第31話 作戦



 灰色の外装に頭から爪先まで身を包む須藤は草原を走る走る。自分のステータスにものを言わせて景色を背後に置きざりにするように走る。【空間把握サーチ】で反応している魔物の元――「たどの森」へ。


「マナちゃん、待っててくれよ」


 

 『冒険者ギルド』を後にした須藤はそのまま『公爵領』の門まで向かう。門まで来た須藤の顔を見た門番達は何を聞くでもなく直ぐに門を開ける。レインかギルが話を通してくれていたのだと思うことにして門を突き進む。


 外に無事出れた須藤は一度止まる。そこでギルから貰った布袋を確かめた。中に入っていた物は灰色のローブと回復と解毒のポーションが数個ずつ入っていた。

 ポーションは自分も何個か所持しているが所持数が増える分は有難い。ただその灰色のローブだけがわからず【鑑定】を使って確かめた。


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 ・隠密のローブ(灰) レア度6


 その名の通り【隠密】のスキルが付与されたローブ。

 ローブを身に纏うだけで外敵から見つかり難くなり自分の体臭も隠すことができる。


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 【鑑定】の結果ではこう出た。


 現段階では『レア度』という項目はまだハッキリとわかってはいないが他のゲームとかで言うなら『レア度』が高いものが高価な物だと思っている。


 ちなみに今装備している神からの贈り物はこんな感じだ。


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 ・ロングコート(緑/白) レア度1


 ネフェルタでポピュラーな旅衣装。


 着心地抜群。



 ・ロングパンツ(黒) レア度1


 ネフェルタでポピュラーな旅衣装。


 着心地抜群。



 ・偽装のピアス(赤/片耳) レア度8


 その名の通り【偽装】のスキルが付与されたピアス。


 ピアスを付けるだけで指定された容姿、見た目になれる優れ物。



 ・黒天の片手剣「鞘」(黒) レア度-----


 黒天の片手剣。「黒天」


 その刃は天をも暗く染める。


 ※破壊不能オブジェクト


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 鑑定結果はこう出た。


 ギルから貰ったローブはとても良い装備なのだろう。ただ「ピアス」や「片手剣」を知っているとその有り難みも薄れてしまう。

 衣服は普通だったが、他は規格外の逸品だ。当時は【鑑定】のスキルを持っていなかったからどうとも思わなかったが、今思うと神は中々の爆弾を置いていった。



「――今の状況でこのローブはとても有難い。今回の救出にもってこいだな。さてもうじき「たどの森」に着く頃かなッァ!!」


 【空間把握サーチ】を使った須藤はに驚きつい悲鳴をあげそうになってしまった。


「おいおいマジかよ。魔物、多すぎだろ……」


 その場で立ち止まり、自分の見た情報に驚き、冷や汗を垂らし惚けてしまう。


 自分のいる地点から5キロ圏内を見れる【空間把握サーチ】。ただそこで見た物は魔物の軍団だった。今も自分の脳経由で赤い点が沢山見える。幸い全部の魔物が一箇所にいる訳ではなく三箇所ほどに別れている。


 それでも少し数えた限りでも500以上はいる。もしかしたら1000、それ以上かもしれない。さっきまではチラホラと魔物が【空間把握サーチ】に反応するぐらいだった。


 どうするか一瞬目を瞑る。ただそれは本当に一瞬。目を開ける。まだ冷や汗は額から垂れてくる。けど――


 

「――だとしても帰るわけにはいかない。それにやりようはいくらでもある」



 誰かが言った。数こそが正義。数こそが暴力だ、と。


 それはその通り。どんな優れた人でも相手が何十人、何百人いたらどうしようもない。それを覆せる存在は漫画やアニメに出てくる『超越者』達だけだ。


 じゃあ仲間もいず『超越者』じゃない自分はどうするのか?――簡単だ。世は「金」こそが正義。そして「知恵」こそが力。


 人には物事を考えるという素晴らしい力を生まれた頃から持ち合わせている。そこに『魔力』が合わせれば最強だ。そして相手は魔物。侮る訳では無いが所詮畜生。



「さあ、作戦は既に決まっている。必要なのは時間だけだが、なんとかするしかないか」


 赤オレンジ色の夕日が出てきた。その夕日を見てマナの無事を願い、妖しく笑う。



 ◇

 


