第5話 なんでこう、毎回トラブルに見舞われるん?



 イヤミでボッタクリなおっさんに書いてもらった手紙を持って、あーしはようやく街の中に入ることが出来た。

 やっとかよ。マジめんどかった。


 街に入ってとりあえず最初にやることは、この手紙を教会とかいうところに持っていって、ナントカの祝福とかいうのをやってもらうこと。

 そーしないと、あーしはまったく言葉が分からんでつーじないままなのだ。

 さっきのところでは、なんか不思議な棒を使うことで日本語が通じるようになったので、教会に行ってなんかしてもらったら言葉が通じるようになるって言われても、あ、そーなんって感じ。

 まーあんな道具があるんなら、そんなことも出来るんやろってね。


 つーかタブン、それもおカネかかるんだよね?

 おっさんが手紙代もぼったくっていきやがったから、あーしのオカネはまた減ってるし。

 つーか手紙って、これただのボロ紙にちょっと書いただけのメモなんですけど! これに一万とか高すぎ!

 よっぽど値切ってやろうかと思ったけど、もうメンドーだったからそんまま払った。マジ、ムダ出費だし。


 まあそんな“手紙”だけど、あーしにとっては大事なアイテムでもある。これなかったらマジどーしようもないかんね。

 街の中はイロイロ気になることもあるけど、とにかくまず真っ先に教会に行ってナントカをやってもらう! イロイロするのはそのアト!

 教会までの道は手紙用意よーいしてもらう間に聞いといたから、あとはそのとーりに行くだけ。ラクショーね。



 初めて来た街だから迷うかもと思ったけど、教会は表通りにあるデカくて分かりやすい建物だったから、迷わずに着くことが出来た。


 さっそくあーしは教会の中に入る。

 とりま、ここの人に手紙を渡したら、後はオマカセでやってくれるでしょ。

 つーわけで、ここの職員的な人だろう特徴的な服を着た人に、あーしは手紙を見せる。

 手紙を受け取った男の人はそれを確認すると、あーしをどっかの室内に案内して、ここで待つようにってして出て行った。


 また待ち時間か。早くしてくれるといーんだけど……。

 待ってる間ヒマだしお金でも数えとこうカナ? イマ自分がいくら持ってんのかも分からんし。上手く数えられるのかはショージキ自信ないケド……。

 てか、ナントカをしてもらうのにいくらかかるのかも聞いてねーわ。まあそれを聞こうにも、まず言葉つーじねーとどーしよーもないんやけど。足りんかったらどーしよ?

 まあもう、とりまやってもらうしか無いよなぁ……。


 しばらく待ってたらおっさんが入ってきた。

 なんか第一印象からしてイヤーな感じするおっさんだけど、まあそんなの気にしてもしゃーないよね。

 なんか視線がネバついてる気がすっけど、あーしがちょっとカビンになってるのかも。やたら胸とか見てくるのは、オトコは誰でもそーだし。


 とにかくさっさとナントカをやってもらいたい。

 てゆーかまじナントカってなんだったっけ? 一回聞いただけだったから、ゼンゼン覚えれんかったわ。


 おっさんはあーしになんか言ってくるけど、トーゼンあーしは分からんので黙ってる。途中でテキトーに頷いたりして。

 まあ手紙は見たハズだから、向こうも分かってるだろーし。


 するとおっさんは何やら変な道具を取り出して、それをあーしに向けた。よく分からんけど、これを使ってやるんかなー。

 ショージキ今まででけっこー疲れてたから、椅子に座って休んでると眠くなってボーッとしてくる。

 いちおー、寝ないよーにはしてるけど、これ途中で寝ちゃったらヤバいやつなんかなー。


 おっさんがいよいよ何かを始めようとしたその時、一瞬にして眠気が吹き飛ぶ出来事が起こった。

 同時に体にイヤな感覚が駆け巡っていく。

 あーしはそれらの衝撃に固まっていた。そして、目の前のおっさんも固まっていた。


 なぜなら、おっさんにはあーしがトツゼン抜き放った剣が突きつけられていたから。——あーしは抜き放った剣をおっさんの首筋に突きつけていた。


 ——!? ちょっ! 剣くん!? どゆコト!?


