第9話


「詩音っ!!あんな事してごめんっ!!」


2限目が終了したチャイムが鳴り、暫くすると気不味そうに俯きながら詩音が教室の扉をくぐろうする。すると皆の視線が詩音に集まり、その視線の強さと多さにたじろいだ詩音が歩みを止めた途端、遙がクラスメイトの机をなぎ倒しながら駆け寄ってきてジャンピング土下座をきめた。


突然の遙の土下座に戸惑い、口元をおさえ言葉を失う詩音。

『しぐれ』としてはこのまま頭を思いっきり踏みつけるまでが自然な流れであるため、どう対応して良いか咄嗟に思い付かない。そして遥のそんな姿に唇が弧を描いているのを隠すために口元を両手で必死におさえながら噴き出さないように今は必死に耐えている。


そんな戸惑い言葉を失った詩音の姿を見かねて、翼がフォローに入る。

遙のそばに立ち、足でコツンと遙の頭を軽く蹴る。


「あのな……、詩音。こいつもあんな事をして詩音を泣かせた事を反省しているみたいなんだよ……。あの後に俺達クラスメイト全員でこいつのことシメ……、じっくりと話し合いをしてさ――」


「悪かった!!詩音っ!!俺とまた友達になってくれっ!!」


翼の言葉を遮るように大声で話し出す遙。翼が小さく舌打ちし、遙を睨み付けるように見下ろす。


そんな2人の様子をおろおろした様子で詩音は見比べ、意を決した様子で遙に目線を合わせようと膝を折りしゃがみ口を開く。


「あのっ……、遙、僕こそごめんね!あれって外国だと挨拶なんだよね?あの後に清晴先生に教えて貰ってさ……。僕、知らなかったから大袈裟に反応しちゃって……、僕こそまたお友達になってもらえたら嬉しいなっ!」


詩音は自分の無知さを恥じらい、頬を赤くそめながら照れくさそうにはにかんだ笑顔を浮かべた。


「「ん゛ん゛んん」」


翼や周りのクラスメイトが胸を押さえながら息を荒くしたり、顔をきゅっと真ん中に集めた顔をしだす。


「ありがとう!詩音!!」


ガバリっと顔を上げた遙。その拍子に黒もじゃアフロのカツラがズレて鮮やかな赤髪が見えそうになったのを詩音が遙の頭を撫でるフリをしてガッと掴み咄嗟に元に戻す。

周りの人間は詩音が遙と仲直りのために頭を撫でている姿に「天使が可愛い!でも羨ましすぎる!」と複雑な心境を抱えた。


「こちらこそ!よろしくね!遙」


詩音は友好的な声色とは似つかわしくないうっそりとした笑顔を悠然と浮かべた。

遙はそんな大人びた微笑みを浮かべた詩音にポーと見惚れた様子で正座で頭を少し上げたまま頬を赤くそめながら目を丸くし固まった。


『しぐれ』はコイツ馬鹿なんじゃねーか?隠してんなら用心しろよ?!と心の中でありったけの罵詈雑言を遙に浴びせた。

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