4 ドラゴン狩り

「単刀直入に聞こう。ワイバーンを倒したと言うのは本当かね?」

「はい。と言っても、俺自身ワイバーンについてはよく知らないのであれがワイバーンだったのかの確証は持てませんが」

「いや良い。石板の情報はそう簡単に改ざんできるものでは無いのだ。サクライ殿のレベルからしても異質な強さを持っているのは明白。そこでお願いがあるのだが」


 ギルド長が強いまなざしで見つめてきた。一見してただの幼女だが、その目力は凄まじい。この俺でさえ少し緊張しちまうぜ。


「なんでしょう?」

「この国の近くの岩山に大量のドラゴンが住み着いてしまってな。国を訪れる行商の者が襲われて困っているのだ」

「……それなら依頼を出せば良いのではありませんか?」

「それで解決できるなら何も問題は無いのだがね。どうやら住み着いたドラゴンの中には他よりも強力な力を持つ『ドラゴンロード』という個体が混ざっているらしいのだ。ヤツはレベルにして30後半に値するらしくてな。並みの冒険者では手も足も出ずに灰となってしまうだろう」


 そんなやべえのを冒険者になったばかりの俺に任せんのか……。まあいい。ここで恩を売っておけばリーシャのためにもなるだろうからな。


「わかりました。その依頼、受けましょう」

「本当に良いのか? 我々は断っても何も言わん。それだけ恐ろしいドラゴンなのだ」

「心配いりません。俺、強いですから」


 ちょっと臭えセリフ吐いちまったが、ワイバーンであの程度の強さならたぶん大丈夫だ。


「ギルド長!!」

「一体どうしたのだ」

「先ほど登録したばかりの冒険者パーティが例のドラゴンを討伐しに向かったと連絡が!」

「何だと!? クソッ何を考えているのだ馬鹿者共め! あれは気軽に目の前に立って良いものでは無いと言うのに……!」


 若気の至りというにはあまりにも重い代償を払いそうだな。登録したばかりっつったら、さっき喧嘩売って来た輩よりも弱いんだろう。その実力で遥か格上に挑むと言うのは、勇気と言うかもはやただ命を捨てるだけだろう。はっきり言って馬鹿すぎる。


 ……だが、俺はそういう人間も大勢救ってきた。今更助ける人間を選んだりはしない。


「では俺はもう行きますね。少しでも早く行かないとその冒険者たちが心配ですから」


 俺はギルドから出て、ドラゴンが住み着いているという岩山へと向かった。




「おい、本当に俺たちだけでドラゴンを倒せるのかよ……」

「心配すんなって。俺のこの伝説の魔剣があればドラゴン如きスライム同然よ!」


 そうだ。俺はこの時をずっと待っていたんだ……! 今まで俺を認めてくれなかったヤツも、ドラゴンを倒したと言う実績があれば見る目を変えるはずなんだ!


「でもその剣、本当に伝説の魔剣なの? 鑑定してもらった事ないんでしょ?」

「行商人から高値で買ったんだぞ! それにこの溢れ出る魔力……これが伝説でなければ何というのか」

「お、俺は危なくなったらすぐ逃げるからな!」

「勝手にしろ。その場合はドラゴンを倒した英雄の中にお前の名は入らないけどな」


 さあ、俺の輝かしい英雄伝説のためにいざドラゴン狩りだ!


「ねえ、あれ……」

「なんだ? ドラゴンか?」


 隣を歩くシェラが指さす先に、飛んでいる魔物の姿があった。


「間違いない……ドラゴンだ!」


 アイツを倒せば俺は一躍英雄になれる!


「シェラは魔法で、ハーデンは弓で攻撃してくれ! その隙に俺がヤツの首を取る!」

「わかったわ! 火球ファイアボール!」

「わ、わかった……風の矢ウィンドアロー!」

 

 よし、二人の攻撃でドラゴンが降りてきた。後は俺がその首を取れば!


「うおぉぉぉぉ!!」


 地を蹴り、ドラゴンの首に向かって跳躍した。そして全力でドラゴンの首に斬撃を食らわせてやった。


「やった!」


 俺の剣は確実にドラゴンの首に当たった。しかし、何故か目の前のドラゴンは何事も無かったかのようにピンピンしていた。


「嘘……だろ……?」


 俺の目の前に金属の破片が飛び散っている。魔剣が、折れていたのだ。


「セシル! 前!」

「うがっ!?」


 何だ……何が起こったんだ……。なんでドラゴンがあんな遠くに……いや違う、俺が吹き飛ばされたのか……?