 気がついた時には、すでにあーしの行動は終わっていた。

 ソレすなわち、剣くんによりあーしの体が勝手に動いたわけだけど、トツゼンの展開にあーしは眠気も吹き飛び仰天ぎょーてんしていた。

 なんだか嫌な気配を感じたと思った次の瞬間には、剣が抜かれていた。あーしの思考が追いつかない早技だった。

 気づいた時にはすでに終わっていたので、止めよーがなかった。さすがのあーしも、いきなり過ぎて思考が停止する。


 けどすぐに気を取り直す。

 いつまでもボーッとしてらんないし。剣くんがこーした以上、そこには何か理由があるハズ。

 まあ、理由なんて十中八九じゅっちゅーはっく、目の前のおっさんしかいないけど。

 さっきなんか変な感覚したし、おっさんが何かあーしにしよーとしてたってコト? ナントカって体に害のあるやつだったの? それとも、このおっさんがやろうとしてたのは別のこと……?


 判断しようとしても、あーしにはその材料が何も無い。

 おっさんがどーゆうヤツかもゼンゼン知らないし、今何をされようとしたのかも分からない。

 もしかしたらおっさんはまったく悪くなくて、剣くんの早とちりという可能性もある。

 どちらを信じるにしても、判断材料ざいりょーが無いからどーしようもない。

 

 でもあーしは、見ず知らずのおっさんと剣くんのどちらかを信じるなら、とーぜん剣くんを信じる。

 もしかしたら早とちりや過剰かじょー反応でしてしまったことだとしても、剣くんがあーしのためにしてくれたことなら、あーしはそれを受け入れる。

 なんせ今までにもすでに何回も助けられてるんだかんね!


 さて、剣くんを信じることに決めたのはいいとして——まーそもそも、このおっさんを信じるという選択肢は元からほぼゼロだけど——この状況を一体どーすればいいのか。

 おっさんが何をしようとしたのかは分かんないけど、現にあーしはまだ何もされてなくて、おっさんに剣を突きつけている。

 何かしら弁明べんめーしようにも言葉はつーじないし、そもそも剣を抜いた理由があーし自身よく分かっていないというこの状況じょーきょー

 アレ、控えめに言ってこれヤバくね? いや、マジどーすんのコレ?


 とか思ってたら、おっさんが大声でわめき始めた。

 なんつってんのかは分からんけど、あーしを非難しているのは確定だろーね。それは分かる。

 

 したらその声を聞きつけたのか、外から人が入ってくる。

 すると部屋の中の状況を見て、おっさんが剣を突きつけられてるからびっくりって感じ。

 いまさら剣を引くのもどーなんかと思って、あーしも突きつけたままだし、ぶっちゃけ引くタイミングが分かんなくなってるのもあるケド……。


 なんてあーしが迷ってるうちにも、どんどん人が集まってきてるんスけど……。

 ヤベーな、これかなり大事おーごとになっていってるくね?

 どーすんのあーし、なんか人質取って立てこもってる逃亡犯みたいなんすケド。

 いやみたいっていうか、モロそーなのか? 状況をみるに、完全にあーし立てこもり犯じゃん。剣突きつけて、こっちに来るなー! ってゆー。

 ならもういっそ、このおっさん人質にして立てこもっか。


 いやいや、立てこもってどーすんのよ。

 つーか立てこもり犯って最後捕まってるイメージしか無いんだけど、それじゃダメじゃん。ってかアレってアイツら何を目的に立てこもってんの?

 うーんと、アレは、大体は立てこもりが目的じゃなくて、ケーサツとかから逃げてる時に建物に逃げ込んで、周り囲まれたから人質取って立てこもるって感じっしょ?

