私の夫なのですが。」


「え?!」


「はい、私の夫なのですがあの者が陛下が幼少の頃からずっと側におります。」


「で、でもあの時・・・。」






そう、あの初めて陛下にあった時あの方はいらっしゃらなかった。


ふと考え込んでいる間にドレスを全て着付けられ、髪をさらに整えられた。


そして薄い紫、私の瞳の色の髪飾りをつけられる。


「とても綺麗ね。」


「はい。陛下からの贈り物ですわ。」




ぶはっ。




「へ、陛下からの?」


「はい。」




きっぱり答えたのはサラとアンヌ。そして本日もうひとり付いてくれるカレン。


基本はこの二人がわたくし付きになるらしい。


満足したのか六人が後ろにすっと下がった。


鏡の中のわたくしはきちんと皇女に見える。


銀髪はきちんと結い上げられ、後ろに流された髪は軽く巻かれている。


髪には陛下からの髪飾り。首飾りはシンプルにダイヤの二連のネックレス。


基本シンプルが好きな私には心地よい着飾り方だった。




鏡をじっと見ていたわたくしが気配を感じて振り返ると・・・。






すっと六人が跪く。


サラは何も言わない。わたくしだけが一歩後ずさる。


美女が六人跪くとかわたくし前世でなんの徳を積んだのでしょうか?


わたくしの考えが手にとるようにわかるのかサラだけが苦笑いをしている気がする。


恐れおののいているのがばれないように後ずさった左足を一歩元に踏み出した時に


柔らかな声で言われた。




「夫は貴方様のことを知ってますわ。あの時のエルンハルト様を助けてくださった小さなレディ。」


ニッコリとアンヌが微笑む。


私の言葉尻の答えを紡ぐ柔らかな声。






「陛下をお願いしますね、ナディアレーヌ様。貴方様のことは影である私達、そして護衛の


者たちすべてが知っております。そしてあの日助けてくださったことも。


それからずっと私達は貴方様に感謝しておりましたことを今になってお伝えすることを


お許しくださいませ。


エルンハルト様はとても優しく、とても寂しく、とても寂しがりな可愛らしい方なのです。」




可愛らしいなどとなんと恐れ多い・・・目が潰れるほどに見目麗しいということしか・・・


「陛下は寂しいとはどういうことなのでしょうか。」


「・・・陛下にはお兄様がいらっしゃいました。お兄様はもう亡くなられましたが。


夫は元はお兄様であられるルーゼハルト様の友。そして私は恐れ多くも乳姉妹でありました。


エルンハルト様は私の弟のような存在でございます。そして私達一族には生きる意味でもあります。」






色んな情報過多ではありませんか?わたくしに何故そんなに?


わたくしはただの。ただの神託の下っただけの皇女なんですけど。


それがすごいことだと言われたらそれまでなんですが本当にそれだけなんですけど!




「あの日助けてくださった皇女様。あなた様がいらっしゃったのでエルンハルト様は


今の地位にいらっしゃいますし信託を受けられたのです。」




ええええ・・・わたくしには荷が重すぎる気がいたします。


少し困った顔をしたわたくしに皆さまは何も言わずに頭を垂れます。


仕方ありません。






「わ、わかりました・・・陛下の体をきちんと治しますし出来得る限り体調をみるように


お側にいるようにいたします。わたくしがここにいる限りはです・・・が・・・」






これでいいですか?という意味を込めて視線を合わせると。






やっといってくださいましたね。と、顔に書いているアンヌがにやりと笑う。






ええええ・・・今までニッコリとか花が綻ぶように笑っていた侍女がニヤリと笑うなんて。


影って・・・影って・・・。








「ああ、レーヌ様もうどうしようもありませんわねぇ。」






サラが言った意味はちょっとわからない。


それがわかるのはもう少し先のお話だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る