第13話佐藤さんの弓道講座

「じゃあ一年生集まれー、座ってもいいから」


そう言って佐藤さんは弓道場の前にある木の下に立って言う。

一年生はキョロキョロとしながら誰も動こうとしないので俺は悠と顔を見合わせて佐藤さんの前に座る。

すると周りの一年生も続々と集まって全員で佐藤さんを囲むように座った。


「よし、じゃあ今日から練習だから基本的なことから教えていくぞ

まず射法八節について、射法八節っていうのは

足踏みあしぶみ(立つ位置を決める)

胴造りどうづくり(姿勢を整える)

弓構えゆがまえ(弦に手をかける)

打起しうちおこし(弓を持ち上げる)

引分けひきわけ(弓を引く)

かい(狙いを定める)

離れはなれ(矢を射る)

残心ざんしん(矢を射た後の姿勢)

の八つの事を言って、これが弓道だ。

これを守らなくても当たるっていう人もいるけどこれが完璧にできればまず間違いなく当たる。

今からやる徒手練、ゴム弓、素引き、巻藁は正直なところつまらなく感じると思う。

けれどここをちゃんとせずに的前で引いても絶対当たらん!

だからちゃんと練習して分からないところがあったら俺か二年の奴らに聞く事、以上!」


佐藤さんは射法八節を実演しながら教えてくれたが佐藤さんのいう事は俺にもよく分かった。

テニスをやっていた時にも後輩に素振りをしっかりやっていなかった奴がいて、そいつはその後も変な癖のついたフォームで練習を続けて結局試合でも勝てていなかった。

癖のあるフォームでも強い人はいたが、強い人のほとんどは基本のできている人だった。


「じゃあ一年は散らばって号令号令に合わせて徒手練、そこの君から順番に射法八節を読み上げていって

おーいそっちの二年生も一年生見てやれー」


どうやら今か今から全員で徒手練をやるらしい。

弓道場の前でこちらを眺めていた二年生の先輩達を呼んで佐藤さんも等間隔に散らばって徒手練を始めた俺たちを見る。


「君もうちょっと顔向け深く、って顔向けじゃわからないか......もっと顔を真横に向けて、もしそのまま弓を引いたら顔を弦で払う、打っちゃうから」


それからも部活が終わるまで約2時間休憩を挟みつつひたすら徒手練をすることになった。


ー2時間後ー


「佐藤さーんもう終わりです!」


弓道場から朱莉先輩が出てきてそう言う。

どうやらもう2時間経ったようだ。

最初はずっと何も持たずに同じ動作の反復なんてつまらないと思っていたが、先輩達からアドバイスをもらいつつ見本を見せてもらいつつやると自分の動きのダメな部分がいくらでも見つかってきてそれを修正しているうちにあっという間に時間は過ぎてしまった。


「よしじゃあ一年生は最初の挨拶と同じように並んで座っててね」


朱莉先輩はそう言って弓道場に戻っていく。

それに続くように一年生も弓道場に入り、初めの挨拶の時と同じ場所に座る。


「ねえ弓弦、あれって綾瀬先生だよね?」


小声でそう言う悠の視線の先には確かに俺たちの担任である綾瀬先生がいた。


「やっぱり綾瀬先生が顧問だったんだな」


別に疑っていたわけではないが弓道部の顧問というイメージが無かったのでちょっと新鮮な気持ちがする。


「何か連絡のある人はいますか?」


最初の挨拶のときに轟部長達がいた場所に佐藤さんと綾瀬先生しかいなかったのでまだ始まらないと思っていたのだが部長、副部長はなぜか向かって左に並んで座っていた。


「では綾瀬先生お願いします」


「はい、えーっとまず一年生の皆さん顧問の綾瀬久美です。私も弓道部に来て日は浅いので、困ったことがあったらこちらの佐藤さんに聞いてください。以上です」


それから佐藤さんのお話を聞いた。

佐藤さんが話を終えると再び轟先輩が口を開く。


「脇正面を向いてください、一年生こっち見て俺たちの動きに合わせて」


そう言って轟部長が向きを変えて『射法訓』という文字の入った額縁の方を向く。

そして二例二拍手一例してから再び向き直り


「ありがとうございました!!」


「「「ありがとうございました!!」」」


「「「...ありがとうございました!」」」


練習1日目が終わった



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