第14話 化物認定



「――私はフラット公爵家のメイド長を務めるナタリー・オルマリンと申します――本当に、先程の無礼な態度、申し訳ありません」


 自分のことを公爵家のメイド長と言う銀髪のナイスバディお姉さんことナタリー。目の前にいる須藤相手に腰を90°曲げ自己紹介と共に再度、謝る。


 腰を曲げる時に揺れるお胸は――勿論見る(おい!)。


「私はフラット公爵家の執事長を務めます。チャン・セバスと申します――同じく無礼な態度、申し訳ありません」


 自分のことを公爵家の執事長と言う――チャン……目の前にいる須藤相手に腰を90°曲げ自己紹介と共に再度、謝る。


「――いえ、先程も言いましたが大丈夫ですよ。それよりも双方に怪我がなくて良かったです、と念の為、自分の名を――スカー・エルザットと申します。今回はお屋敷にお招き頂きありがとうございます」


 須藤も二人に習う様に腰を曲げ、お辞儀をする。いや、お辞儀をしたかった。


 あることを考えて笑いそうになっていたからである。


(――く、くくく。チャン・セバスって。セバス・チャンじゃないのかよ。チャンセバとでも呼べと……?)


 堪えきれなかった須藤は口角を痙攣させると内心で笑う。


「いえ、そんな。エルザット様は頭をお上げ下さい!」

「そ、そうで御座います! 私達の失態であり、エルザット様が頭を下げることはありませぬ!」


 須藤の内心など知る由もない二人は慌てふためく。


 須藤も笑いの波は超えたので二人をこれ以上困らさない為に顔を上げる。その時にはもう普通通りに戻っていた。


「――わかりました。では私も許し。ナタリーさんとチャンさんも反省している様ですので、この話は終わりということで。まだ謝り足りないと言うなら、貸し一つで」


 この話が終わりと言う様に自分の顔の前で手をパンと叩く。


 そんな須藤を見た二人は毒気が抜かれたのか「――わかりました」と一言だけ言うと微笑を浮かべる。


「――よ、よかった。スカー殿が温厚なお方で、本当によかった……」


 話の経緯を見守っていたローズは須藤の逆鱗に触れてしまったと思っていた。でも温厚な姿を見て安心したのかその場で尻もちをついてしまう。


 あまり見ないローズのはしたない姿にナタリーとチャンが困惑していると須藤の後ろから聞き覚えのある声がする。


「――本当にローズお嬢様の言う通りですよ。これでエルザット殿が怒っていたのなら二人共、命――ありませんでしたよ?」


 そちらを向くとダニエルが珍しく真剣な表情を作り、歩いてきていた。


「だ、ダニエル」

「ローズお嬢様。エルザット殿。只今戻りました!」


 ローズがダニエルの名を呼ぶと応える様にいつもの元気な声を出す。


「――ダニエル。それはどう言う意味ですか?」


 須藤が何を言ったら良いか模索している時、ナタリーがダニエルに話しかける。


 ただ須藤にはあることが気になった。


(――今、ナタリーさんはなんと言った? ……そう言った様な?)


