第21話 真実



 須藤が『フラット家』の一員になった後、今後のことで少し話し合った。


 今はさっきと同様マリーとローズは須藤の隣の席に座り、ナタリーは須藤の背後に立っていた。レインは須藤の対面に座り、レインの背後にチャンとダニエルが立っている。


 まず須藤は「スカー・エルザット」として活動して欲しいと言われた。自分達の前では素の「須藤金嗣」で良いけど、と。


 その理由はやはり須藤の見た目にあった。


 異世界からの『転移者』『救世主』。それはほとんどが「黒髪」と「黒目」と決まっていて『国』が接待するほどの大いなる存在。

 それも直接神と対話し、神に認められ、神の力を最大限授かった人物。そんな人物過去を辿っても君が初めてだろう、と。


 見た目だけでも騒がれてしまうのに、その『ステータス』を見たら発狂者だろう、と。


 そして、そして――



「――君は――『王国』で騎士の手により追い出された『救世主』様だよね?」


 みんなが見守る中、公爵のレインからそう問われる。


「はい。そうです。俺は『王国』に召喚されて『救世主の証』がないと言われ、追い出されました」


 先程少し口にしたことを今は確実に自分が『救世主』だと躊躇いなく答える。


 ただその言葉を聞いたレイン達はみんなして顔を青ざめ、頭を抱えてしまう。


「――やはりか。君の話を先聞いてそうだろうとは思っていたさ。そして僕の耳にも届いている。、と。僕もその話はおかしいとは思っていたけど――」

「出鱈目ですね。まずその騎士は豪華な衣服を着ている男性に命令されました。そして俺を外に出しましたが――助けてくれた恩人です。俺は、俺は、またその騎士と会いたい」


 須藤は心から願うように懇願する。


 ただ対面で話を聞いている公爵の顔色は暗い。それでも須藤の目を見つめる。


「スカー君。これは僕も聞いただけで不確かな情報だ。だから驚かないで聞いてほしい――その騎士は、『救世主』様を勝手に追い出し殺害したという罪で牢獄に幽閉されている、らしい」

「――そんな――」


 レインの話を聞いた須藤は話を理解すると共に顔を真っ青にしてしまう。


「あなた! 今は伏せても良かった話です! 今のスカー君に伝えることではないわ!!」

「――すまない」


 須藤のことを考えて怒る妻のマリーの言葉に最もだと言うように罰の悪い顔を浮かべる。


「――マリーさん、ありがとうございます。でも大丈夫、です。いずれ避けては通れないものなので」

「スカー君」


 それでも前に進もうとする須藤を心配そうに見る。


「レインさん。話してくれてありがとうございます」

「いや、僕は感謝をされる程のことはしてないさ」


 苦笑いを浮かべると、直ぐに真剣な表情を作る。


「ただスカー君の話を聞き、ここ最近の噂を聞いて――今の『王国』はおかしい。僕はそう思う。みんなはどうかな?」


 レインの言葉を聞いたマリーやローズ達は無言ながら肯定するように頷く。


「やはり、か。一度王宮に行ってルイスと話をしなくてはいけないようだね」

「そうね、それが良いわ。今の『王国』はおかしいわ。『職業主義国』だったのは昔からだけど、今は度が過ぎているわ」


 レインに同意するようにマリーも頷く。


「父上、母上。私もそれは同感です。それに恐らく――ゲイスが絡んでいるような感じがします。奴は昔から『職業絶対主義者』として権力を乱用してました。お父上のルイス叔父様に隠れて悪さをしているのでしょう」

「ゲイス君か。彼は僕の前では良い子なのだが――そうだね。恐らくスカー君を『救世主の証』が無いと言ったのはゲイス君だろう。よし、そうと決まれば王宮に使いを出そう」


 レインの話を聞いていた執事長のチャンがすかさず話に割り込む。


「――旦那様。使いは後で直ぐに派遣し、『伝達の魔道具』で連絡しておきます」

「ああ、頼む。日時がわかったら教えてくれ」

「――承知致しました」


 須藤が介入出来ないまま話は勝手にアレよコレよと進んで行ってしまう。


「――」


 全然、全く話がわからん。多分、俺の為にやってくれていることだろうけど――


「皆様、スカー君が困っております。スカー君の為に動くのは良いのですが、何をするのか話してあげないと、スカー君が困ってしまいます」

『あ』


 背後にいたナタリーさんは肩に触れると今自分が教えて欲しいことを代弁して伝えてくれる。その時にウインクしてくれた。


 そしてやっとそのことに気付いた優秀であり、ポンコツの公爵親子は声を揃える。


 ダニエルはどう話に入って良いのか探していたようで、見計らっていた。それを妹のナタリーに言われてしまい、苦笑いを作っている。


 そしてレイン達から話を聞いた。


 まず「ルイス」とは『王国』。現ドレミン王国の王であるルイス・ドレミンのこと。そしてそのルイスとレインは双子の兄弟と。

 ローズが口にした「ゲイス」は国王ルイスの息子で、須藤のことを『救世主の証』がないと言った張本人だろうと。

 ゲイスには悪い噂があり、王子という特権を使い『職業絶対主義者』としてやりたい放題をしている、と。


 だからそのことを調査すると共にゲイスの悪事を見つけ止める。その時に須藤の恩人である騎士も助ける所存らしい。



「――スカー君。すまない。君に説明せずに勝手に進めてしまった」

「スカー君、ごめんなさい」

「スカー殿、すまない。何か役に立ちたくて――」


 三人は反省を示す。


「いえ、皆さん俺の為に話し合ってくれているわけですし。俺からは何も」


 三人を許す。


 須藤の話を聞いた三人は安堵する。

 

