収穫祭(5)

 オズワルドはトーコの部屋に入ると、ベッドの方に一直線に行った。ベッドの上に仰向けになると、オズワルドは大欠伸をした。


「忙しそうだね……。もしかして寝る時間、少ないの?」


 トーコは化粧台の前のイスに座ると、心配そうにオズワルドの顔を見つめた。


「まあな。疲れている分は、熟睡できてる気はする」


「そっか……。本当にお疲れ様です」


「お前もな。……親戚しんせきづき合い、お疲れ様」


 と、オズワルドは体ごと横に向け、トーコの顔を見た。


「そーいや、七日間丸々、仕事は無いそうだ。……まあ詳しく言えば、オスカー様が気を利かせてくださって、明後日中には仕事の区切りがつけられるらしい。本来の仕事の都合も、お前のこともあるから、ホントありがたいな」


「そーなんだ、良かったっ!」


 ふふっとトーコは笑い、オズワルドのこともあるが、ヒノキ村にも恋しくなったようだ。

 そして、彼女はやはり人目が少なく、静かな場所の方が落ち着くと、しみじみと感じたのだった。



 オズワルドがトーコの部屋で休んでいたのは、長い時間ではなかった。ソフィアと昼食を取っていた時間よりも、少し短かった。


 再び仕事に戻るために、オズワルドは部屋を出たが、トーコも部屋の外まで彼を見送ることにした。


「……なら、またな」


 オズワルドはトーコの片手を顔の近くに持っていくと、彼女の手の甲に口付けた。



 

 その時、部屋の近くの中庭の方から、誰かがこちらにやって来た。ズケズケと歩いてくる気配を感じて、トーコとオズワルドが中庭の方を見ると、ジュリアンが近付いてきた。

 

 ジュリアンは、明らかにケンカを吹っかけるような表情をして、オズワルドを見上げた。


「お、ま、えっ! 女の子の部屋に押しかけるなんて、ホントやぁーらしぃぃ〜」


「女性に声かけまくっては、繰り返しめごと起こしているヒトには、言われたくないですね」


 オズワルドに痛いところを突かれ、ジュリアンは無意識に顔をピクッとさせた。


「クソッ、相変わらず正論を振りかざしやがって……。何だかムシャクシャするから、からむ気が失せたわ〜。……ったく、超絶いけ好かねーっ」



 無表情を保っているオズワルドに対して、ジュリアンがにらんだ時、遠くから侍女の声が聞こえた。


「ジュリアン様ぁ〜。国王陛下が、お呼びでしたよー」


 廊下ろうかの角を見てみると、侍女は一人だけではなかった。六、七人は居るようだ。

 ジュリアンに声を声をかけた侍女以外の三人は、彼に向かって笑顔で手を振っていた。その他の侍女たちは、キャッキャウフフと小さい声で騒いでいるようだった。


「はいは〜いっ♪ 今、行くよー」


 表情をコロリと変え、ジュリアンは機嫌が良くなったような顔になり、軽い足取りで、侍女たちの方に向かっていった。




 一方で、グレースはというと、イライラしながら、リビングルームに入っていった。そこでは、オスカーとハンナがハーブティーを飲みながら、ひと休みしていた。


 グレースはハンナの横にドサッと勢いよく座ると、金切り声で独り言を言った。


「何なのよ、あの子っ! 変な髪色のクセに、こっそりとオズワルドをたぶらかして、訳分かんないっ!」


「全く、アナタは……。今日もりずに、誰かをけなして、何の意味があるのですか……」


 しかめっ面をして、淡々とグレースを注意をしたオスカーに対して、グレースは大声で反論した。


「オスカー兄さんこそっ、あの子をかばい過ぎているんじゃないっ!?」


 オスカーはハーブティーのカップを置くと、深く溜息をついた。


「私は、王宮の秩序が乱れるのが嫌なだけです……。

 グレース。そんなことよりもアナタは、どんな想いでユーコ殿がジョンにトーコをたくしたのか、母親になった今になっても、理解できないのですか?」


「そっ……そのことは知っているわっ! 知っているけど――」


 グレースは、お気に入りのオズワルドが独り者じゃなくなるのが、なかなか受け入れられないらしい。



 その時、トーコに嫉妬しっとして、悶々もんもんとしていたグレースを見兼ねて、ハンナも話し始めた。


「……まあまあ、グレース。貴女あなたには素敵な旦那様が居るから、オズワルド君にこだわる必要は無いんじゃない? 十二人の子どものお母さんなんだし、経営者の旦那様の支援だけじゃなくて、子育ても忙しいし、毎日やることが多いから、まずはそちらに目を向けたら、どうかしら?」


「ハ、ハンナ姉さんまでっ! そんなことっ、私だって、ちゃんと分かっているわよ! ……今が書き入れ時だってゆーのもあるし、家の方がテンヤワンヤだから、もー帰るっ!」

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