「セシル!」


 シェラの呼ぶ声が聞こえる。でも駄目だ……体が動かない……。


防御壁バリアウォール!! 頼むから生きてセシ……ミ゜ギョ」

「シェラ……?」


 え……なんでシェラの首があんなところに……。


「う、うわぁぁああア゛ギャッ……セ、セシ……」

「……は?」


 ハーゲンの首が、俺の足元に……足元?


「うああぁぁああっぁぁああぁ!?」


 こ、殺された? シェラもハーゲンも? そんな……俺のせいで……。


「グアアァアァ!」

「ひいぃぃっぃぃい!?」


 シェラが張ってくれた防御壁だって永遠に守ってくれるわけじゃ無い……もう駄目だ終わりだ。俺がドラゴンを倒そうだなんて言わなければ! 誰か……誰か助けてくれ……!


「グアアッァアア゛ギョッ」


 ……何だ? なんで俺まだ生きて……。もしかして助かったのか? 誰かがドラゴンを倒してくれたのか? 


「あ、ありがとうございま……あ……あぁ……?」


 目を開けると入って来たのは、首から上が消失したドラゴンの姿だった。まるで何かに食われたかのように……。


「グルゥゥゥゥゥゥ……」


 突然上からうなり声のようなものが聞こえてきた。さっきまで戦っていたドラゴンのものよりもさらに重く大きな……。


「は……ははっ……」


 もう終わりだ。俺はここで……。




「あれか!」


 岩山の中に赤いドラゴンが見えた。確かにワイバーンよりも巨大な姿をしているな。


「……間に合わなかったか」


 ドラゴンの周囲には二人の死体が転がっていた。恐らく話にあった冒険者パーティのメンバーだろう。それに首を失ったワイバーンも倒れている。そんな死体だらけのあの場所にまだドラゴンがいるということは、恐らくまだ何かを狙っているな。もしかしたら生き残っている者がいるかもしれねえ。


「獣宿し『炎竜』!!」


 全身に炎を纏わせてドラゴンに突っ込んだ。そしてそのままの勢いでその巨体を吹き飛ばし、辺りを確認した。


「ひぃっ……!?」


 良かった。間一髪間に合ったようだな。


「グゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「おお?」


 結構な勢いでぶつかったが、今ので倒れないのか。流石あれだけやばさを語られたドラゴンだ。ワイバーンとは全然違うみたいだな。


「よし、ならこれでどうだ!」


 全身に纏っていた炎を爪に集めてドラゴンに向けて放った。


「グオオォォォォォォオオ!!」


 苦しんでいるような叫び。恐らく効いているだろう。ドラゴンもまさか自分が焼かれることになろうとは思っていなかっただろうな。


「せっかくだ。お前の力も貰うぞ」


 ドラゴンの体に手を触れ、その力を吸収した。手に入ったのは獣宿し『炎龍』。何となくわかってはいたが、やはり『炎竜』の強化版のようだな。


「さて」

「ヒィイィィィィ!?」


 あ、そうか。俺の姿は今ワイバーンになっているんだったな。


「これでよし」

「え……女の子?」

「いや俺は男だ。いや今はそんなことはどうでもいい。とにかく国に戻るぞ。ドラゴンロードを倒した影響で他のドラゴンやワイバーンに異常が出るかもしれない」

「は、はい……ひぃぃぃぃぃ!?」


 冒険者の青年を抱え、飛んだ。強い力を持つ者がいなくなってそのエリアのパワーバランスがおかしくなると、だいたい何かしらの異常が出てくる。そうなる前にさっさととんずらするに限るぜ。にしてもこの青年よく叫ぶな。こんなんでよくドラゴン討伐になんか出たもんだ。




「では他のパーティメンバーは亡くなったと……」

「はい……俺が無理やり連れて行ったせいで……うああぁああっぁああ」

「これはもう駄目かもしれんな」


 PTSDと言うやつか。もうあの青年は冒険者としては活動できないだろう。とは言え張られていた防御壁と周りの死体の状況から、俺がギルドを出た時にはパーティメンバーは既に死んでいた。彼だけでも助けられたのは奇跡と言えるだろう。


 ……しかし、助かったのが本当に彼のためになるのかはわからないな。今後一生苦しみ続けて生きることになるのなら……いや止めよう。彼がどう生きるのかは今後の彼次第だ。俺がどうこう考えることじゃない。


「サクライ殿。ドラゴンロードの討伐を見事成し遂げてくれたこと、誠に感謝する。是非何か報酬を与えたいのだが、要望はあるかね」

「報酬……ですか?」


 報酬か。それなら……。

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