 そこで須藤はあることを聞いてみる。


「その『王国』行き、俺は待っていた方が良いですよね……」

「そうだね。スカー君は『王国』自体に良い印象は持っていないだろうし。万が一君が『救世主』だとバレた時が怖い。だから今回は僕達に任せて欲しい」

「そう、ですよね。わかりました。どうか、宜しくお願いします」


 レインの返答は検討が付いていた。なので今回はそのご好意に甘えることにする。


「私達もやる時はやるんだから、今回は私達に任せてね」

「スカー殿。朗報をお待ちください。『王国』の悪事を見つけ、必ずスカー殿を助けて下さった騎士殿を救います」


 素直に頭を下げて頼み込む須藤を見てマリーとローズも口を開く。


「はい。ただ二人共無理だけはしないでくださいね」

「えぇ、勿論」

「はい」


 須藤のお願いに二人は微笑を見せる。


「よし。じゃあこの話は一旦終わりにしようか」


 話が纏まったことを悟ったレインは手を叩く。そしてみんなの注目を集めた。


「今直ぐには『王国』行きは出来ないけど近いうちに行こう。そしてこれからは暗い話や難しい話ではなく。楽しい話をしようか」


 ニヤリと笑うと須藤の顔を見る。


「スカー君。君は今後『旅商人』として行動をするんだよね?」

「あ、はい。そうですが……何かまずかったでしょうか?」


 突然話を振られたが、意図が分からず聞き返してしまう。そんな須藤を見てレインは首を振る。

 

「いや、別にそういう訳ではないよ。ただ君が商人として商売をしていく中で何を売ってどう商売するのか気になってさ」

「あぁ、そう言うことですか」


 聞かれた内容を理解する。そして【商人】になる上で初めから考えていたことを今披露出来る時ではないかと思った。


 ただ今は話を聞く時だ。


「うん。まず商人になるには商人としての知識。そして【商人】の『職業』が際も重要だ。その点スカー君は【商人】の職業を持っている。商人になろうと決めているのだから知識もあるのだろう。だから次に必要になるのが『商人ギルド』に入るか、『個人商業』をするかだ」

「……その、レインさんの言う通り自分は【商人】の『職業』を持ち、知識をある程度知っています。ですが――『商人ギルド』と『個人商業』はどのような違いがあるのでしょうか?」

「あぁ、それはね――」


 そして詳しく教えてくれた。



 『商人ギルド』


 ネフェルタには『冒険者ギルド』『薬師ギルド』『商人ギルド』の三つのギルドが存在する。


 『冒険者ギルド』は誰でも入れるギルド。『薬師ギルド』と『商人ギルド』は【薬師】と【商人】の『職業』を持ち知識を持っていないと入れないギルド。

 その中でも『商人ギルド』はギルドとして売上の戦果を出したり、厳しい規則がありほとんどが貴族の集まりなので一般の人は入り難い。


 『商人ギルド』のメリットは貴族達の集まりで構成されているので人気の商品を安く取り寄せられたり、収入が良かったりお偉い方とのコネクティング。そして人脈が作れるとのこと。


 『個人商業』


 商売をしたくても『商人ギルド』に入れない人々が個人で商売をする為の職種。


 ただ自分の店も商品も個人で揃えなくてはいけない。そしてなりよりも――商売をするにはその地の『王』又は『領主』に「許可」を貰わなくてはいけない。運も付き物。


 『個人商業』のメリットは他人との売上の戦果を競うことがない。そして「許可」さえ取ってしまえば自由気ままに商売ができる。



「――と、こんな違いがある」

「なるほど――」


 レインの説明を聞いて理解した。そして自分はその二つのどちらがあっているか考える。顎に手を当てながら。


「これは僕個人の意見だけどスカー君は『個人商業』が向いてると思う。まず『個人商業』をする「許可」は僕が出せる。そして僕達『フラット公爵』は君の後ろ盾だ。何かあれば助けられるからね」


 レインは須藤の悩む姿を見て少し補足する。その補足で『個人商業』が良いと進めてくる。なのでそのご好意にまたも甘えることにした。


「――そうですね。自分でも『個人商業』が良いと思いました。ただ、本当に何から何までありがとうございます」


 話を聞いていた須藤もレインに同意すると、お礼を伝える。


「良いんだよ。これは僕が、僕達がしたいことだからね」


 レインはそれだけ言うとにっこりと微笑む。


「それで、スカー君は『個人商業』をするとして売りに出す商品は決まってるのかい?」

「はい。それは――」


 その話を聞いた須藤は相槌をうつ。そしてやっと温めていたモノを出せると安堵する。

 以前ローズに邪魔をされて披露出来なかったモノを見せる時。


 運が良い。本当に運が良いことに『人脈』『コネ』そして――『後ろ盾』までを手に入れた。それにこの人達なら俺の「商品」を見せても安全だ。


 須藤は腰に付けているアイテムポーチに手を突っ込む――フリをして唱える。



     【インベントリ】と。


 





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