MISSION12:未確認巨大構造体調査任務(2)
ユニティ未統治地域であるオリンピア高原を、13機のAMが駆け抜ける。
最も、ディサイドの有視界範囲内には1機も映っておらず。その全てはレーダー上の光点としてしか認知できないのだが。
動くものがなにもないモニターの上に広がるのは、いつもと同じ赤茶けた荒野―― ではなく、ところどころに雪や氷が積もった火星極冠付近ならではの光景で。空の青を映した氷はまるで宝石のように輝きを放っている。
モニターの中に広がる光景は美しく、複数の
『しかし、
「知り合いの中で、一番支援能力が高い奴を選んだだけだ」
絶景が写るモニターの端に開いたウィンドウに、痩せぎすの顔に少々の呆れを浮かべる
ニアド・ラック自身が自分では対処出来ないと依頼をこちらに回したのだから。雇うな違うタイプの
『……オリンポス杯で襲ってきた奴が、誰だか知ってて言ってんのか?』
「少なくとも、
そう、無関係だ。公的なデータに。あの時の襲撃者とジャックを結びつけるものはどこにもない。ただ実際に戦った感覚で言えば99%の可能性でジャック本人であることはディサイド自身も理解できている。
可能性としては、
『……ったく、そう言われちゃ。サボれねぇなぁ』
「まぁ、30000CASH分の仕事をしてもらえれば」
マグガイン社からの依頼料は前金10万CASH。そして
成功報酬は情報に応じて上限はするが、正体さえ確定出来れば撃破必須ではない。
だからこそ、正面戦力と機動力で優れる
「ディサイド、マッピングはどれくらい進んでる?」
「ああ、データは大体揃って来た。事前に入れておいた解析ソフトウェアで――」
過去の測量データから再構築した3Dデータと、ジャミングの強度と規模を手作業で重ね。そこから推定される調査対象の規模を推定していく。
既に複数回入力を行い、その毎に必要な情報を追加で収集を繰り返し、オリンピア高原に潜むものの正体にある程度目星はつけられた。
「……どんな前提条件を突っ込んでも、ユニティ内部の組織の仕業じゃない」
『なんだ、ライテック社辺りが裏で動いてるってオチじゃないってのか?』
順当に考えれば、それが一番可能性としてあり得る。
「一応、ライテック社にある伝手で裏も取った」
『それは、どれくらい信用できるんだ?』
「ライテック側はマグガイン社の自作自演を疑っていたし……」
「出されたデータが嘘だったら、既にライテック社は火星全土を支配出来ている」
マグガイン社を含む複数の企業体が公開しているデータと、矛盾なく偽造されたデータを捏造しながらこれだけの規模のジャミングが可能な『何か』を。ライテック社が秘密裏に用意できるのなら、もっと楽な方法で火星を支配し終わっている。
まぁ、小規模なデータの不一致や。ライテック社、マグガイン社、その他複数の企業が不正な行為はあったのだが。それらは、人間が社会的な活動を行っていれば発生しえる範囲に収まっている。
「結論として複数の
『この荒野に潜んでるってことかよ…… 』
アイリスの結論に、画面の向こうで
ディサイド自身は想定こそしていたが、実際にユニティ統治領域外に人類が把握していない何か潜んでいるという事実に少しだけ指が震える。
『いや、
「……10%」
『なんだ、驚かせるなよ』
もう一度、モニターの中でデータを精査しなおす。少なくともアームドマキナの操縦席で用意出来る演算リソースをフルに使って3度計算しなおして。ほぼ同じ結果が出力されていた。
「いや、1%」
『おいまて、つまり……』
「
当然、ディサイドが入力した前提条件が間違っている可能性はあり得るが、データがある程度集まり始めてから、別の手法の解析を3種類。それぞれの検算を2度行っている。その全てが見当違いな結果である可能性は限りなくゼロに近い。
「現時点でのデータを、ユニティのネットワークにアップロードしたい」
『依頼者を通さずに…… いや、そうだな。1機メッセンジャーとして――』
