第2話 (剣に)導かれし者あーし



 唐突とーとつに襲いかかってきたクッマをはずみでってしまったあーしだったが、そのことは特に気にせずに先に進むのである。


 クマ(の死体)は放置して、剣くんに導かれるままに進んでいく。

 当て所なく進むのではなく明確めーかくに進むべき方向があるっていうのは、迷いながら進むより足の進みも早くなるみたい。

 

 しばらく歩いたら、あーしは無事に森を抜けることが出来た。それからもう少し進んだら、どうやら道のようなものがあるのを発見した。


「お、道じゃん。たぶん」


 なんか別に舗装ホソーされてるワケでもないからアレなんだけど、タブン道でしょこれは。

 道があるってことは、迷わなくて済むじゃんね。てかそうか。道があるってことは、誰かがここ通ってるってことじゃん。じゃあここ通ってたら誰かに会えるんじゃね?

 

 つーか道の先に街とかもあるかもしれないじゃんね。

 オイオイ、そこに気がついちゃうとは天才か、あーし。

 最強かよ道。道すげーな道。お前スゲーな、踏みつけて歩くわ(わら)。



 道の上を進んでいくと、先の方の脇に人が数人いるのが見えた。

 

 お、第一村人発見!


 そこでふと気がつく。

 あ、今あーし制服に剣持ってるヤツなんですけど。

 ヤバくね? それ。


 んーでも、あーしは剣くん置いていくつもりはゼンゼンないからなー。もうコイツと添い遂げるわってくらいの信頼度だから。

 だってクマも殺せて道案内も出来るとか最強でしょ。場合によってはスマホより便利じゃん。

 少なくとも、クマの出るよく分かんねー森でなら、スマホより役に立ったからねコレ。


 もうこれはアレだね。ナニ食わぬ顔して持っていくしかないね。

 とーぜんですーみたいな顔してたら大丈夫っしょ。

 相手も——あ、なるほど。剣を持ち歩いてる人なんだね。って納得……するかなー。納得するとしたら、それはそれでヤバいヤツだし。

 

 とか思ってたけど、そんな心配はムダに終わった。なぜなら、見えてきた相手も剣を持っていたから。

 マジか。今この辺で剣って流行はやってんのかな? あーし自覚せずとも流行りに乗っていくオンナだったのか。やっぱあーしってさすが。


 んーでも、ファッションで持ってるんじゃ無かったらヤバくね? フツーに銃刀法ジュートーホー違反っしょ。

 んでも海外って銃刀法ジュートーホー無いんだっけ? ここってやっぱ日本では無いんかなー。

 

 だって顔が見える距離に来たら、完全に相手外人だもん。

 どー見ても日本人てかアジアの顔じゃない。ヨーロッパとかタブンその辺の人。

 服装もなんか気合入ってるっていうか、まあ、剣を持つんだったらそんな服装もありかもね。なんかフインキ合ってるもん。

 だいぶ全体的になんか古臭くてやさぐれてる感出てるけど、昔の時代の映画に出てくる悪役とかまさにそんな感じだよねって感じのファッション。

 しかしまあ、それがしっくりきてるんだから、相当でしょこの人ら。


 あーしが来たことに向こうも気がついたみたい。こっちを見てくる。

 どーも目つきがよろしくない。控えめに言ってクソ睨んできてるけど……せっかく人に会えたんだから、話しかけないわけにはいかないっしょ。

 日本語以外はサッパリだけど、まあ、“ぼでぃーらんげーじ”ってやつで何とかするっしょ。

 あとはノリと勢いがあれば大抵は何とかなるって、海外旅行が趣味の従姉妹イトコのアスナちゃんも言ってたし。


 向こうは四人で、全員男。

 年齢は若い人で二十代、他は三十代から四十代ってとこかな? たぶん。外人の年齢って意外イガイと分かんないよねー。

 

 あーしはなるだけフレンドリーに見えるように振る舞おうとしたけど、剣を持っている時点で諦めた。まあ向こうも持ってるし。

 ……つーか剣持ってんだよなコイツら。大丈夫か……?

