Ⅱー2.美術部部長の悩み

 O大学の美術部部長山西麻美はキャンパス近くのファミレスで、モデルの面接を終えてコーヒーを飲んでいた。

「どうしようかな?」

 麻美は悩んでいた。

 O大学の美術部では、毎年一度モデルを読んで行うデッサン会を行うことが慣例になっていた。

 デッサン会は美術部の僅かな予算の大半を投じる一大イベントである。

 大抵の部員はその場で描いた絵を美術展へ出品する。

 元々はプロのモデルを読んでいたのだが、最近は美術部員の減少に伴い高額なモデル代が払えなくなったため、今では近隣の大学へ素人のモデル募集を行うようになっていた。


 そのデッサン会、実は今年既に一度開催していた。

 しかし、前回は麻美が手配したモデルがあまりにも酷かった。

 顔がイケメンで身長も175cmあり、適任と見込んで選んだでモデルだった。

 しかし、服を脱いでみると、胸が薄く筋肉が無い上に、あそこが…いわゆる短小包茎というやつだった。

 それはデッサンの開始から始まりの間、元気なくぶらりと垂れ下がっていた。

 デッサン会の後、こんなモデルの絵では美術展に出せる作品にならないと他の部員の抗議があり、再度デッサン会を行うことになった。

 そこに応募してきたのが相沢健太という訳だ。


 麻美は先ほどのモデルについて思い返す。

 ラグビー部をしていたというだけあって、体格はよかった。

 でも、あそこはどうなのかな?と麻美は考える。まさか、面接で「あそこの大きさは」とは聞けなかったが、体格からするとあそこもそれ相応のはずたと思えた。


 それより問題なのは…モデルさんに払う費用である。

 美術部員から集める部費と大学からの僅かな援助で賄われる美術部予算は、

 一回目のモデル代でほとんど底をついていた。今回のモデル代はどうするのか…

 自腹を切るか?部員からの部費を増額するか?

 麻美が考えあぐねていると、「さっきの誰?カ・レ・シ?」と突然に声をかけられた。


 声のする方を見やると同級生の明日香だ。

 手にはアイスコーヒーのグラスを持っている。

 明日香は麻美のクラスメートの一人だ。明るいのはいいのだが、クラス一のいたずら好きだ。


「違うわよ。美術部で募集した…」と言いかけて、麻美は口を閉じた。

 ヌードモデル等と言ったら、明日香の質問攻めにあいそうだ。

 それに、おしゃべりな明日香に言いふらされたらあとあと面倒である。


 明日香は、少しの間麻美の答えを待っていたが、麻美が口ごもっていると、

「ひょっとして美術部で毎年やっているっていうデッサン会のモデル?」と尋ねた。

 言い当てられて、明日香は困惑した。

「でしょう!」と麻美に念を押されて、明日香はしぶしぶと頷いた。

 明日香は好奇心いっぱいの様子で、先ほどまで健太が座っていた麻美の向かいの席に腰を下ろすと、質問を続ける。

「それってすっぱなんでしょう」明日香は好奇心丸出しだ。


 麻美が返答を渋っていると、

「私も見たいなー」

 明日香はのほほんと言う。

「そんな、興味本位の人はだめよ」と麻美はきっぱりと否定した。そんなことをしたらモデルの人に悪い。


「美術部へ入ればいいんでしょ」

 明日香は諦めない。


「え?美術興味あるの?」

 と麻美は確認する。美術に興味が無い人を部に入れるわけにはいかない。


 明日香は、

「あるわよ、少しは…」

 と答えたが、麻美は疑いの眼差しを明日香に向けていた。


 すると明日香は作戦を変更する。

「部費を払えばいいでしょ」

 と言って麻美の目を覗き込んだ。


『部費』と聞いて麻美も少し心が動いた。

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