11 魔族化したSランク冒険者

「……では何故そのようなことを言ったのだね」


 よし、その調子でどんどん行け! どんどん真実を暴き出せ!


「……僕は彼女を、リーシャと言ったあの獣人を襲おうとしました。そこをあのショータという獣人に邪魔され……駆け付けた仲間たちを騙すために……アアァァッッ!! そうだ! 騙そうとしたんだよ! 見られちまった以上咄嗟に嘘をつくしかねえだろうが!!」


 開き直った。アイツ、もう終わったな。


「そんな……どうしてそんなこと」

「どうしてだって!? お前らも思わないのか? なんで獣人なんかが人間と同じ扱いをされているのかを!」

「お前、何を言って……」


 ヤツの暴露に仲間たちも戸惑いを隠せないみたいだな。今までは外向けの善人としての顔を使っていたんだろう。実際は差別主義者のやべえ奴だったわけだが。

 

「獣人は俺たち人間のためにその身を尽くすべき存在なんだ! それが最近、どんどん地位を上げてきやがった! 俺は獣人風情が人間として扱われていることが許せない……! 俺たち人間が獣人と同じものだと言われているようで虫唾が走るんだ!!」

「……クライム、そんなこと思ってたんだ。最低」

「クソッどうしてこんなことに……」

「なんで……私クライムのことが好きだったのに! こんな人だったなんて知っちゃったら……もう今までと同じようにはいられないじゃない!!」


 アマンダだったか。彼女は本気でクライムを愛していたんだな。だがまさか中身がこんなヤツだったとは。お悔やみ申し上げるぜ。


「うるせえよ。お前なんて所詮2番目3番目の女だからな?」

「……え?」


 想像以上だった! こいつとんでもねえヤツだぞ!!


「ちょっと顔と体が良いからそばに置いてやってたのに、まさかここまで思い上がるなんてな。俺、今までにお前以外とも関係持ってっから」

「嘘……」

「あーせっかくSランクパーティのリーダーになって欲望の限りを尽くそうと思ってたのに全部台無しだ。こうなった以上、お前たちには消えてもらうしかねえな」

「クライム……それ……!!」


 何だ……? ヤツが謎の球体を出した瞬間、空気が変わった。そう言えばアマンダがさっきドス黒い魔力とかなんとか言っていたような。まさにそんな感じだ。


「ちょうどいい。獣人なんかを対等に扱うこのふざけた国も消滅させてやるよ。ウォォォオォォォッッッ!!」


 ヤツの体が膨れ上がり始めた。ここは裏路地だってのにそんな巨大化したら……。いや、それが目的なのか……!


「不味い! 皆の者、逃げるのだ!」

「間に合わねえ! 獣宿し『肆牙』!!」


 このままだと街に被害が出る! どうにかしてこいつを国の外に出さねえとな! 思えばコイツさっきも周りの被害関係なしに大技出してきやがった。Sランク冒険者ってのが皆コイツみたいな自己中じゃねえことを祈るぜ。


「国王様、リーシャを頼みます!」

「ドラゴンロードの一件と言い、またしても貴殿に頼り切りになってしまい申し訳ない。この者は必ず私が守り通す故、心置きなく戦ってくれ」

「ショータ様、どうかご無事で……!」


 よし、後はコイツを国から離せばひとまず不安材料は無くなるな。にしても禍々しい見た目にこの重くドロドロとした魔力、まさかコイツ自身が魔族になっちまうとは。


「フゥ……フゥ……またしてもお前か……! お前のせいで俺は何もかもを失った! だがこの力があればもう仲間もいらない。魔族になった俺は正真正銘最強になったのだ!!」

「なら、そんなお前を倒したら俺が最強になるんだな」

「はっはっは! そんな軽口が叩けるのも今の内だ。俺の力にひれ伏すが良い!」

「うぉっ!?」

 

 人間だった時とは段違いの攻撃速度で殴って来た。それだけじゃない。ただの拳だってのに纏っている魔力のせいで周りの空気が一瞬にして蒸発してやがる。まともに食らえば有機物である俺の体は一瞬で焼失しちまいそうだ。


 なら有機物じゃ無けりゃいい。


「獣宿し『剛鎧』!」


 全身を金属で覆う。そうすればヤツの攻撃だって……。


「そんな強度で何が出来る!!」

「あがっ!?」


 嘘だろ!? 俺の剛鎧が砕けやがった……!! 


「金属如きで僕の攻撃を止められるとでも思っているのか? このまま生身の部分に……な、なんだその体は!?」


 ヤツは俺の砕けた傷口を見て驚いているようだ。それもそのはず。ヤツは俺の剛鎧をただの外皮か何かだと思っていたようだからな。だが実際は違う。この状態になると中身が全て金属質になるんだ。筋肉も臓器も、俺の全てが頑強な金属と化す。だからどれだけ砕いたって生身の体なんてやってこない。