 

 土壇場どたんばでちょっと不安になってきたけど、すでに相手とコンタクトしていた。

 男たちはあーしを上から下までジロジロと眺め回したあと、取ってつけたように愛想笑いをしながら、あーしに話しかけてきた。


 ——あー、やっぱりね。なに言ってんのかサッパリ分からん。

 男たちが話しているのは、まったく聞いたことがないカンジの言葉だった。

 ワンチャン、英語なら単語だけでもいくつか聞き取れないかなーとか思ってたけど、撃沈。

 こりゃまったく分かりませんワ。マジ何語だよそれ? 地球の言語か? まったく聞いたことない。中東とかその辺の言葉じゃねーの知らんけど。

 

 男たちは、話しかけても返事をしないあーしにいぶかしげな表情を浮かべる。

 あーしはとりあえず身振り手振りで、言葉が分からないことを伝えようとしてみる。


 とりま言葉が通じないことは伝わったみたい。

 だけど、じゃあそれでどーすっかって言っても打つ手なし。

 あーしとしては、街がどっちの方向にあるのか知りたい。

 道を進んで行けばいつかは着くかもしれないけど、道をどっちに進めばいいのか分からない。

 片方は街に行く方で、片方は遠ざかる方かもしれない。逆の方でもいつかは街に着くかもだけど、今は一刻も早く街に行きたいワケだし。


 最悪の場合は、どっちを選んでも遠いのかもしれない。

 その場合はこのまま一人で行くのはムリだろーし、そうなるとこの人たちについていくしか無くない?

 男四人に囲まれるのはイヤなんだけど、他にどーしようもないし。


 つー感じのことを伝えようとしてみたけど、ゼンゼン伝わらん。

 マジ単語だけでも分からんと、どーにもならんくね? 街って言うことすらできねーし。

 向こうもイロイロ察してくれたらいーんだけど、どーも伝わってる気がしない……。


 どうしようかと思っていると、男たちが手招きし始めた。

 ついて来いってことだろうけど、これって一緒に行ってくれるってことなのかな。そーなんだよね?

 

 というわけで男たちについていく。

 すると森の中に入っていき、しばらく行ったところで止まった。


 ——いや何で森の中に? どういうことなん……。


 そう思ったところで、途中からあーしを挟んで後ろを歩いていた男が、いきなりあーしに飛びかかって来た。

 

 すぐさま、手に持っていた剣を鞘入りのまま後ろから飛びかかって来る男に突き出した。

 鞘の先が男の腹に突き込まれて、カウンターをモロに食らった男は、グッ——とうめいてその場にうずくまった。

 

 周りの男たちが反応するより先に、あーしはその場を飛びのいて、三人が視界に入るような位置まで移動する。

 三人も反応して、あーしを取り囲むように周囲に広がった。


 後ろからの奇襲に振り返りもせずに反応はんのー出来たのは、トーゼン剣くんによるものだ。

 あーしもいちおー、警戒はしていたつもりだったんだけど、そもそも男たちに後ろを進ませたのがダメダメだったとイマサラになって気がついた。

 なんかいつのまにか、アイツらしれっと後ろに回ってんよな。

 

 ともかく、今は目の前の状況だ。

 男たちに囲まれて、あーしは女の子一人。

 あれ、これってピンチじゃね?


 いや、どーかな。ショージキこいつら、あのクマよりも弱いでしょ。四人がかりでもクマに負けるっしょ。

 で、そのクマに勝てるあーしよりトーゼン弱い。後ろからの不意打ちも失敗したし。


 でも問題は、相手がクマじゃなくて人間だってコト。

 何が問題かというと、さすがのあーしも、人間をクマと同じようにぶっ殺すのはムリってこと。

 つーかひとゴロシとかフツーにNGなんで。いくら相手が、トツゼン抱きついてくる変態とその仲間達でも、殺すのは気分良くない。つまらぬ物は斬りとぉない。——いや別に、クマが斬るのに面白いってワケじゃないんだけど。


 かと言って、じゃあ剣くんを使わずにどーにか出来るかっていうと、それはムリなんだけど。

 

 ——どーすかね、剣くん。殺さずに何とかイケね?

