真っ赤な口紅の女

あれから学校以外ほとんど家に引きこもる日々を送った。今までの夜遊びの寝不足を解消するかの様に、ただひたすら眠った。

サキから瀬戸が会いたがってると聞いた…あたしに関わるとロクな事がないから忘れて欲しいと伝えた。何かあったのか知りたがったけど、ただ疲れただけだと言った。週末は知り合いが原宿のホコ天によく行っていたから時折、気晴らしに出かけた。

こんな生活も悪くないなと、思っていた頃、一本の電話で又生活が変わり始める。

「あんたが、ゆうっての?ちょっと顔貸しな」

「は?お前誰だよ」

「誰でもいいだろ。あんたの学校の校門で待ってるから、出て来いよ」

「ふざけんな。待ってろよ」

いきなり訳の解らない女からの呼び出しに、腹がたって電話をきり直ぐに一人で校門に向かった。もうとっくに日も暮れている。校門に近づくと一人の女が立っていて、電話の女だと直ぐに分かった。金髪にカーリーヘアー地面にまでつきそうなスカートをはいている。

「おい。お前なんだよ。いきなり呼び出しやがって。誰に聞いたんだよ」

怒りまかせに怒鳴った。

「あんたがゆう?」

真っ赤な口紅をしていて、そればかりが目についた。オバQかよ…

「なんなんだよお前、お前こそ誰だよ。エラそうに呼び出しやがって」

自分から仕掛ける事はないけれど、売られたら買ってしまうのだ。

「あたいは夏子」

割りに素直で拍子抜けした。

「で、なんか用?」

電話の時とはうらはらに敵意は感じられず、途端に冷めた。

「タメで目立つ子がいるって聞いて、会ってみたかった」

「はっ?誰に聞いたのよ」

「それは…言えない」

「何でよ」

「約束だから‥言えない」

呼び出しておいてこの態度、何がしたかったのかサッパリ解らない。

「んで?会ってどうなのよ」

「今度、うちの地元遊びに来ない?友達になりたい」

何、この流れ‥でも悪い子じゃなさそうだ。一人で来たし口も硬い。

「あんた地元どこ?」

あたしの地元から橋を渡ってすぐの地域だった。色々話すうちに最後は仲良くなっていた。男が殴り合ってから仲良くなるみたいな事だろうか‥それより怖いのは勝手に番号を教える奴がいる事だ。なんの為に‥理解不能。

あたし達のエリアがあり、橋向の喧嘩最強と噂のエリアがあり、その真ん中に位置するエリアが夏子の地元だった。このエリアは板挟みで男の世界では苦労が耐えない。年代によって、あたし達のエリア、橋向のエリアと勢力が変わるのだ。兄達の時代は、あたし達のエリアが恐れられていたらしい。柴田くん達の仲間や瀬戸の学校の先輩、名が通った有名人が多くいた。

今は喧嘩最強と噂のエリアの一個上の堂島くんは、顔は知らなくても名前を知らない人がいないほど、その世界では有名だった。一度狙ったらとことん追い詰める。蛇みたいな人だと噂され恐れられていた‥事実は知らない。

「夏子って知ってる?」

次の日学校で、物知りサキに聞いてみた。

「あ~聞いた事ある。凄い派手らしいよ。どうして?」

「知ってたんだ~会ったんだよね」 

「え~っ?なんで?」

サキは驚いて目を見開いた。

「いきなり呼び出されてさ」

「ゆう一人で行ったの?」

「頭に来て、つい行っちゃったよ。地元だったし。今、思えば危ないね。あいつもよく一人で来たな~まぁそれで、なんか仲良くなっちゃってさ~」

「うそ~っアハハ‥凄いね」

「今度、地元に遊び来ないか誘われてさ~一緒に行かない?」

「いいねぇ行く~噂の夏子、見てみたい。やっぱ派手だった?」

「ん~真っ金金の真っ赤っかって感じ」

「何それ~アハハハ‥楽しみ~」

「いい子そうだったよ」

「それにしても、番号流れるってあり得ないね。誰だろう‥」

「ほんと、あり得ないわ。誰がけしかけたんだろ?最初、強気だったし最後まで口割らなかったけど、友達になったから口止めしとくって言ってたけどね」

陰で、何を言われているか分からない。

自分の名前が、自分の知らない所で、一人歩きしている事を知った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る