第19話「もしも俺に妹ができたなら」



 その日、時雨とのデートでナンパ事件や間接キスとかの恋人にありがちななんやかんやをしながらも、結果的に何かあるわけでも、間違いが起こるわけもなく俺たちは解散した。


 そして、家に帰ると早速姉から質問攻めにあってしまった。


「な、何……ゆうちゃんがお、女と一緒……お、お姉ちゃんという存在がいるって言うのになんてやつだ!!! よし、分かった、その女の名前言ってみろ、テストしてやる」


 と、この調子。

 質問攻め、ではないかも知れないが個人的にはよくある親からのウザい問い詰めにあっている気分だった。


「だから、別にそんなんじゃないし姉さんも気にしすぎだって。大丈夫だから」

「大丈夫じゃないわね! 絶対! ゆうちゃんは私の大切な弟なの! お母さんから頼まれてるんだから、しっかり育て上げるのよって!」

「それはまぁ、うん。ありがたいけどさぁ。俺だってそろそろ一人立ちしたっていいじゃん。いつまでも姉さんの保護下っていうのは嫌なんだよ」

「う、うぅ……ゆうちゃんがそこまで……お姉ちゃん、いらないのぉ?」


 涙をボロボロ流しながらソファーでSNSを眺めている俺に抱き着いてくる姉さん。べちょべちょになった目と鼻水で俺の寝巻にぐっしょりと跡がつく。


 一部の界隈のキモオタどもなら服の端齧って羨ましいと嘆くのだろうが生憎と本物の血縁にそんな気持ちは抱かない。


 好きだけど、それは家族としての好きだ。

 そこに変態性は生まれない。


 だいたい、姉さんは頼まれたーとか言うけど俺にとっては母親同然だし、俄然湧いてこないってもんだ。


「別にいらないとは言ってないだろ?」

「ん……じゃ、じゃあ……愛してる? お姉ちゃんのこと?」

「まあそうだよ」

「ちゃんと口で言ってくれないと分からないなぁ~~心配だなぁ~~お姉ちゃん」


 まぁ、こういう仕草してくるところはなぜだか心打たれて答えざる負えない気がしてくるんだけども。


 姉って言うのはやっぱり母親とは違うのだろうか。

 生きている時の母も見てみたかったな、そう思うと。


「うん。分かったよ。姉さんも愛してるって」

「うぅ~~ゆうちゃぁぁぁぁぁん!!!」

「もう、やめろってほらっ。鼻水がついてぁぁ……」


 弟を愛しすぎだよこの女子大生。

 大丈夫か、姉さんは。ちゃんと恋愛しているのか甚だ疑問だ。



 何とか落ち着かせてから再び詳細を聞いてくるところで俺は黙っていたことを打ち明けてみた。


「姉さん、一応。今日一緒にいた人のこと言っておくとあれだからね?」

「あれって? あ! もしかしてまだ私に隠し事を⁉」

「違うっての。んなわけないって」

「ほんとにぃ~~?」

「愛してくれてるのなら多少は信頼してくれよ……」

「じゃあ信頼する!」


 やっぱり不安だ。

 姉さん俺の事を好きすぎだぞ。愛してるって単語で気持ち捻じ曲げてきやがった。


「はぁ……まったく。好きすぎるな、俺の事」

「当たり前じゃん、可愛い弟なんだし」

「そうかねぇ、俺にも妹が出来れば分かるのかなぁ」

「えぇ、きっとわかるわ! お姉ちゃんがんばってみるわね!」

「……それじゃあ甥っ子だし、俺は叔父になっちゃうって」

「……いいのぉ~~」

「んで、まぁいいか。忘れてたよ。それで今日会ってたのは時雨だからな」

「ん、あぁ、んと……誰だっけ?」


 首を傾げ覚えてない顔をする姉さん。

 まぁ、よく考えてみれば紹介したのは家に来た時の1回くらいだったし覚えてないのも無理ないか。


「あれだよ、前まで付き合ってた子だよ。ほら、髪長くてちょっと焦げ茶で、明るい子」

「明るい……焦げ茶……あ、あの子か! 同人誌好きな子!」

「……ま、まぁそうだな」


 俺の知らないところで一体なんて会話をしてるんだこの人。いや、時雨もだけど。やめてくれよ、姉さんと好きな女子が「ぬるぬる汗汗学園の汗嗅ぎおほおほえっち学園天国」とかについて話してるのなんて見たくない――――――こともないか。


 うん、ちょっと興味ある。

 変態ですまん。

 いや、ちょっと時雨にもそう言う興味があるってわかって嬉しかったなんて誰にも言ってないけど、うん。

 

 今のやっぱなし。


「へぇ、どうして前の彼女さんと一緒だったの?」

「いやさ、ちょっときっかけがあってさ。仲良くなったていうか……まぁ、ちょっと、お弁当とかも作ってくれるようになったていうか」

「んなにぃ⁉ だ、だからか!! 最近私にお弁当いらないとか言い出してきたの!!」

「ま、まぁそうだ。別に嫌いになったとかじゃないから安心してくれってこと」

「……なんか嫉妬しちゃうなぁ」

「いいだろ、俺だって恋愛したいんだよ――あ」


 やべ、ばらしちゃった。


「それじゃあ――よりをもどしたいってこと?」

「……そう言うことになるな」

「へぇ、なかなか凄いことするんだね二人とも。あ、でも、そう言えばだけど別れた理由聞いてなかったけどどうしてなんだっけ?」


 ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 まぁ、ばらしたらいつかは聞かれるとは思っていたがちょっと心の準備が出来ていない。


 別に言って何かあることじゃないけど、はっきりと落とし前を付けてから姉さんには打ち明けたかった。


 しかし、そんな俺の表情から読み取ったのか急に「やっぱいいや。あんま詮索しちゃ悪いし」とか言ってきて狼狽えながらも頷いた。


 そんなところで玄関が開き、親父が返ってきた。



「ただいまぁ~~」

「あ、お父さん! おかえり~~」

「おかえり~~」


 姉さんがまるで妻のように親父のスーツや鞄を受け取り、色々と畳んで着替え始める親父。


 リビングで着替えるのはやめてほしい所だが、別に見てもへるもんじゃないしといつものだらしない感じを見せてくる。


「ふぅ。あぁ、そうだ、二人に色々と相談があるけどさ、いってもいいか?」


 パンツ一丁になったところで、親父は思い出したかのようにそう訊ねてきた。


 俺も姉さんもビクッと立ち止まり頷く。


 大抵、親父が相談という時、重い話をしてくるって言うのが烏目家でのあるあるなのだが唐突の予兆に身体が固まった。


「そ、それでお父さん、何を?」


 姉さんが恐る恐る訊ねると親父はいたって普通の声色でこう言った。


「最近、いい感じの人が出来てな。その、恥ずかしながらではあるんだが……もしかしたら俺さ、再婚するかもしれないんだ」






 俺はまだ知らない。

 この再婚が時雨との関係再建への大きな障壁となることを……。






【あとがき】


 ということでなんやかんや第一部終了って感じですね~~。面白いなって思ってくれた方はどうかここらで僕への寄付って気持ちでの「お星さま」を落してくださいなぁ~~。


 あともう少しで1000フォロワー。多くの方々に楽しんでいただけて僕としては何よりです! 第二部もよろしくお願いします!

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