何気ない事が一人歩きする

登校して席につき、机の中に何かが入っているのに気がついた。

折り畳まれた紙‥手紙だ。

二枚、入っていて開けて見ると、さくらと、よっこからだった。

この間は近くにいたのに、何も言ってあげられなくてごめんね。という様な事が書かれていた。

ふ~ん。としか思わなかった。

もう過ぎた事だ。あの後、じゅんに『元気出せよ。お前らしくないじゃん』と心配され、クニも来て、『何があっても味方だからな』と言われた。自分が思っている以上に、落ち込んで見えたのかもしれない。今はもう明暗分かれて、返ってスッキリしている。クミが心配してか?省吾の家で、皆でパーッとやろうと誘われた。サキとカナも行くと言って盛り上がった。

休み時間、じゅんの連れのまさとが来た。いつも自分が、いたした事をペラペラと自慢気に話しに来る。昨日は瀬戸の学校のキス魔で有名な女と、いたしたらしい。

「あいつ、ブスのくせに、しつこいんだよ」

「あんたんち、鏡あんの?」

「なんで?俺、いい男だろ?」

大概、人の容姿を非難する奴は、コンプレックスからなのか?美しくない。だけど、こいつは悔しい事に、顔だけは整っている。

「どうだかね」

「カナも以外に尻軽だな」

友達の、そういう話は聞きたくない。

「尻軽より、口軽い方が嫌だわ」

「何でだよ。俺は事実を言ってるだけ」

「あんた、本気で人を好きになった事ある?あんたは適当でも、そこに愛があるかもでしょ。女の純情、踏みにじんなよ」

「俺だって‥あるよ」

「した数、武勇伝みたく語るけど、止めた方がいいよ。自分の価値下げてるだけ。聞く人が聞いたら、腹の中で笑われてるよ。誰とでも、やろうと思えば出来るんだから。猿じゃあるまいし」

「猿って…俺はやってやってんの」

「減るもんじゃねぇって、言ってる奴いるけど、お互い愛がなければ、減ると思うけどな」

「気持ち良きゃいいんだよ」

「好きな人となら、一緒にいるだけで気持ちいいけどね」

「うるせぇ~分かってるよ」

なんか怒って出て行った。

「何であんなに、お喋りなの?言わなきゃいいのに‥」

「お前‥怖い。怒んなよ~」

じゅんがニコニコと笑いかけた。

自分が好きで、愛してペラペラと言われたら、たまったもんじゃない。信頼できる人にだけ話すなら、まだあり得るけど、話す相手を間違えたら地獄だ。口が軽い人は信用できない。あたしなら、その時点でアウトだ。

学校が午前中に終わり、一回帰ってから省吾の家に集合する事になった。サキとカナと一緒に行った。クミは省吾の家と近いから、先に着いて部屋にいた。じゅんとまさとも来ていた。まさとは小学校も一緒だけど、学校以外で遊んだ記憶があまりない。小学生の時、団体で遊ぶ事があり、スケートと遊園地位は一緒に行ったかな?‥

皆で、カクテルなど飲み盛り上がった。

ここで又、まさとの武勇伝が始まった。

「そんなに自慢するなら、よっぽどいいもん持ってんだろうね~出してみなよ」

サキが煽った。

「いいよ。その代わり、お前責任とれよ」

「何の責任?自慢する位だから満足させてんでしょ?よっぽど自信あるんだろうから~見てあげようと思っただけ」

「まぁ‥デカさは、じゅんには負けるけど」

えっ?じゅん巻き込まれ事故にあってますけど‥噂で聞いて知ってたけど‥

じゅんを見ると、顔が真っ赤だ。酔ってんのか?と思っていたら、急に立ち上がりズボンを脱いだ…

何、やってんの?…

「デカ」

皆が、口々に言った‥あたしは言葉を失った‥ソレをまともに見た事がなかったから‥デカいのか何なのか解らなかった。ただ思った事は‥

白コブラ‥

一瞬で目を伏せたけど‥あんなもんがついてんのか‥怖い。

皆、笑い転げて、その場が和んだ。

じゅんも、何事もなかった様にニコニコしている。

ベビーフェイスなのに‥白コブラを飼い慣らしている‥

知った様な顔で、平気なフリをしたけど‥

衝撃だった。

まさとが隣に座った。

「酔ってるから言うけど、俺が植木鉢落とした時の事、覚えてる?」

「植木鉢?」

「小学生の時、クラスの」

「ああ~あったかもね」

「あの時、お前がふざけてるからだって、皆に責められたけど、ゆうだけは一緒に片付けてくれたよな」

「そうだったかな」

「あれ、嬉しかった」

「そっか」

「本気で人を好きになった事あるの?って聞いたよな」

「ああ~」

「お前が言った事も分かるよ。一緒にいるだけでって」

「そう。なら良かった」

「あの日から、ずっと見てたの気づかなかっただろ‥近くにいたんだぜ。一緒にいるだけで良かったから‥」

何気ない事が一人歩きする。ちゅう君の言葉を思い出していた。

「そっか」

「もう言わない‥遅かったな。俺に勇気がなかったから‥」

「これから大切な人が出来た時、軽薄な男だって勘違いされて欲しくないな。女はさ~するのには訳があると思うんだよね」

「気づいてた?俺が自分の話しするの‥お前がいる時だけだって」

「そうだったの?知らなかった」

「お前に気にして欲しかったのかもな‥逆に嫌われたけど‥もう言わねぇよ」

「他で言ってなきゃいいよ。そんな奴じゃなくて良かった。お喋りじゃなきゃイケてるよ」

「今更‥嬉しくねぇ~幸せになれよ」

「あんたもね」

家に帰って、ウトウトしてたら電話が鳴った。

「何してる?」

「ウトウトしてた。あたしが落ち込んでると思ったみたいで、パーッとやろうって誘われて行って来た」

「パーッと何したの?」

「少し飲んで、話した」

「飲んだのかよ。男いた?」

「いたけど、小学校からの友達だよ」

プー…

電話がきれた‥

何が起きたのか解らなかった。しばらく受話器を持ったまま考えていた。

きれたの?きったの?

その日、ちゅう君からの電話は鳴らなかった。

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