第20話看取りとハプニング

「はあー、恥かいた....」


「そう落ち込むなよ......ふふ」


回収してきた矢に付いていた土を拭き矢立に戻すと、まだ悠が落ち込んでいた。


「弓弦笑うなよ」


一応慰めようとしたが悠の顔を見た瞬間に笑いが込み上げてきて思わず視線を逸らして笑いが漏れてしまったのだが悠は不満げだ。


「取り敢えず看取りしようぜ、轟先輩がこっち見てる」


自分の立を終えて道具を一旦置いた轟先輩はさっきまで弓を引いている人達を見ていたが、今は微妙にこちらに圧を感じる。


「.....そうだね怒られたくないし」


不満げだった悠だったが入部して間もない今名指しで怒られるのは流石に嫌だったらしくこれ以上黒歴史を増やさないようにしっかり前を見て真剣な顔で先輩達の立を見る。

俺もせっかく先輩達の射形をみる機会なので平日に徒手練をしていて佐藤さんに指摘された部分を見てみる。

佐藤さん曰く

『弓っていうのは正直どんなに変な射形でも当たる人は当たる、そういう当てるための射を当て射と言う。正直高校弓道なんて的中が全てだから射形なんて関係ないって言う人も多いぞ?でも正しい射っていうのは当たり前だが正しく引けてるうちは絶対に当たる。だから俺はお前らに正しい射を身につけてほしい』

思えば俺は今までAチームの人の射しか見たことがなかったが今弓を引いているにはBチームだ。

まだ弓の経験が浅い俺には何がどう違うのかをはっきりと指摘することはできないが、はっきりと何かが違うと分かる。

なんといえばいいのか轟先輩が弓を引く時はどっしりと構えていて矢をつがえてから放つまでどこにも不自然さが無いのだ。

勿論Bチームの先輩達も上手いとは思う、思うがやはり何かが違う。今引き分けている先輩もなんだが少し不安になる射をしている。

轟先輩とか一部の先輩たちが引く時に感じるこの矢は絶対に当たるという感覚が全く湧かないのだ。

なるほど看取り稽古か....確かにこうして自分より上手い人の射を分からないなりに見て分析することで自分の目指す射がどんなものなのか、イメージが掴めてくる気がする。

ただ勿論こんな感じ、なんて曖昧なままではいけない。

それから約40分、先輩達はきつかったら正座崩してもいいよと言ってくれたがずっと正座で食い入るように先輩達の射を見続けたのだった。


「じゃあ一年生は看取りと練習交代してー」


どうやら先ほどまで外で一年の指導を手伝っていたらしい朱莉先輩が道場内にいる俺たちに言う。人が弓を引いているところを見ていると自分も早く引きたくなってくる。今日で徒手練は卒業しよう。そう思いながら立ちあがろうとすると、


「え?ちょわ!!」


問題:もし普段正座なんてろくにしない人が40分近く正座のままでいて立ち上がるとどうなるか?


正解はめちゃくちゃ足が痺れる、だ。


「ちょっと大丈夫?ゆz.....ふふっ」


勢いよく立ちあがろうとしてそのまま勢いよく転んだ俺に元々静かだった道場内が更に静まり返り、一応心配してくれ他のだろう朱莉先輩が声をかけてくれたが耐えきれなかったようで吹き出していた。

先程同じく先輩に笑われた悠も申し訳なさそうに爆笑していた。ていうか申し訳なさそうに爆笑って器用だなお前!澤田は爆笑しているし九条さんと花村さんは苦笑いで、喋ったことない同級生もこちらを見ている。


「〜!おい悠!練習だから早く行くぞ!」


この場にいるのが辛くなってきたので悠を連れてさっさと弓道場から出ようとする。

しかしそんな短時間では40分間で蓄積された痺れは取れない。一歩踏み出すたびに足にくる特有のムズムズする感じに耐えながらなんとか入り口まで行き靴を取るためにしゃがむ、


「うわっ!ちょ!」


一度しゃがみ靴を取って立ちあがろうとすると再び足がもつれて後ろに倒れ込む。ドシンと尻餅をついた俺に再び道場内が静まりかえって、


「弓弦お前最高だな、ハハハ!」


淳先輩がそう言いながら笑うとさっきまでは遠慮していてくれた先輩達や話したことのない人達まで笑い始めた

た。



その後の練習では隅っこで1人顔を赤くしながら練習する弓弦と理由を聞いて爆笑する佐藤さんが見られた。

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