第8話 奴らは要らん( グラフィル視点)

帝国の夜は冷たく暗かった。犯罪者が蠢き、どこかで声なき悲鳴が上がる夜だった。


「今日はあったかいねぇ」


「月もきれいだよ」


 孤児達が膝を抱えても昨日までとは明らかに違った。夜は闇、でもこの闇はとても優しい闇になる。

 母親が赤ん坊を愛しむ、そんな闇に変わったのだ。


「ユーティア、お帰り。指輪の主人よ」


 寒さを防ぐ薄い慈愛のヴェールが帝国全土を覆ったのをリリアス公爵は感じ取っていた。今日から帝国は栄えて行くだろう。


「あの国は……終わったな」


 ユーティアの母親が持ち込んだ指輪の加護を知らずに享受していた者達。助けを求めて来てももう遅い。


「私とて腹が立っているからね」


 準備は出来ていた。




「ユーティア!我が愛しの従姉妹の娘!似て来ましたねー!はー!指輪の主人に相応しい綺麗な魔力!シュー様やりましたね!このっ!このっ!ユーティアが居る限りリリアス公爵家はあなたの後ろ盾ですよっ!」


「リリアス公にそこまで言われるなんて助かります!」


 私は思わずシュー様に駆け寄って、肘で脇腹をドスドス突いてやりますが、痛くないんですかね?この人は。


「あっはっは!シュー様は腹芸が出来ませんからな!このグラフィル、シュー様をユーティアの夫として上手い具合に操って差し上げましょう!」


 ユーティアは目を白黒させていますね。こんな不敬な発言をしては私の首は普通なら飛びますが


「頼むよ!俺はユーティアを泣かせないようにするのが精一杯だよ」


 あーーと頭をかくシュー様を見て、更に可愛いお口をぽっかり開けています。


「ユーティア、シュー様とリリアス家はこういう関係なのです。でも外ではこんな事はしませんので安心して下さいね」


「あ、は、はい!リリアス公爵。この度は私のような者を迎え入れてくださりありがとうございます」


「フィルって呼んで欲しい!ユーティア……ティアって呼んでいいかな!」


「え、あ、はい……フィル……様?」


 可愛い!はい!決定可愛い!くーっすぐにお嫁さんに出さないといけないなんてもったいなさすぎる!やめよっかな?


「フィル兄様で!」


「あ、はい……フィル兄様……」

 

「んーー!私には妹がいなかったので、こんなに可愛い妹が出来るなんて!素晴らしいですよ、シュー様!あ、皆もありがとうね。特別手当と特別休暇があるから、受け取ってゆっくりして良いよ」


「分かりました、ご当主様」


 ユーティアが肩身の狭い思いをさせられていたラング家で暫く働いていた使用人は、ほとんど我がリリアス家から遣わせた。

 私だって可愛いユーティアがあんなに虐げられていたのを中々気づけなかった大馬鹿者だからね。何とかしてあげたかったんだ。逐一報告は上げてもらったけれど、ほんと早く気づけなかった私は大馬鹿過ぎて反吐が出る。


「一人で連れて来てしまったけれど、少し見知った顔がいれば少しは心が休まるかな?使用人達は休暇が明け次第、仕事に戻ってくるからね」


 だって、ユーティア以外ゴミ以下なんだもん。ラング家があそこまで酷いとは……やつらはいらん。


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