第一章 ~『ドラゴンの有効活用』~


 リグゼは丘の上から海の景色を眺めていた。カモメが鳴き、漁師たちの活気ある声が反響する。


「まさかレッサードラゴンをこんな風に活用するとはね」


 隣に立つエリシャがボソリと零す。彼女が驚いたのは、漁師たちがレッサードラゴンを魚漁に利用していたからだ。


 放たれたドラゴンたちが、上空から急降下して魚を捕まえる。それを漁船へと運ぶのだ。


 人が地道に釣り上げるより何倍も効率化されており、今年の収穫量は過去最高となる見込みだ。


「さすがはイーグル領の嫡男。頭がいいね」

「海に面した恵まれた地形のおかげでもある。俺の功績がすべてじゃないさ」

「どちらにしても、この領地は将来安泰だね」

「それは保障する。安心して商人を続けてくれ」


 優秀な家臣たちに、領主のグノムも優秀だ。さらにリグゼの《鑑定》の力も領地に大きな貢献ができる。


 例えば海を鑑定すれば魚の生息地を判別できるし、風を鑑定すれば嵐になるかを予測できる。これほど便利な魔術は他にない。


(だが一番の収穫はレッサードラゴンの漁猟より、マジックドラゴンの販売益だな)


 選別したマジックドラゴンの卵は、周辺の貴族相手に売却していた。一つにつき、金貨千枚の大金になる上に、友好を深めることにも繋がる。


 もちろん支配権はリグゼが維持したままだ。掌を返され、反旗を翻されたとしても、マジックドラゴンが彼の敵になることはない。


「そういえば、依頼していた調査の件はどうなった?」

「ドラゴンを操る少女についてだね。調べてみたけど、ほとんど分からず仕舞いさ」

「どんな小さなことでもいい。得られた情報はないのか?」

「信憑性の薄い噂ならあるけどね……」

「それでも構わない。教えてくれ」


 パノラとはいずれ衝突する。その時に情報の有無が生死を分けることも十分に起こりうる。


「ドラゴンを操る魔術師が、第三王子と交友を持っているとの噂が流れてるよ」

「アーノルドと⁉」


 脳裏に過ったのは、パノラとアーノルドの二人が記憶を維持して転生し、結託している可能性だ。


(もし二人が手を組んだのなら、なぜアリアを始末しにこない?)


 殺せない事情があるのかもしれない。どちらにしろ、最悪を想定して動くべきである。


(俺はさらなる強さを得る必要がある)


 そのための手立ても考えていた。金を求めたのも、必要経費を得るためである。


「それで、今月の収益はいくらになった?」

「手数料を引くと、金貨三千枚ほどだね」

「目標金額は溜まったな……例の人物の連絡先も入手できたよな?」

「苦労したけどね」

「助かる。この手紙と共に、《剣王》サテラに声をかけてくれ。報酬は金貨三千枚だ」


 魔術を《鑑定》でコピーできるリグゼは、遠距離からの魔術戦なら負けない自信がある。しかし接近戦には課題があった。そこで最強の剣士に教えを乞うことにしたのである。


(俺は絶対に強くなってやる。覚悟しろよ、パノラ、アーノルド!)


 宿敵たちに想いを馳せながら、拳をギュッと握りしめる。新たな強さの獲得の期待に胸を高鳴らせるのだった。

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