小さい頃に疎遠になった幼馴染みが超人気インフルエンサーになって結婚指輪をもってきた

でずな

第1話 約束でしょ!



「久しぶり」


 俺、蘭樹海人あららぎきみとは玄関にいる人物を見て、食べかけのソフトクリームが地面に落ちても気にもしないほど自分の目を疑った。


 少し白みがかった桃色の長髪を腰あたりまで伸ばし、ぱっちり二重の女の子。

 いくら茶色い地味目な服を着ていてとしても、そのオーラまでは消せてない。


「めめちゃん……?」

 

「おっ。その名で呼んでくれるということは、私が誰なのか気づいちゃったんだねぇ〜」


 めめちゃん。彼女はインターネットを使っている者なら知ろうとしなくても、その名は知っている。


 高校一年生という若さだが、SNS総フォロワー数800万人という驚くべき数字の持ち主。もともとは動画投稿をメインとしていたがその美貌が世間から認められ、今じゃモデル、タレントと幅広いジャンルで活躍している女性だ。


 俺にはそんな女性が、一人暮らしをしている男子高校生の家に来た理由がわからない。


「あのぉ……失礼なのかもしれませんが、俺以前あなたにお会いしましたかね? なんも覚えてないんですよ……」

 

「んふ。そう。やっぱり、気づいてなかったんだね。……このタイミングで樹海人の家に来る理由なんて一つしかないよ」


 なんで俺の名前を知ってるんだ?


 樹海人はなにがどういうことなのか全く理解できていなかったが、どこか心の底でくすぶる懐かしい感じに引っかかった。


 めめちゃんの「にひひ」と声を漏らしながらする悪い笑顔がどこか既視感のある顔で――。


「実は私の本名は、山崎芽穂やまざきめほなんだっ!」


 右手をビシッと前に出し、漫画のような効果音が空耳で聞こえてきそうなほど力強くそう言い放った。


 点と点が線になった感覚に陥った樹海人は、ソフトクリームのコーンを地面に落とすほど衝撃を受けた。


「嘘っ。えっ!? あ、あ、あ、あのめめちゃんが小さい頃突然どこか行っちゃった芽穂だったの!?」


「んふふ。そうだよ。ど? びっくりした?」


「あ、あぁ。びっくりもびっくりだよ」


 びっくりしすぎてさっき地面に落としたコーンふんずけちゃったよ。


「樹海人ってば、びっくりしたときに周りのものに被害が出ちゃうところ、昔から変わってないねっ」


「それを言ったら芽穂のいたずらっ子な顔も変わってないな」


「えっ!? 私そんな顔してたかな……」


 そうか。芽穂があのめめちゃんだったんだ。

 今や若者に限らず、いろんな世代の超人気インフルエンサーが俺の幼馴染だったなんてすごすぎる。


 ん? そんな今やすごい芽穂はなんで突然俺の家になんて来たんだ?


「樹海人。私、ちゃんとこうやって有名になったよ?」


「うん。……ん?」


「だから、ちゃんと約束を果たして!」


 約束ってなんのことを言ってるんだろう?  

 

 樹海人は何を言ってきているのか理解できなかった。


 そんな樹海人に芽穂が照れて顔を下に向けながら差し出してきたのは、高価そうな小さな箱。


「――――っ」


 少し箱を開け、中にあるものを確認したが反射的に閉じてしまった。


「め、め、め、芽穂さん? これは一体どういうことなんでしょうか?」


「いやぁ〜……。やっぱり婚約指輪って言ったらおっきなダイヤモンドがついてる指輪かなって。えへへ。気に入ってくれた?」

 

 芽穂は人差し指で髪の毛をいじり、足をもじもじさせながら聞いてきた。俺の知る限りじゃ、これは恥ずかしがってる時にでる仕草だ。


 と、そんなこと今はどうでもいい。


「あの、ちょっと……というか本当に申し訳ないんだけど俺ってなんか約束してたかな?」


「もぉ。そうやってはぐらかそうとしてるんでしょ」


「いや本当に」


「へ?」

 

 瞬間、空気が凍りついた。

  

 この質問はまずったかもしれない。


「い、いや別に忘れたわけじゃないよ? ただ俺がした約束と、芽穂がした約束のすり合わせをしよっかなぁ〜とか思ったりして……」


「あぁ! なんだ、そうだよね」

 

「それで教えてくれる?」


「うん。約束っていうのは、昔樹海人が『テレビに映ってる芸能人より有名になったら結婚してやる』って言ってたやつだよ。……思ってたやつだった?」


 不安そうな芽穂の瞳がトリガーとなり、すべてを思い出した。


 たしか、芽穂が俺と結婚したいとか言ってきたからあのとき照れ隠しで『テレビに映ってる芸能人より有名になったら結婚してやる』と言った。


 あんなの俺が忘れるような冗談半分の言葉だった。

 まさか本当に有名になるなんて誰が想像できたんだよ……。


 樹海人の戸惑いは隠しきれていなかった。


「やっぱり違かったんだね……」


「いや」


 本当は覚えてすらいなかった。 

 もし俺がここで真実を伝えたら、彼女のこれまでの努力がすべて水の泡になってしまう。

 だから――


「同じだよ同じ」


「っ! じゃあ私と結婚してく……」


「結婚は流石にいろんな段階を飛ばしすぎてるから、芽穂には悪いけど最初は恋人になってくれないかな? ほら、いきなりだと心の準備ができてないし。お試しってやつ」


「もちろん! それって結婚を前提にお付き合いするっていうことでしょ?」


 話が通じていない気がするんだけど。



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