鬼龍院花子

「夏子んとこ行ったんでしょ?何だったの?」

サキが教室まで来た。

「一緒に行けたら良かったね~何かよく分かんなかった。あっ、さなえいた」

「さなえ?」

「夏子が言ってたじゃん。挨拶代わりに男のアレをって」

「あ~田所の変態女。アハハハ‥」

言い方よ…

「どんな女だった?」

「ん~普通?メガネかけて‥」

「そういう大人しそうなのに限って変態なのよ。アハハ‥田所はゆうに振られて、そっちに走ったか」

「振ってないけど‥別に」

田所くんへの気持ちは誰にも分からない。端からみたら振った男なのか…切ないな。

「簡単な女の方が楽だもんな。しかも変態だしアハハハ…」

サキはしきりに変態と言って笑った。

「そんな見た目ふつうな子達が、チームかなんか作って争ってるらしいよ」

「何それ?」

「ほんと意味わかんない‥あっ、それと王子に会った」

「王子?」

「アンソニーだよ」

「え~うそ~何で?早く言ってよ」

「偶然、会ってさ~単車乗った」

「うそでしょ?」

サキは『いいな』『いいな』と繰り返した。

そんな矢先、廊下で皆がざわつき、何だ、何だと見に行くと、一斉に窓の外を食い入る様に見ている。皆の間からサキと外を覗くと‥厳つい集団が裏門に集結していた。

「ねぇ‥あの真ん中にいるデカいの‥アパートで見た男じゃない?」

「あ~むーくんちの」

「そうだよ。あのリーゼント間違いない」

その時、肩を叩かれ振り向いた。

「何だ、お前ら知り合いか?」

先生が後ろに立っていた。

「いや、知らない」

先生が何人か裏門に出てきて、その集団と何やら話してるのが見えた。

「教室に入れ」

次の休み時間に見に行くと、もう誰もいなかった。

「放課後、相談室に来なさい」

先生に呼ばれ、サキも呼ばれたから一緒に行くと、クニと野村が既に椅子に座っていた。

「お前らも呼ばれたのか?」

「うん。なんだかね」

「今日来てた奴らは危ない。堂島くんの学校のタメだった。あそこはドス持ちも決まってて、相当キレてるらしいぜ」

「そんな風に見えなかったけどな‥」

むーくんちで会ったデカい男の、気さくな笑顔を思い出していた。

「お前ら、何か知ってんの?」

「知ってるっていうか‥たまたま知った顔がいた」

「はぁ?お前ら何やってんの?」

生活指導の先生が、ノートを持って入って来た。

「お前ら、知ってる事教えろ。あいつらの学校は分かってる。何しに来た?」

「知らねぇよ」

クニが面倒くさそうに、不貞腐れた。

「何か揉めてんじゃないだろうな」

生活指導が、ノートをペンで叩きながら皆を見渡し、あたしとサキに視線を向けた。

「お前ら‥知り合いか?」

「いや、知らない」

「あのな~じゃあ何しに来たんだよ」

先生が呆れた様にため息をついた。

「知らねぇよ」

クニか言う通り、知らないとしか言いようがなかった。先生はジッとあたしの顔を見た‥

「あのよ、お前‥鬼龍院花子みたいによ、クニを守ってやれよ」

鬼龍院花子?何だそれ‥

「まぁいい‥少し休んで気をつけて帰れ。何かあったら直ぐに言えよ」

これ以上、話しても無駄だと悟った様に、ノートを持つと相談室を出て行った。

「鬼龍院花子って何?」

「知らねぇ‥花か何かの名前だろ」

「花子だから花って…あんたも単純だね」

「じゃあ、お前知ってんのかよ」

「知らないから聞いたんでしょ」

「じゃあ花かもしんねぇだろ」

「アハハ‥何ムキんなっちゃって~」

「笑うんじゃねぇよ」

聞く相手、また間違えた。

「サキ、帰ろう」

サッと立ってドアを開けた。

「俺らも帰ろうぜ」

四人で廊下に出た。

「ほんと何しに来たんだろうね」

「あんた達、心当たりないの?」

「何もねぇな。そもそもあそこと揉める気なんてねぇよ」

「そうだよね。あんたも面倒くさいの嫌いだもんね」

クニもあたしも、群れて何かする事に関心がなかった。ただ自分がしたい事をするだけ‥時に降りかかる火の粉を払うだけ。

「そういえば、クニ~さくらと付き合ってんの?」

サキがクニを指でツンツン突っついた。

「何でだよ」

目が泳いでいる。

「さくら?違う子好きだったよね?」

クニとさくらって接点あったかな?クニが可愛いと言っている子がいて、確か‥その子と、さくらが仲良かったような‥

「うるせぇな」

思いっきり動揺している。

「そうか~最近さくら、やたら可愛くなったもんね。あんただったのか」

この間、さくらを見かけて驚いた。メガネを外し、ストレートだった髪をなびかせ見間違える程変わっていて、何かあったとは思っていた。

恋って、あんなにも女の子を可愛くするんだ‥

案外お似合いかも‥クニはこう見えて世話好きだし、さくらは甘え上手だから。

刺激される事なく穏やかにと願うばかりだ。

どうかクニのサヤであって欲しい‥

そう思いながらも、何故か心の片隅で、嫌な予感が拭えなかった。

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