第1話 女の恋は時に怨みになる


「……」


取り敢えずここは黙って聞いておいた方が懸命だな。


『愛する人の許嫁は言ったんだよ。゙この卑しい女を輪姦しろ゙って…私は何も抵抗出来ずに愛する人にも捧げていないのに汚された…そして私は誓ったんだ。愛する人から貰った櫛に゙私はあの女を殺すんだ゙って…私は湖に身を投げて死んで霊になって。』


「許嫁を呪い殺した訳か…」


『そうよ。殺したよ…』


「じゃあ…何故に成仏しない?!そして!遥ちゃんに取り憑いてこの家族を苦しめる?!」


『それはね。この娘は私の大事な竹櫛を拾って更に…』


「更に?」


『あの女の子孫だからよッ!!』


「…ッ?!!」


『私は愛する人から唯一貰った櫛があの女に汚されると思うと嫌で嫌で仕方がなかった。それに!あんな苦労もした事がないガキが恋だの愛だの語ると虫酸が走るのよ!!私は、あの女の末代まで呪い殺すまで成仏なんかしない!!!』


「てめぇよ…さっきから聞いてみればイライラすんだよ。」


『なに?!』


「確かにお前の恨む気持ちは分からないまでもない。だけど…てめぇの殺っている事は、ただの迷惑なんだよ!!」


『なんだと?!私がどれほど苦しんできたか…』


「俺が分かるわけねぇだろ。お前の苦労なんか知らないし、知りたくもない。だけど…遥ちゃんやその家族を苦しめて、お前の愛した人は喜ぶのか?」


『…ッ!!分かってる…そんなの分かりきっているわよ!!でも!もう後には引けないのよ!!成仏したくても…行き方も忘れちゃったのよ…』


すると遥ちゃんに取り憑いていた女の怨霊はいつの間にか邪気や殺気が消えて、肌と髪には艶があり、目はまるで恋する乙女の姿で泣いていた…


「なんなら俺が成仏させてやる。」


『本……当…に……?』


「あぁ、俺は除霊師だ。どんな幽霊でも成仏させる事が出来る。」


『有り…難う……本当に…本当に!有り難う…ヒック…うぅ…うぅ…』


そして恨みも憎しみも涙と共に消えた怨霊は怨霊で無くなり普通の幽霊に戻り、俺は天浄経文を床に広げる。


「お前。名前は?」


『お藤(ふじ)よ。』


「お藤。何か最後に言いたい事は?」


『あの娘に竹櫛を大事に使って欲しいの…』


「そうか…じゃあ始めるぞ?」


俺は再び両方の手のひらを合わせて唱え始める。


「怨魔陰羅津廃厳…霊戒魔浄。」


すると経文から文字が浮かび上がり、お藤に文字が取り付くと光の粒子の様にお藤は消え去った…


最後に一言『有り難う…』って言い残して……




それから俺は荒井さん夫婦に徐霊が完了した事をすぐに報告し、目が覚めた遥ちゃんに『竹櫛は大事に使うように』と言ってから俺は布団に入り寝た。



それから朝、日が登る前に荒井さんの家を出る事にしたので、帰る前に依頼料をもらう事にした。


政夫さんに家の外にある倉庫に案内されると倉庫の中に倉庫いっぱいの純銀の延べ棒があり、荒井さんの家は代々地主でその昔。ここの山は銀山だったらしい。


好きなだけ持っていって良いと言われたので遠慮なく俺と斑で合計で7本持っていき、車に積んで帰る前にある所を目指す事にする。


そこは…愛憎湖。


車で愛憎湖まで走らせ愛憎湖まで辿り着くと、ちょうど日が登り始めて湖が日の出に反射される。


それは、まるで血に染まった2人の女が1人の男を巡る結末を映し出した様にも見えた。

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