第19話 風雲たけし城INミングオンへ上陸

 12月27日朝。喉の渇きで目が覚める。

 洗濯物を乾かすためにエアコンをつけっぱなしで寝たからだろう。洗濯物も十分乾いている。ドライ機能がついていて助かったが、おかげで喉までドライされた。

 朝食は1階ロビーで6時から提供される。部屋番号を言えば、ミャンマースタイルの朝食とアメリカンスタイルの朝食が選べる。私はアメリカンスタイルをチョイス。トースト二枚、コーヒー、フルーツ。適量でありがたい。

 昨晩はマンダレーヒルでHPを使い切ってしまい観光を終えた。玄関口にいたバイクタクシーにダイヤモンドセンターと言うショッピングモールへ行って欲しいと告げ、モールのスーパーでちょっとしたお土産と夕飯と水分を購入して帰宅した。

 ちなみにショッピングモールでは、賑わっているのはスーパーだけだった。アパレルや家電量販店なども入っているが、ほとんどお客さんがおらず、店員さんはずっと携帯をいじって時間を潰していた。料金体系がこの国に住む人々の生活にマッチしていないのだ。観光客を見込んで商売しているところなんだろうが、アパレルで売っている服は、この地域でしか着用できないようなクオリティだし、このテナントに入った人たちが望むほど、観光客の数も多くはない。ヤンゴンとバガンだけ来て満足する人々も多いのだろう。テナントの出入りの激しいショッピングモールだろうなと入り口付近の臭いで分かった。

 昨日のうちに、マンダレーの半分の市内観光を終えたので、今日はマンダレーから船で行ける街、ミングォンへ向かう。

 今朝も悔しいくらいに良い天気だ。宿の前にある寺院に停車していたバイクタクシーをナンパする。ミングオン行きの船着き場まで2000チャットで交渉が成立した。  

 なかなか英語が通じないから、ミングォンの地図を見せて、ここに行きたいのだとトライバーと交渉するも、本当に理解できたのか実感がない。当たり前だが、こちらの国の場合、地図が読める人がほんの一握りなんだ。教育課程(そんなもんがちゃんとあるのかも知らんが)で、地理教育がなされているのかも定かではない。だから、ジェスチャーが一番通じることが多い。

 走ること10分で、マヤンチャン埠頭へ到着。行列のできていた小屋でパスポートを見せ船のチケットを買う。船代は往復5000チャットだ。

 船の時間は9時出発。帰りは12時30分発しかない。1日この往復1便のみ。これに乗り遅れたら、地元の人の船をチャーターするしかない。たが心配せずとも、2時間で十分回れる町だった。

 今日はどのようにミングォンを回ろうか。地球の歩き方を見ながら作戦会議をしていたら・・・

 日本語で声をかけてきた2人組。福岡から来たと言う。中国の昆明経由でマンダレーに来た強者。昆明の空港では空港泊もしたという、けんちゃんと大森君と言う2人。これは仲良くなれそうだ。ミングォンは3人で回ることにした。

 9時、小舟に乗り込む。船までの渡し橋のアスレチックさを目の当たりにして、

「風雲たけし城みたい!」

と叫んだ、けんちゃんのその台詞、聞き逃さなかったぞ。同世代決定!

 この『風雲たけし城』のアトラクションみたいな橋がいちいち危なっかしい。船に乗るまで大冒険だ。隙を見せると細い橋の割れ目から、たけし軍団の邪魔が今にも入ってきそうだ。助け合いながら、急いで船に乗り込む。

 私たちが乗った船はもたもたしていたから、9時15分ぐらいに出航。スピードはかなり遅い。それにしてもエーヤワディー川は汚いなぁ。インドみたいになんでも流しているのだろう。

 2人は宿から自転車で港まで来たと言う。すでに汗だくになっていた。ひょんなことに、たまたま、お互いに教育絡みの仕事に就いていて、話も合い、船上では盛んに愚痴が飛び交った。

 彼らが勤務地は、教員採用試験が倍率1倍台であり、いろんな採用方法でかき集めていることで有名である。こちらはかろうじて2倍台をキープしているものの、校長の娘などは即採用されるという、残忍な手口もまだまだ横行している昭和な地域だ。

「変なんばっかりいますよ。」

「こっちも毎年逮捕者出とる。」

「どこもそう。」

 特別支援学校で勤務している彼らは、特に変な人と出くわすことが多いと話す。結局正規職員になると犯罪起こさない限りは、クビに出来ないから、仕事のできない奴としての左遷先となるのが、特別支援学校なんだ。

 いやいや、こちらもそうよ。普通学校でもそう。特別支援学校送りになる寸での人間が、各校1人は生息しとる。ずっと会議中にゲームしている人とか、管理職席の目の前に座っているのに、ずっと馬券を買っている人とか。特別支援学級の担任はマンツーマンが多いから、チャチャっと算数を教えながら、株の運用している人も多い。   

 タブレットで教材を探しているふりして、チャート表見ている感じ。

「どこにでもいますよね、そんな教員。」

 船上からの景色を堪能しているふりをしながら、ため息を食べ合う。

 波長から楽しい旅になりそうだと予感が走る。

 船の上にはミャンマーの国旗。黄色は国民の団結、緑は平和と豊かな自然環境、赤は勇気と決断力を象徴し、三色の帯にまたがる白星はミャンマーが地理的・民族的に一体化する意義を示している。

 船の中には生活用品もたっぷり収納されている。どうやら操縦している家族は、この船の中で暮らしているようだ。自分たちの家で観光客を送迎するのはすごい。

 10時ミングオン到着。何台も外国人を運ぶために船が出たが、スピードが遅いせいか、一番ビリだった。またここでも、風雲たけし城さながらの綱渡り状態で、上陸する。

 待ち構えていたトゥクトゥクドライバーが、一気に吐き出された観光客を取り囲んでいく。私たちは振り切って前へ進む。ミングオンの方々も必死だ。だって大抵の外国人が12時30分で帰ってしまうもの。商売ができるのは2時間限定だ。




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