 ——え、イケる? イケそう? ほぇ、イケちゃうんだぁ。

 

 ジッサイに剣くんと会話したわけじゃないけど、なんか出来そうな感覚が伝わって来た。

 そういうことなら、あーしは剣くんを信じる。デカいクマも余裕ヨユーな剣くんなら出来る。

 ——でも最悪の場合は相手コロしちゃってもオッケーだから、そこんとこヨロシク。やっぱ自分が一番大事。


 あーしはすらりと剣を抜き放つ。

 相手の男たちもすでに剣を抜いていた。んで仲間内で何かを言い合ったり、あーしにも何か言ってきてるけど、あーしはとーぜん無視。

 

 あーしのことを警戒しているのか、なかなか襲いかかってこない。

 と思ったら、腹を突かれて悶絶モンゼツしてたヤツが復帰した。

 なんだコイツ待ってたのかよ。三人居ても足りないんかオイ。


 一人増えて四人であーしを囲む。

 四人いれば、たしかにあーしを完全に囲める。ただあーしは木を背にして立っているので、完全な後ろはあまり意味がないケド。

 なので相手も、後ろよりはジャッカン手前で囲んでいる。前を向いた視界にギリギリ入るかどうかくらいのところ。

 

 と、あーしが後ろの奴らを気にしていたら、手前の奴が襲いかかってきた。

 その動きは、どうやらあーしが構えてる剣を弾くのを狙ってるみたい。これは、あーしを殺す気は無いってことなのか、それとも……。


 相手が剣を振りかぶってる頃には、あーしは自分の剣を引いている。相手の剣は空を切り、勢いあまって体勢を崩す。

 そこに我が剣くんは切り込んでいく。もはや相手の剣がまだ振り終わっていないくらいで突っ込んで行ってる。マジ剣くんギリギリを狙ってるわ。

 相手が剣を振り終わって動きが止まった時には、あーしの剣が相手のアタマの横を打ち抜いていた。

 当たる直前に手首を返して、剣の腹の部分でぶっ叩く。ぶっ叩かれたそいつは一発で気を失った。——タブンね、そんままぶっ倒れたし。


 相手が倒れきるよりも早く、あーしはその横を抜けて前に出る。これで包囲を突破したことになる。

 それから、すばやく後ろに振り向いて連中を視界に入れる。


 一番近くにいる奴。さっきの囲みの時にあーしの前に居たうちのもう一人。そいつは仲間があまりにもアッサリやられたんで、驚いて固まっているようだった。

 なので間を置かずにあーしは突っ込む。

 剣を振り上げると、ソイツはとっさに反応して自分の剣をかかげて頭部を守ろうとする。その頃には、あーしの剣が男の太ももを打っていた。


「アウッ」


 みたいな声を上げて、打たれた男は膝から落ちる。——とっさに地面に手をつこうとして、剣が下がる。

 その時点で、すでに右から男の側面に回り込んでいたあーしは、剣を振り男の頭を打つ。とーぜん剣の腹の部分で。ちな、太ももの時もね。


 あっちゅう間に二人がやられた。

 あーしは残りの男に無造作に近づいていく。

 男は訳の分からないことをわめきながら、剣をやたらと振り回してくる。

 たぶんこれ、あーしが言葉分かっても何言ってるか分からないやつでしょコレ——とか思いながら、あーしの剣は男の剣を吹っ飛ばしていた。

 武器を無くした男は、何やら——降参です! みたいなフインキを出したが、あーしの剣くんは返答として無造作に頭を殴った。


 男がぶっ倒れて、最後の一人は、とそちらを向いたら、ソイツは武器を捨てて一目散に逃げ出すところだった。

 コンマ1秒迷った末に、あーしは追いかける。——いや、逃がすよりは仕留めたがいーかなーと。今なら問題なく追いつけるだろーし。

 

 案の定、少し走ったらすぐ追いついた。そのまま追い越して前に回り込む。そして剣を突きつける。

 しかし、男はすぐに止まりきれずに地面を滑りながら突っ込んできて——危うく突き出した剣に刺さりそうになる。

 あーしは慌てて剣を引いて、


「死ぬ気かアホォ!」


 と、叫んで男の頭にフルスイング。

 打った! これはいい打球だ、ツーベース!

 男は地面スレスレを飛び——ズザザザザ! 背中から落ちた。


「し、死んでへんよな?」


 なんか変な関西弁みたくなりながら、吹っ飛んだ男を確認する。——よかった、生きてる。

 ふぅ、危うくっちゃうところだったじゃん。アブネー、アブネー。……なんで襲われたコッチが、襲ってきたやつの心配しなきゃいけないワケぇ?



 とにかく、ぶっ倒した男たちを確認する。

 全員生きてる。そして全員、完全に伸びてる。こりゃ、しばらくは目を覚ましそーにネーゾ。


 まさかの第一村人が第一強盗だった件について。まあ、剣とか持ってた時点で怪しいと思ってたけどなー。

 それでもいちおーついていくじゃん。せっかく会ったんだもん。その結果、こういう結末で終わったとしても、それはあーしの責任ではない。

 

 つーか襲われたあーしは被害者なわけなので、損害賠償ばいしょーとか請求してもいいはずじゃね?

