プリンアラモード  1





「うわー、なんかすげえ感じになっているな。」


一角と千角は紫垣しがき製菓から少し離れた所から

そこを見ていたが、

まるで何かが渦巻いているような気配に息を飲んだ。

普通の眼には特に変わりはないだろう。


その時だ、門からケアハウス一寸法師と書かれた

白い軽自動車が出て来た。


「おい、千角、運転手見ろよ。」


一角が言う。


「豆ちゃんじゃん。」


二人は車の方に飛んだ。




豆太郎はどうしたらいいのか分からなかった。

助手席のゆかりは号泣している。

事情を聴きたいがそれどころではない様だ。


信号待ちで止まっていると、車に何かのショックを感じた。

故障か、と思った時だ。

後部座席に影が見えた。


「豆ちゃん。」


自分の頬を誰かが指で辿った。

豆太郎は鳥肌が立つ。

覚えのある声だ。


「お前!!」


だが後ろの車がクラクションを鳴らす。

信号が変わったらしい。


「豆太郎君、ほら動かないと、迷惑だよ。」

「そうそう、豆ちゃん、ところでこのお姉さん誰?

彼女?泣かしちゃダメじゃん。」


眼がパンパンに腫れている紫が後ろを見る。

さすがに涙は止まっていた。


「豆太郎君、そこのファミリーレストランに入って。」

「お前ら、ふざけるんじゃねぇ、鬼の言う事なんぞ聞けるか!」

「鬼って、豆太郎さん、どういう事。」

「そうで~す、ぼっくらは鬼で~~す。」


紫の体の力が抜ける。

気を失ったらしい。




豆太郎は車をレストランの駐車場に止めた。


「なんか飲もうよ、今日は僕達が奢るよ。」


一角が言う。


「紫さんが気を失っているんだ、行ける訳がないだろう!

第一俺は鬼とは絶対に慣れ合わん。

プライドが許さん、降りろ、すぐに車から降りろ!」

「おおこわ、でも俺達は豆ちゃんに用事があるんだよね。」


鬼達が豆太郎を見る。


「……、お前ら本当に一体何なんだ。

鬼にしてはやたらと気安いし、人は喰っていないみたいだし。」

「そう言えば、」


一角が思い出す。


「豆太郎君の名前は教えてもらったけど、

僕達はまだ名乗ってなかったな。

僕は一角、金髪の彼は千角だ。僕達は宝探しの家系の鬼だ。」


豆太郎は二人を見る。


「宝探し……。」

「ああ、俺達は鬼界きかいでも由緒正しい家系だぞ。新米だけどな。」

「だからまだ人を喰ってないのか。」

「そうだね。」

「機会があれば喰うかもしれんけどな。」


千角が笑う。

それを見て豆太郎の顔が変わる。


「喰ったら即払う。」


それは鬼が今まで見た事が無い豆太郎の顔だ。

さすがに彼らも黙った。

その時、紫が目を開ける。

声を上げそうになるが、豆太郎が指を口に当てた。


「紫さん、この二人は鬼だ。

眼鏡が一角で金髪が千角と言うらしい。」


千角が手を振る。

紫は大きく息を吸い呼吸を整えた。


「お姉さんは美味しそうだけど食べると

物凄い厄が落ちそうだから食べないよ~ん。」


彼女の父親の加護なのだろうか。








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