第2話 異世界生活スタート

「天草殿、ぜひこの魔剣をゆずって欲しい」


 ゆずるも何も、この魔剣の素はそう申し出たハイドさんの物なのだから。

 しかし、これで俺たちは。


「俺たちは帝都に入ってもよかったでしょうか?」

「あ、ああ、なんだったら俺から紹介したい人物がいる」

「誰ですか?」


「帝都にいる俺の親戚でな、武具屋をやっている。元々はこの短剣もその親戚から贈答された縁起物だったんだよ。だから錆びてしまった今でも大切に持っていたんだ」


 ハイドさんは先ほどまでの怪訝な表情とは違い、今は俺たち三人をほがらかな表情で見ていた。それは歓迎の印と受け取っていいのか、何しろ俺たちはハイドさんと巡り合ったことで幸先のいい異世界生活を迎えることができそうだ。


 ◇ ◇ ◇


 あの後、ハイドさんの案内で帝都の正門をくぐり、大通りを抜けて例の親戚の店にいる。ハイドさんは恰幅がよくて、煙臭いおじさんに事情を説明している。その間、俺は店内を見渡していた。


 店内は日本ではお目に掛かれない武器防具がコーナーごとに陳列されている、中にはセール中と書かれた値札がついた壺にらんざつに槍やら長剣がしまわれていた。その一つ一つを手に取ると、脳裏で俺のスキルが発動し、鍛冶ガチャスキルに必要な素材を提示していた。


 店内を見学していると、ハイドさんから再度声を掛けられた。


「天草殿、説明は終わったぞ。叔父に君の事情と、君の腕前をわかってもらえた」

「あ、はい、それで?」

「もし天草殿さえよければ、叔父に特別な一振りを作ってやってくれないか? 叔父はそれを店の目玉商品として飾っておきたいそうなんだ」


 ハイドさんの打診に、俺は考えた。

 ハイドさんの時は鍛冶ガチャも大成功したが、失敗する可能性も捨てきれない。


「……交換条件でしたら、いいですよ。ただしフラガラッハほどの代物を作れる保証はありませんが」


「内容にもよるな、どんな交換条件なんだ?」


「この店にある武器防具を百品ください、それと出来れば特別な一振りを作るまでの間、泊めてもらえる家とご飯の用意もお願いします」


 そう言うと、ハイドさんの奥手に控えていた店主が一歩前に出た。


「その提案だったら、俺にも担保が欲しい。お前たちがこの店に住み込みで働くっていうのなら聞き入れてやってもいいぞ。百品の武器防具はどんな代物を見繕えばいいんだ?」


「ありがとうございます、出来ればグレードの低いものから高いものまで、試してみたいんです、色々と」


「ふむ、それなら問題ないか」


 という訳で、俺達三人はこの店――グレジャ武防具店で住み込みで働くことになった。それまで貧相な洋服を着ていたルリは店主のグレジャに衣服を新調してもらい、店に訪れた冒険者相手に愛くるしい笑顔で接客している。


 神様から従魔として寄こされたサンダーウルフのゼルは、俺と一緒に帝都近郊の森を探索しつつ、鍛冶ガチャスキルに必要な素材集めのお供として獅子奮迅の活躍ぶりをみせるのだった。


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