 その頃のマナ



「――ギギッ! ギィッ!」

「ギィギギィィ!!」

「ひ、ひぃぃぃ!!」


 逃げないように体をロープで巻き付けられ簀巻きにされたマナは担がれ森の中を運ばれていた。


 マナを運んでいる生物は小人の様な体型、緑色の体。濁った目と黄ばんだ歯。不衛生で粗末な腰巻き。漫画でもゲームでも雑魚扱いされているゴブリンだ。


 無抵抗で何も出来ない。たまにやってくる振動とゴブリン達から漂う腐敗臭。そしてこの後の自分の境遇。その全てが少女のマナには耐えられなかった。

 ただ今は耐える時と思っていた。自分を助けにきてくれるヒーロー――須藤がまた自分を必ず助けてくれるのだから、と。


(お兄ちゃん、お兄ちゃん。スカーお兄ちゃん。早く、早くマナのことを助けて)


 少女は心の中で自分のヒーローに願う。




 あれから数分運ばれた。もう周りは赤オレンジ色の夕日が出てきている。じき夜になるだろう。

 誰も助けに来てくれない状況なのにお腹が空いてしまうのが恥ずかしい。お腹の音が鳴らないようにお腹に力を入れて耐える。


 そんな時――


「キギッイィ!」

「ギイ、ギィギィ!!」

「ひゃんっ!」

 

 約十数分ぶりに地面に降ろされる。


 突然簀巻きのまま降ろされたので体を強く打ってしまい涙が出てくる。そんなマナの状態など気にしないゴブリン達はマナを縛っているロープの先を掴み引き摺る。


「きゃっぁ!?」


(痛い、痛い体が痛いよぉ。お母さん、お父さん、ナオ――スカーお兄ちゃん……)


 痛さと恐怖で涙を流す。ただ今の自分には耐えることしか出来ない。


 ゴブリン達に運ばれていたせいでしっかりと周りを見れなかったマナは引き摺られながら自分の状況を確かめた。


 今自分がいる場所は薄暗い洞窟の中だった。周りはゴツゴツとした岩肌。そしてジメジメとした空間。そこにゴブリンの手で連れて行かれる自分。


(えっと、洞窟?――洞窟ッ!? いや、ゴブリンに、ゴブリンに――ッ!?)


 マナは暴れる。マナは聞いたことがあった。ゴブリンは洞窟内を自分達の巣穴にしていることが多く、そこに暮らしている。

 捕まえてきた人間は男の場合は「食料」にし、女子供の場合は――「慰み者」もしくは「母胎」にするという。


 なのでマナは抵抗する。抵抗する。それでも――無駄な足掻きだった。


「ギギイッィ!」

「ギィギィギギィ!!」


 ゴブリンはそんなマナを面白そうに見るだけ。もがく姿を見て愉しそうにしている。


「――なんだ、騒がしいな」

 

 マナの心の中が絶望に染まりかけていた時人の声が聞こえた。その声と共にゴブリン達の動きも止まる。

 ゴブリンのぶ動きが止まりマナは一呼吸入れる。そしてその人物に顔を向ける。その人物が自分を助けにきてくれた人だと信じ。


「……」


 その人物は洞窟の壁に寄り掛かり黒色のローブで体を包む。顔は見えない。唯一見えるのは口元ぐらいだ。そこで少し嫌な予感もした。その人物はゴブリンとマナを交互に見ると――笑ったのだ。唯一見える口を歪ませて。


 ただその直ぐにマナが感じた予感は的中する。


「ギギイッィ!」

「ギィギィギギィ!!」

「ほう。お前達が捕えたと。だが人間、それも子供か」


 なのに魔物のゴブリンと会話をしている。その人物は言葉を止めてマナを見る。


「――ッ」


 その時本能的に「この人は危ない」と感じてしまった。そもそも普通の人間が魔物と会話など出来るわけがない。


 その人物は「お前達は下がっていろ」と命令しゴブリンを後ろに下がらせる。従う魔物達ゴブリン。そしておもむろにそのフードを外す。


「運が悪かったと思え。それよりも今から始まるに参加出来ることを光栄に思え――


 額にが生え、髪の毛の色が――だった。


「あ、あぁ」


 その姿を見たマナは体を震わせ、恐怖からか歯をガタガタと鳴らし、ただ嗚咽を漏らす。


 「ネフェルタ」では子供を寝かす為にある怖い話を聴かせる。その内容が「早く寝ないと――が攫いに来るぞ」と。


 その話と目の前にいる人物はそっくりだった。何も考えられないマナはつい口にしてしまう。


「ま、魔族――」


 その言葉を聞いた人物は――


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