第24話 長い訓示

『しかし長いね。早く賭けの結果を知りたいぜ。お前が負けるところを見たくてうずうずしているからな』

「あーあ。見直したのが馬鹿みたいだ」


 だがコノミコに関して俺は一つ絶対的なものがある。茶化すばかりでまともに取り合わない彼女も、軍人を語る真摯な彼女も、俺はどちらも好きだった。


「わかったか? それでは私からは以上だ」


 演説は終わった。回線の空気は重くなり、新しく割り込んできた通信回線に心を踊らせる。

 発信元は校内の通信室だ。通信室は校舎の一部がせり出した部分にあり、そこからは演習場が見渡せる。耳障りな一瞬のノイズの後で、音声のみが響く。


「訓戒ありがとうございます、井伊先生。私も人ごとではなく、真正面から受け止めましょう」


 電流が流れたように、全身が痺れた。じんとしたくすぐったさに支配されながらも、鼓膜を揺さぶるそれが、脳内のどこかから興奮を促す成分を奔流させる。

 咳払いをして、興奮の源泉となった声が言う。


「私の名前なんてどうでもいい。知りたいのは君たちが現状でどのくらい動けるのかだ。井伊先生、指示を」

「ん、ああ、わかった。それじゃあ、全員準備しろ。ルールはいつもと同じだ。それでは今回のグループを発表する」


 俺は東風と同じ班になった。桜庭や堀田もいる。

 あの声の持ち主、それが誰かを考えるのはこの演習が終わってからでいい。今はすべきことをしなくてはいけない。素早く意識を切り替えると、コノミコも頷いた。


『その通り。にしても、なんだか先が読める展開だけど』


 軍人となった旧友に出会い、突然現れた正体不明の新教官。これが何を意味しているとしても、とりあえず置いておく。目の前のことに集中だ。


「読めてもどうすることもできないよ」


 教官に優しさなんて、そんなことは求めていない。

 誰と誰が鉢会おうが知るものか。

 賭けがどんな結果でもいい。

 俺はすべきことをするだけだ。

 

「さて。戦闘の時間だ。コノミコ、状況は口頭で伝えろ」

『おうよ』


 作戦は間宮が立案した。教官にいいところを見せるべく、正面突破を意見し、誰もそれに反対しなかった。

 今回の戦場は大きな建造物が中央に一つだけあり、あとは多少の起伏があるだけのほぼ平野であり、そこをどう奪うかが鍵となる。

 塊になって突撃し、先に遮蔽物を取れば射撃をする際の壁となり弾をぶつけることが容易となるし、被害も抑えられる。もちろん突貫する班をのぞいてだが。

 まずは遮蔽物まで進行しなければならない。可能な限り迅速に行わなければ今立てた作戦が水の泡だ。

 班を二つに分けて、一つを突撃班。もう一つを援護班にする。援護は突撃のサポートと、遮蔽物を奪った際の射撃係だ。


「俺が突撃する」


 五分間の作戦会議でそう発言すると、もちろん否定意見などない。これは確実に誰かがやらなければいけないことだからだ。


「私も」


 東風がそれに続き、鎌草も志願した。半分を突撃に回すことになった。


「開始まで二十秒」


 井伊先生の号令が高揚と沈黙をもたらし、全員にいつもとは異なる緊張が走った。

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