普通ならこの手の情報は依頼者であるマグガイン社に報告し、その公開の是非は依頼者に任せるのが筋だが。ユニティ外勢力の可能性があるのなら話は違う。
火星に移住した人類の規定基盤であるユニティから逸脱した勢力。つまり
だが
「敵襲…… 狙われてるのは、私たちじゃなくて」
『くっ? 状況は――』
機体を制御しているアイリスと
「僚機13機中6機が襲撃されてる。全員離脱ルートは確保しているが……」
もしも、奇襲を警戒せず。不用意な探索を行っていたら。この時点で
『敵の機種は、レイブか?』
「識別上はそうなっている――」
改めて、ディサイドは戦術データリンクシステムを通して僚機から送られてくるデータを解析していく。ユニティの基本戦術システムにおける照合において、今襲い掛かってくる敵機は間違いなく性能的にはレイブに分類して間違いはない。
「——けど、標準規格からのズレは平均で40%に迫ってるってのに」
だがそれは、管理できなくなり、人類の手から離れたAIに対し。一律に野生種のレッテルを張り付けて、碌に調べてこなかった結果でしかない。彼らの変化を、いや進化に向き合おうとしなかったユニティの怠惰。
『細かな分類や分析は学者に任せろ…… 生身の学者がいるかどうかは知らんが』
「ああ、わかってる。それはともかくそっちのチームは問題なく離脱は――」
「
その言葉で、ようやくディサイドは戦術データリンクシステムに高熱源が示されていることに気が付いた。ディサイドがメインパイロットであれば致命的な見落とし。
だが、今この機体を制御しているのはアイリスである。
グロッソの背中に据え付けられたヴァルター
大地を弾ませ、コンツェルト・グロッソが跳ねて飛び。
まだ切り替わらない意識の中で、
「レーザー…… けどこれは――」
規模が大きい、おそらく直撃すればAMですら蒸発しかねない程の大出力。
シールドを張っていれば、機体の原型は残るだろうが。これだけの大熱量を受ければ排熱が間に合わずそのまま行動不能になって終わりの
『おいおい、なんだよアレは』
強力なジャミングすら貫通する莫大なレーザーの残留熱。画面に広がる戦術データリンクシステム上に刻まれたその軌跡を追えば、発電施設に匹敵する巨大な熱源が、ゆっくりと移動していた。
『そりゃ、ブリーフィングで未確認巨大構造体があるって聞いてはいたが……』
推定距離10㎞、ちょうど水平線のラインで何かが動いている。ニアド・ラックを含むマグガイン社から提出されたデータで、オリンピア高原に地図にはない巨大な構造体があるという事は分かっていた。
おそらくはそれがジャミングを放っている元凶。ただし、その位置はまちまちで。今回の依頼のメインの目的は未確認の構造体の正確な位置の把握だったのだが……
「動いているってのは、予想外だったな」
「巨大構造体の熱量増大。第二射、来ます」
「……回避しながら、距離をもう2~3キロ詰めてくれ」
今回は完全に操縦はアイリスに任せて、ディサイドは情報の解析に専念することに決める。戦闘となれば二人で操縦したほうが効率がいいが、ただ回避に専念するだけならアイリス1人で問題はない。
『俺は、近づかんからな』
「こっちが観測したデータをリレー方式で伝達しながら撤退して欲しい」
『……依頼料を考えれば妥当だが、そっちは平気なのか?』
モニターの向こうの
「いざとなれば、音速だって越えられるこっちより。そっちの方が心配だ」
『ふん、こっちは半世紀以上
『まだ20にもなってないガキに心配してもらう必要はねぇし……』
ディサイドを子供扱いする言葉に、すこしだけむっとしてしまうが――
『この野生種AI群より、ゲッカ・シュラークの時のお前達の方がヤバかった』
どうやら
ディサイドは改めて、未確認構造体の解析を再開するのだった。
◇◇◇ The mercenaries start working for the success of the mission...... ◇◇◇
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