 じゃあ立てこも君のゴールとしては、ケーサツを巻いて逃げれたらオッケー、ってことカナ?


 だとしたら、今のあーしの状況じょーきょーもそーだな。とりまこの建物から逃げ出さないと。

 ショージキ、ここの人たちって見たところ荒事に慣れてなさそーだし、剣振り回しながら駆け抜ければフツーに出られそーだけど、いちおー人質取っとくか?

 見たところ、このおっさんそこそこエラい人っぽいんよな。周りの人達の態度とか、なんかそんな感じだし。


 こんなことになった以上は、通訳のことについてはイッタン諦めて、逃げんのを一番に考えないとしょーがないよね。

 つーかマジでどーしてこんなことになったわけ? あーしなんも悪いことしてないのに、いつの間にか立てこもり犯になっちゃってるんデスけど!


 まーなっちまったもんはしゃーねーから、とりまおっさん引き連れて出口まで行くか。あんま時間かけるとドンドン人増えて、こりゃいよいよめんどーダゾ。


 つーわけであーしは、おっさんの首根っこを捕まえて剣を突きつけて脅しながら歩かせる。

 周りの人たちには、


「おらおらー! そこを退かないとこのおっさんで黒ひげ危機一髪すっぞー! そんなの見たくねーってゆーなら道を開けろー!」


 とかなんとか叫びながら、剣をブンブン振り回す。

 まー、向こうはあーしが何言ってるのか分からないんだろうけど、剣振り回しながら叫んでる奴いたら、とりまみんな逃げるよね。

 ジッサイ、周りの人たちは我先にとその場を逃げる。

 大声を出しながらそのよーすを見ていたら、なんかちょっと楽しくなってきた。あひゃ☆


 さて、もう入り口が見えてきたぞ、というところまで来たら、その時ちょーど武器を持った兵士みたいな人たちが入ってくるところだった。

 ヤッベ、アレってもしかしなくてもケーサツ的な、取り締まりする系の人たちっしょ。

 うわ、ヤバ、マジ邪魔いんだけど。どーしよ。


 槍とか持った人たちが、出入り口の前であーしの方に槍の切っ先を突き出して並ぶ。

 あーしはおっさんに剣を突き付けながら、すばやく周りを確認して、後ろが壁になっているところに陣取った。——いや、人質取ってる犯人とか大抵後ろから来た人にやられる感じなんで、そこケーカイしました、はい。


 なんかお前、人質取るの手慣れてね? とか言わないでね。

 あーしはフツーの女子高生じょしこーせーだから、もちろん人質とか取るの初めてだし。

 誰にでも初体験はあるってコト。あーしはそれが、たまたま今日だったってダケ。


 しかしまさか、あーしの初体験がこんな見るからに悪役そーなおっさんとはナ……。もう見るからに、このおっさんって悪役顔なんよね。

 フツーに考えて役割が逆。あーしみたいな可憐カレンな少女がこのおっさんに捕まってたらしっくりくる。

 まったく、誰か知らないけどキャスト間違えてるョ。。。


 兵士たちとあーしとで向き合って、場は膠着こーちゃく状態になる。

 兵士たちはあーしに向かって何か言ってくるけど、おっさんを気にかけているのか手を出しては来ない。

 あーしの方としても、兵士まで出てきた以上、すぐさま突破というワケにもいかなくなり動けなくなった。


 くそー、マジどーしよ?


 兵士たちの強さを確認してみれば、剣くんいわく、大したことないっぽい。フツーにあーしなら一人で突破出来なくはないくらいのレベル。

 ただその場合は、おっさんが邪魔になる。まあすでにおっさんいてもあんま意味ないから、もーこのおっさん捨てて一人で突撃しても良いんだけど、タイミングをどうするかな……。


 ……てゆうか、なんであーしはおっさんを人質に取って、兵士に囲まれるなんてことになってんの? 意味分からんくね?


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