第21話

「さて、とりあえずテレーズ様のとこ行こうぜ。あの人、結婚式の準備も出来ねぇくらいエルザの事を心配してるぞ」


「分かったわ。転移で行くの?」


「ああ、もうちょっと時間貰えりゃテレーズ様のとこに繋がる転移の魔道具用意してやれる。そしたら安心だろ」


「けど……あんまりお姉様に迷惑をかけたくないわ」


お姉様は、やっとお幸せになれたのに。


「それ! エルザの悪いトコだ」


マックスに大きな声で叱られ、思わず身体が強ばりました。


「……悪りぃ。デカい声出して」


「ううん、大丈夫。わたくしこそごめんなさい」


「テレーズ様の所に行こう。今のエルザはだいぶ疲れてる。いちばん安心出来る人の所に行った方が良い。仕事も、今んとこねぇんだろ?」


「ええ。ジェラール様の通訳のお仕事が終わったから、しばらくは仕事がないって聞いてるわ。依頼があれば、冒険者ギルドに連絡が来るって」


「なら、俺にも連絡するように伝えとく。仕事が来たら教えてやる。とにかく今は大好きな姉さんの所に行って休め」


いちばん、安心出来る人。

確かに、お姉様だわ。


けど、それが分かるのはなんだか嫌だ。


「ねぇマックス。わたくしの特殊能力が厄介だって言ったのはこういう事?」


「そ、テレーズ様の元々の魔力がどんなモンかは知らねぇけどさ、6000超えてるなんて異常だろ? 魔法契約は500以上魔力を使う。魔法契約が出来る人は国に10人居りゃ良い方だ。それが、あの国は何人も魔法契約を出来るヤツが居る。多分、エルザは多くの人達の魔力を上げてたんだと思うぜ」


「もしかして……わたくしがさっきみんな大嫌いって言ったから……」


「魔力が下がった奴もいるかもな。けど、自業自得だ」


なによそれ。わたくしの好き嫌いで、人の人生が変わってしまうの?!


「……怖い」


「だろうな。けど、こればっかりは受け入れるしかない。けどよ、考えようによっちゃ味方を判別出来るから便利だぜ」


「そ、そうよね! 少なくとも、マックスとジェラール様とお姉様は味方だと思って良いのよね?!」


「おう。そーゆーこった。知ってるか? 昔は魔力が1000を超えるヤツなんて、数年に1人現れりゃ良い方だったんだぜ。場合によっちゃ10年以上現れなかったりもする」


「けど……わたくしの知ってる限りでは……魔力が1000を超えてる人はたくさん居るわ」


「魔力が1000を超えるヤツはエルザの特殊能力の影響を受けてる可能性が高い。今年、魔力検査で1000を超えたヤツは新聞に載ってたから調べといた。エルザの知り合いは居るか?」


マックスから渡されたリストには20名の名前が載っていました。親友だったマリアンヌや、シモン様、ジェラール様の名前もあります。それだけじゃありません。みんな、知っている人ばかりです。


「全員……知ってるわ……」


「エルザと親しくしていた。もしくは、エルザが好意的に思っていたヤツらばかりか?」


「ええ。直接お話しした事がない方もいらっしゃるけど、間接的に助けて頂いたりして好感を持っていた人ばかりよ」


「やっぱりそうか。こん中で魔力が高いままなのはジェラールだけだ。テレーズ様が調べてくれたよ。ジェラール以外のヤツらは、魔力を提供した事がないらしい。あんだけ魔力が高けりゃ嬉々として魔力提供したり、自慢したりする。自分がしなくても、親がさせるよ。テレーズ様みたいにな。それなのに誰も姿を見ないそうだ。田舎に引っ込んだヤツも居るって話だ」


「それって、みんなわたくしの事を嫌いになってしまったという事?」


「……どうだろうな。エルザはこのリストの人達に好感を持ってるか?」


「ジェラール様以外の方に特別な感情はないわ。みんな、わたくしを睨んでいた。魔力無しは出て行け、直接言われなくてもそんな顔をしていたわ。けど、もしかしたら……ジェラール様の仰った通り……シモン様の手前なにも言えなかっただけなのかもしれない」


「なるほどな。エルザ、このリストの中でエルザを嫌ってないかも知れない。そう希望が持てる人が居たら教えてくれ」


わたくしは、12名の名前に丸をつけた。最初にマルを付けたのはもちろんジェラール様だ。


否定してしまったけど、思い返すとジェラール様のお言葉は正しい。


あの時はみんな敵だと思ったけど、違ったのかもしれない。一人一人顔を思い出し、心にしまい込んだ思い出の箱を開ける。


残念だけど、シモン様とマリアンヌの名前には丸を付けられなかった。他にも、シモン様の側近や出て行く時に罵倒した人達の名前は、見るだけで震えてしまう。


「悪りぃな。嫌な事思い出させて」


「平気よ。ジェラール様とマックスのおかげで、わたくしは救われたの。誰に嫌われても怖くない。お姉様も含めて、3人も味方が居れば充分よ」

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