第3話 今後の方針
まず僕が最初にとった行動は、孤児院へ向かうことだった。
孤児院に居る先生へ、今回の事情を説明しに行くためだ。
僕が追放されたという噂はあっという間に迷宮都市中に広まるだろう。
僕が孤児の出であることは知られているし、出身地の孤児院について知っている人も居るかもしれない。
今回の騒動でもしかすると、勇者達、または噂を聞いた心無い人達が、孤児院にちょっかいを掛けてくる可能性がある。なので、真っ先に連絡をするべきだと考えたのだ。
ひょっとしたら、勇者パーティーから追放された僕の事を、先生は孤児院の恥さらしだと思っているかもしれない。子供たちにも嫌われるかもしれないな、と内心不安を抱きながら、僕は先生に事情を話した。
追放騒動の真相を聞いた先生は、僕を咎めるようなことはしなかった。それどころか、逆に先生が僕に謝罪を始めてしまったのだ。『勇者達の本性にも気づかず、言われるがままに僕を勇者に差し出した事を許してほしい』……要約すると、そんな内容の謝罪だった。
だが僕は先生に恨みなど抱いてはいない。あの時は僕が勇者の誘いを受けるのが最善手だった。僕は先生の謝罪を受け入れた。
それに何より、先生は勇者よりも僕の話を、真実として受け入れてくれたのだ。その事実だけで、僕には十分だった。今までの行いが報われたような気がした。
先生は子供たちにも、それとなく事情を伝えておくと約束してくれた。もし勇者たちがちょっかいを掛けてきても、冒険者ギルドに掛け合って何とかするとも言っていた。
けどやっぱり心配なので、僕も時々孤児院の様子を見に来ようと思う。
他にも先生は、無理して仕送りはしなくていいとか、食事はちゃんと摂っているかとか、暫く孤児院で過ごせばいいとか、色々と僕を気遣ってくれた。
金銭的に余裕がない孤児院に、僕が戻ってきたら更に負担をかけてしまうので、先生の提案はやんわりと断っておいた。仕送りについても、僕に余裕が出来たら再開しようと思う。
先生や子供たちと会話していると、まるで本当に家族の許に里帰りしたような気分になって、やはり此処が自分の故郷なんだな、と改めて実感するのだった。
◆
子供たちと少し遊んであげた後、僕は孤児院を後にした。
「ひとまず孤児院はこれで大丈夫かな……あとは、お金の問題か」
僕が次にすべきことは、生活資金の調達だった。
先生には黙っていたが、実は現在の僕の所持金では、今日の分の食費ですら危ういのだ。
なにせ突然の出来事だったので、ほぼ着の身着のままで追放されてしまったのだ。拠点に置いてあった荷物には、ある程度貯蓄はあったのだが……持ち出せなかったものは仕方がない。
現在の僕の持ち物は、着ている衣服と解体用のナイフ、冒険者ギルドの登録証くらいだ。
これでは持ち物を売って金銭を得ることも難しい。こんな事なら、普段からもっと小銭を持ち歩くべきだった。
それに、勇者パーティーを追放された今、孤児院への仕送りも途絶えてしまったというのも問題だ。
僕の育った孤児院は貧しく、財政状況はいつも火の車だった。だから僕は育ててもらった恩返しと、子供たちが路頭に迷わないように、今までずっと仕送りをしていたのだ。
僕がクビになったことで孤児院が潰れてしまった、なんて最悪の事態は防がなくてはいけない。
つまり僕は迅速に、仕送りが出来るくらいのお金を稼がなければならない。
では次に、どうやってお金を稼ぐのかを考えてみた。
結論はすぐに出た。
「やっぱり、迷宮探索だよなぁ……」
幸いここは迷宮都市ネクリア。都市の真ん中に迷宮への入り口があるので、この身一つですぐにでも突入可能だ。
迷宮探索には危険が伴うが、短期間で稼ぐなら最も効率が良い。
危険を冒さずアルバイトで稼ぐ方法もあるが……仕事がすぐに見つかるとは限らない。
それに僕は『勇者パーティーのひっつき虫』として、悪い意味で有名人である自覚がある。
勇者パーティーを追放されたという噂も恐らくもう広まっているだろう。今の僕が、今日中に仕事にありつける確率はかなり低い。
同じ理由で、他の冒険者のパーティーに加入するのも却下だ。
今までひっつき虫、死体漁りと、僕の事を嘲笑っていた冒険者たちが、追放された僕をパーティーに迎え入れるなんてことはないだろう。勇者連中から何か因縁を付けられる可能性もあるし。
つまるところ、僕が今取れる最良の手段は、単独での迷宮探索なのだ。
「ソロで迷宮に潜らないとお金が稼げないって……はは、割と面倒な展開になってきたなあ」
思ったより状況が悪くてつい笑ってしまったが、凹んでいる場合ではない。
一先ずの方針を決めた僕は、都市の中央にある迷宮への入り口へ向かった。
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