 つっても、こんなところでどうやって請求したものかというワケなんだけど。まあそこは、ほら、貰えるもん貰っちまうとか?

 まるでこっちが強盗みたいだけど、襲ってきた連中に遠慮エンリョする必要とか無くね?

 つーか今、あーし無一文だし。持ち物って剣だけだし。確かに売ったら高そうだけど売るつもりねーし。ゼッテー売らねーし。


 というわけで、強盗たちの持ち物をあさってみた。

 連中のカバンを一つ借りパクして(もちろん返すつもりは無い)、その他諸々モロモロも借りパクする。


 まずは金。なんか袋にコインがジャラジャラ入ってた。見たことないコイン。とりあえず見つけた分だけ集める。

 あとは水の入った袋とか、ナイフとか、食べ物とか、何に使うのかよく分からん道具も色々。


 持っていく物とそうでないものはテキトーに選別した。

 明らかなゴミっぽいやつは除いて、なんとなく使えそーな感じのやつとか、売れそーなやつを選んでいく。

 

 それと、連中が剣を身につけるのに使ってたベルトみたいなのも頂いた。

 剣くんをカバンに入れててすぐ使えないのも困るだろうし(そもそも大きさ的に入らないケド)、ずっと手に持っとくのもダルいから、これは要るよね。

 そのベルト的なやつを使って剣を腰に吊る。

 おお、これはあーしマジ剣士。制服に剣って違和感ハンパないっス。



 さて、男どもが起きても困るし、さっさと先に進もう。

 男たちは別に縛ったりとかしてないので、起きたら困る。もちろんトドメも刺してないし。

 ロープは男たちの荷物に入ってたけど、縛り方分からんし、縛ったところでどーするわけでもないので、あーしは知らん。


 つっても、どっちに進めばいいのか分からんのやけどね。

 けっきょくアイツらは、何一つ有用な情報は出さなかったし。言葉つーじないから言われても分かんねーわけですケド。

 

 しゃーね、もうこうなったらまた剣くんに聞くかー。


「ケンくん、街はどっちに行けばいーの?」


 そう言って剣くんから手を放す。

 相変わらず自力で立ってる剣くん。どちらかに倒れる様子は無い。——剣くんにもさすがに分からんか……?

 と思ったらトツゼン、剣くんがものすごい勢いで上空に飛んでいった。


「いやなんソレ!?」


 あっという間に遥かな彼方に登っていった剣くんは、今はもう目で見えないほど遠くに行ってしまっているよーだ。


 え、てか何、どーゆうこと? 

 ……剣くんまさか実家に帰ったの? あーしにこき使われすぎて嫌気がさしちゃった?

 そんな……、何もこんなトツゼン居なくならなくても……。それならそうと言ってくれたらあーしとしても……いや、まあ、剣くんに頼らないでここまでくるのはフツーにムリだったろうけど。

 ……それならそれで、道くらい自分で決めればよかったのかな……。でもいくらなんでも、こんないきなりお別れなんて……。

 

 と、おセンチな気分にひたっていたら、ビュッってカンジに剣くんが戻ってきた。


「あ、戻ってきた」


 ヨカッター、戻ってきてくれたー。

 つーかどこ行ってたん? トツゼン過ぎてあーしマジビビったんだけど。

 と思ったら剣くんは、道の上でパタリと一つの方向を指し示した。


「あっ、道分かったん?」


 道が分かったのは良かったけど、ならなんでワンクッション謎の行動挟んだんだろ。

 てか剣くん自力で飛べんだ。いやつーか、飛ぶとか言うレベルじゃなかったけどね。ロケットの発射かよって。


 いや、もしかしてアレ? 上に上がって周り見渡して街探してくれたんかな?

 え、剣くんってそーゆう感じなの? フツーに上から見回して探したりするタイプの剣なの? でも人探した時はそんなん無かったけど。うーん、分からん。

 ま、剣くんがよく分からないのは最初からだし、なんか飛べるって分かったからそれでいっか♪

 つーかあーしも飛べたりしないかな。そしたら移動すんのめっちゃ楽なんだけど。


 そんなことを考えながら剣くんを握ったら——えっ、ウソ……、マジで、イケるの?


 どーやら飛べるっぽいぞあーし。


 

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