君のことだけ

 その兆しは見えていた。いつもずっとあちこちに。甘い視線、手の表情。声のうわずりに忘れたフリ。

「ごめん。もう一度教えて」

 何度でも聞きにおいでよ。君のためなら深夜でも応えるから。

「僕の好きな曲のタイトルは『君のことだけ』。本当に忘れっぽいんだから。メモしてあげようか?」

「ううん、いい。直接聞きたい」

「何それ。また忘れるぞって予告?」

 途端に頬を染め上げ、言葉にならない悲鳴をあげた。わかりやすい心の声が、充分聴こえてきたけれど。


 可愛い。だけどもう飽きた。二度と聞かれなくて済むように、終止符を打つね。

「好きだよ」

 友達は、もう終わり。

「ずっと待ってたんだから」

 あの曲みたいに。

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