「ありえない……! ロックドラゴンもアイアンドラゴンも堅牢なのは表面だけだ! 中身まで全て無機質だなんてありえるはずが……!!」

「ありえるんだよ。俺ならな」

「ぐっ……ならこれなら!」

「おっと」


 人間の時に使って来たアステロイドショットだったか。それを何発も同時に撃ってきたが魔力攻撃なら蝕命ですべてを無効化できる。


「うぐぐ……一体何をした! さっきも僕の最大の一撃を受けて何ともなかったじゃないか!」

「俺の力を使って魔力を吸収した。だから魔法攻撃は俺には通用しない」

「そんなの反則だ……。だがそれなら肉弾戦なら通用するってことだよなぁ!!」

「ぐっ……」


 確かにヤツの攻撃は俺の剛鎧を破壊できる。このまま食らい続ければ不味いだろう。だがそれはあくまで食らい続ければの話だ。


「獣宿し『炎龍』!! 骨の髄まで焼き尽くしてやっから覚悟しやがれ!!」

「わざわざ硬化を解除したな馬鹿が!!」

「うるせえ! 当たらなければどうってこたあねえんだよ!!」


 いくらヤツの攻撃が化け物じみていても所詮は生物。炎龍の超高温の炎で焼き尽くしてしまえば良い!


「バ、バカなァァ!! この力は絶対のはずだ! こんな炎なんかに敗れるはずが……敗れるはずがァァァァッッ!!」


 ふぅ。完全に焼き尽くしたな。


「ぐ……クソッ……」


 まだ生きていたか。しぶとさもSランクだな。


「何が最強の力だ……獣人一人にさえ勝てないじゃないか。やっぱりあんな怪しい奴らの話なんか信じるんじゃなかった」

「怪しい奴らだと?」

「何だ気になるのか? だがただで話すわけには……ヒィィわかった話す! 話すからその拳を下げてくれ!」


 拳に炎を纏わせたら素直になってくれた。聞き分けが良くて助かるぜ。


「アイツらは僕に魔族化の宝玉を渡してきたんだ。最強の力が欲しく無いかってな。でも結局はこのザマだ」

「そいつらの特徴は覚えているか」

「容姿については全くもってわからない。全員ローブを被っていた。ただ奴隷商と親しげにしていたのは見たな」


 奴隷商か。目が覚めて初っ端のこともあるし、奴隷商にはあまりいい思い出が無いぜ。俺たちと直接関係があるとは思えないが、龍種を洗脳しているヤツらと関係が無いとも言い切れないし警戒しておくにこしたことはねえか。


「それにしてもお前、本当不用心だね」

「うん?」

「ついさっき僕を蹴飛ばしたばかりだってのに、また僕のそばに立っている。それではまるで見てくれって言っているようなものだぞ?」


 ああ? コイツ何を言って……。


「……ッッ!!」

「まあ僕としては獣人とは言え良いものを見せて貰えて良かっグボァッ」

「だからキメエんだよ!!」


 コイツこんな状況でもまだそういうことしやがるのか!? もはや一種の狂気を感じやがる!!


 それに俺も俺だ……下着を見られるくらいどうってことはねえ……ねえはずなのに。


「……最悪だ」


 俺は……女になって行っている。確証はねえが直感的にそう思う。でなきゃ辻褄が合わねえ。


 とりあえずコイツを連れて国王さんのとこに行くか。これ以上コイツといたら俺が俺じゃなくなっちまいそうだ。




「ショータ殿、無事で何よりだ」

「良かった……良かったですぅぅ!」

「リーシャ、心配かけたな」


 涙目で抱き着いてきたリーシャの頭を撫でる。幸い国内の被害は無かったようだ。リーシャも無事だしひとまずは安心して良さそうだな。だが、まだ話は終わっちゃいない。


「それで、コイツ……クライムはどうするのですか」

「ああ、そうだな。今回は未遂で終わったが、危険な存在で有ることに変わりはない。ひとまずは厚生施設に送ることになるだろうな。Sランク冒険者の称号も剥奪することになるだろう」

「そんな……」

「……でも妥当ではある。それくらいクライムは最低なことをしようとした」

「まさかこんな形で別れることになるとはな……」


 クライムめ。こんなに思ってくれる仲間を持っておきながらその思いを裏切るなんて。心を入れ替えて一からやり直せることを願うぜ。


「それと国王様。クライムから聞いた話なのですが……」


 ヤツから聞いた話を一応国王さんとも共有しておこう。龍種洗脳の件と何かしら関りがあるかもしれねえしな。


「なるほど。彼の魔族化はそういう経緯であったか。しかし、だとすると疑問が残るな。何故そのような危険なマジックアイテムを国内に持ち込めたのか。本来ならば結界に弾かれるはずだ」


 そう言えばこの国に入る時の検査は凄いザルだったな。リーシャも言っていたが、本来ならばそう言った危険物は鑑定スキルや結界によって弾かれるはずなのか。となると厄介だ。何しろその結界を無効化してしまう危険物が存在するってことだからな。もう国内も安全とは言えなくなっちまった。


「こうなってしまえば入国時の検査を入念に行うしかあるまい。しかしそれでも食い止められなければ……」


 な、なんでこっちを見るんだ。


「ショータ殿、何度もすまないが……」

「わかりました。内部で何かあった時にはお任せください」

「そうか、感謝するぞ」


 ちょっと俺に頼りすぎな気もするが、今回みたいなことが起きたんじゃ並みの騎士や傭兵じゃ太刀打ちできねえってのはわかる。こうなりゃもうリーシャを守るついでに国だろうが何だろうが守ってやるよ!

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