第15話 第1の祭壇

「第一の祭壇にいってみましょう」


 朝食の席でエリカさんがそう、言い出した。

 朝食は昨日獲った熊の肉を焼いたもの(この世界では肉はどれも同じになる)と、オサダゴワの無精卵を焼いた卵焼きだ。そしてクリスタルで合成したコーヒーをすする。


 拠点には簡単なテーブルと椅子が作ってあるので食事はそこで取っていた。


「タケルの言っていた捧げもの?アイテムも一体分は手に入ったし、もしあのアトラク=ナクアって言うのがボスフィールドを離れてうろついているならこれだけでOKよね?」


「そうですね。一度の遠征でうまくいくかどうかは置いておいて、祭壇がゲームと同じ操作を受け付けるかどうかの確認はしたいですね」


「決まりだな。なら、すぐに行こう。私はこういうのでグズグズするのが苦手なのだ、即断即決だ」


「はいはい、わかりました。でも朝食を食べ終わるぐらいまでは待ってください」


 ここ一ヶ月一緒にいるがシズカさんにはいつも急かされる。


「あとこれ、護身用の剣です。昨日余った素材で作ってみたのです。あまり使う機会はないかも知れませんが怪物から振り落されたときとかなにかに使えるかも知れません」


 エリカさんとシズカさんに西洋風の剣を渡した。女性でも扱いやすいようにそれほど長くはない。


「ありがとう。助かる。使う機会がないといいけどな」


「そうね。ありがとう」



「道を塞いでいるな」


「ええ。塞いでいますね」


「どうします?」


「アレだけでかいと、小細工は通用しそうに無いな。カルカロスを全面に立てて噛み殺すしかあるまい」


「そうですねえ」


 祭壇へ向かう最後の道でアトラク=ナクアが待ち構えていた。

 周りの小高い丘を蜘蛛の糸でつなぎ、巣を作っている。


 私達三人は、少し離れた丘の上からクリスタルで合成した望遠鏡で偵察している。

 望遠鏡の製作には水晶が必要なため、最初の拠点で採取した分が役にたった。

 すると、アトラク=ナクアが待ち構えている道の前方から歓声が聞こえた。


「あ、ナイナメス達だ」


 ナイナメス達はアヴィド二頭を前方に立て、その後ろに小型のアティスという怪物に乗った兵士たちが続く。


 ナイナメス自身は最後尾で指揮を取っているようだ。


「アティスは火を吹きますからね。蜘蛛の糸対策には良いでしょう」


 ナイナメス達が近づくとアトラク=ナクアが戦闘体制に移行する。

 小さい蜘蛛達が腹の後ろからワラワラと這い出してアティス達に糸を吐き出した。

 それをアティス達が火を吐いて燃やして迎撃する。そのためアティス達に糸は届かなかった。


 子蜘蛛達は大型のアヴィド達は無視して後ろの小さいアティス達に向かう。

 アティス達は更に火を吐き掛け、蜘蛛達の前衛が火だるまになってもがき苦しむ。


 しかし全部を燃やしきれない。肉薄してくる小蜘蛛と接近戦が開始され乱戦となった。

 アヴィド二頭が左右からアトラク=ナクア本体に飛びかかる。


 右側のアヴィドが左右一対ある巨大な爪の根元に食いつくことに成功した。

 左側のアヴィドは素早さが足りなかったのか喉元を爪に貫かれてその場に倒れ伏した。


 まだ生きているようだがしばらく動けそうにない。

 右側のアヴィドはそのままメリメリと顎の力で爪を引きちぎりにかかり、ついには爪を食いちぎった。


 更にそのアヴィドは追撃しようと一歩踏み出す。

 その時だった。


 ビシュッ!!

 アトラク=ナクアは尻から糸を出し、この道の両側にそそり立つ崖の上に貼り付けた。

 そしてその糸を巻き取って自分の体を空中に持ち上げる。


 そのせいでアヴィドの攻撃は空を切る。

 そのまま糸で体を振り子の様に揺らすとアヴィドを飛び越えて後ろのアティス達の上に着地して押しつぶした。


 乱戦をしていた子蜘蛛もお構いなしに殺したようだ。

 そしてその場で八本の足を高速に動かし、コマの様に回転した。


 鋭い爪や体から出た角が回転ノコギリの様にアティスや兵士たちををバラバラにする。

 しかし、それに巻き込まれなかった者たちもいて、アトラク=ナクアに火を吹き掛ける。


 それはわずかにダメージを与えたようで回転が止まった。


「な、ゲームじゃこんな動きしなかったぞ」


 私は思わず叫んだ。

 ボスフィールドでは直接的な攻撃ばかりでトリッキーな動きはしなかったはずだ。

 アティス部隊に大ダメージを受けていて反撃は散発的だ。さらにアヴィドの背後を取っている。


 アヴィドはその巨体故に方向転換に手間取っていた。そこをアトラク=ナクアは背後から覆いかぶさる。


 アヴィドが巨体と言ってもアトラク=ナクアの方が更に巨体だ。

 体重で押し潰されて更に頭部を鋭い牙でがぶりと食いちぎられて絶命した。


「退却だ!!」


 ナイナメスの声がここまで届いてきた。


「退却ー」


「退却しろー」


 それを受けて伝令や部隊長達が指示をだす。

 やはり通信機器が発達していない戦争だと声が通るっていうのは将軍の資質として大事だと実感させられる。


 まあ、俺たちは旋盤の設備とクリスタルのメニューから既に通信機を製作しているのでそういった資質の無さは補える。


 アティス部隊は既に撤退を終えていて、かなりアトラク=ナクアからかなり距離を取っている。


 喉を貫かれていたアヴィドはふらふらと立ち上がるとその後を追っていた。

 怪物は死んでさえいなければ、プレイヤーと同じく時間で傷が回復する。


 アトラク=ナクアは追撃する気はないのか、元の道を塞ぐ位置に戻ると動かなくなった。


「あいつが今の戦闘で受けた傷はどうなるのだ?」


「さあ?ゲームだとボスフィールドから撤退したら、次にフィールドに入った時は全回復していましたけど、この場合どうなるのでしょう?」


「ゲームにはない状態だものね」


 そのまま、しばらく様子を見るとシュウシュウと回復が始まっているようだ。

 しかし、その進みは遅い。右側の巨大な爪は失われたままだ。


「なあ、今、チャンスなんじゃないか?」


「え?」


「漁夫の利じゃないけど、今なら万全の状態と戦うより楽だと思うのだが」


「・・・それはそうですね」


「やってみる?」


「無理そうになったら、即撤退すると約束してくれるなら賛成します」


「決まりだな」



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