 聞き間違いだろうと思いながらダニエルとナタリーの顔を交互に見る。そして二人の名前を思い出していた。


「――ローズお嬢様、勝手な行動すみません。ただが話す内容が理解できず」


 ナタリーはローズに頭を下げるとダニエルに顔を向ける。


 そこでナタリーの口からまた「兄さん」と出たことで須藤はようやく自分が何が気になっていたのか理解した。


 そう、それは――


「――あぁ。ダニエルさんとナタリーさんってなんですね!」


 喉につっかえていた小骨がやっと取れたと言う様に、元気よく声に出してそんなことを口にしていた。


「そうですね。私とナタリーは兄妹です」


 この状況でも変わりない須藤を見たダニエルは苦笑いを作ると丁寧に教える。そして妹に顔を向ける。


「――ナタリー。エルザット殿はこの様に温厚で優しいお方だ。だが、強い。恐らくこの中で一番。君もどうせ一戦交えたんだろ?」


 戦ったならその強さがわかるだろ?と言う様にダニエルは妹、ナタリーに伝える。


「――はい。ただこの街で一番強い兄さんより強いはず――」

「私とローズお嬢様はエルザット殿に助けられた」

「――」


 ダニエルの話は『伝達の魔道具』でダニエル本人から聞いていた。なので知っている。知っているが――信じられなかった。


「ですが、兄さんは『王国』でも屈指の実力者なのですよ?……今回は偶々魔物が多かっただけで――」

「だとしても負けは負け。私は仲間も失い、主人までをも失うところだった。そんな時――彼が現れた」


 それでも自分の自慢の兄は須藤に尊敬の眼差しを送る。


 須藤は須藤で「え、俺?」とでも言う様に惚けた顔をしているが。


「私は自分でもそこそこは強いと自負している。自惚れている訳ではない。レベルも「60」を超えている。ただ今回襲って来た魔物の強さは常識を超越していた。それに――

「なっ!?……魔物が連携をとるなんて……」 

「なんと!?――魔物が連携とは……」


 「魔物の連携」と聞いたナタリーと執事長のチャンが目を開き驚く。


「うむ。それは私もこの目で見たから真実だ。普通の魔物とは比べ物にならない程凶悪だった。そんな魔物を――スカー殿は一撃で、一瞬で――討伐して見せた」

『――』


 ダニエルの言葉に繋げるようにローズが話を加える。そして驚愕の顔で見られる須藤。


「アレは凄かった。スキルなのか魔法なのか私でもわからなかった。これ以上検索はしてはいけないが――エルザット殿が只者ではないのはわかる」


 ダニエルは話を閉めるようにそれだけ、伝える。


 ローズとダニエルは須藤を信頼するように見る。チャンはそんな強者であり恩人に手を挙げてしまったという事実から顔を青ざめる。


 そしてナタリーは――それでも納得がいっていないと言う様に須藤のことを胡乱げに見ていた。


 そんな妹を見て頬を掻くダニエル。

 

 置いてけぼりの須藤。


(――おい。最終的に俺が化物認定されているんですけど。本当の話だから何も言えないけど――あまり広めないで欲しいんですけど……そしてこの後どうするのよ。ナタリーさんなんて俺のことを変な目で見て来てるし。コレはアレか「自分の自慢の兄がこんなぽっとでのカスみたいな奴に負ける訳が無い!」という対抗心か。フッ、ブラコン。よきかな、よきかな)


 確実に今必要じゃないことを考えていると、ダニエルの近くから声が聞こえてくる。


『――みんな、話し合っているところすまないが上に上がって来てもらって良いかい? 恩人のエルザット殿を立ちっぱなしにさせるのは……ちょっと』

『『――!!?』』

 

 そのやけにダンディーな声を聞いたダニエルと須藤以外の人物はビクッと反応する。


「ち、父上!……見ていたのですか?」

「え?」


 その声に真っ先に反応を示したのはローズだった。ローズはその声の主に対して「父上」と呼んだ。


『ははは、ちょっとダニエルに頼んで『伝達の魔道具』を通してね。だからなんとなくはわかっているよ。そこにいる――エルザット殿がローズ達を助けてくれたってね』


 ローズ父?の話にダニエルは罰が悪そうに頬を掻く。


「そうです。スカー殿は私とダニエルを救ってくれました。今からスカー殿と一緒にそちらに急いで向かいますので、少々お待ちください!」


 ローズはその声の主が自分の父だと気付くとハキハキと話す。


『そんなに慌てなくて良いからね。僕は何か面白い話が聞けるかなぁと思ってダニエルに『伝達の魔道具』を頼んだんだし。その甲斐あって色々な話聞けて良かったよ。あ、ダニエルを攻めちゃダメだからね?――じゃあ、待ってるよ』


 ローズ父がそれだけ言うとプツンと言う音が聞こえた。その音が聞こえるとローズ父の声は聞こえなくなる。


 その後、須藤を連れた面々はそれ以上話すことなく、ローズ父が待つ公爵室へと向かう。


 


 





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