愉快な人々

学校の裏の駄菓子屋に、学校帰り寄り道しては買い食いしていた。友達のほとんどが、すももを美味しそうに食べていたから興味はあったけど、梅干しが苦手で食べた事がない。

「それって梅干しじゃないの?」

「すももだよ」

皆、口々に言った。同じにしか見えないから、あたしだけ酢イカを食べていた。いつか丸ごと買い占めたいと思うほど好物だ。

クニと江口が駄菓子屋の前の八百屋から、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。二人は背が高いから、遠くにいても目立つ。

「お前、そんなもん食ってっと、あそこが臭くなるぞ」

酢イカを噛るあたしを見てクニが真顔で言った。

「あそこってどこよ」

「お前ね~とにかく食うなよ」

「えっ?ほんとなの?」

冗談だと思っていたけど、急に心配になって焦って聞いた。

「アハハ…お前、おもしれぇな」

「どっちなんだよ」

やっぱり、からかってんのか?少し気になった。

江口がナイフで器用にレモンを切ると、そのまま噛った。

「うわっ、酸っぱそう‥レモン好きなの?」

江口はニコッと笑い、何も答えず行ってしまった。パンチにボンタン無口だが女子に人気があった。

「なんも言わないで行っちゃったよ。相変わらずだな」

「レモンといえばデートだろ。お前は何にも知らないね」

「えっ?そうなの?洒落てんな。江口ってデートでは話すのかな?」

「デートって言っても色々あるでしょうよ」

「えっ?…」

「それよりお前、瀬戸んち行ったのか?」

「あ~行ったよ」

「瀬戸に何かされてないだろうな」

「何かって何よ」

「あいつは、みいの男なんだよ。それに誰にでも手出すの。お前は本当に何にも知らないね」

みいは知っている。瀬戸と同じ学校のタメでサキんちで会った事がある。感じがいい子だった。

スルッと懐に入って来る心地良さ‥女慣れしてると感じていた。分かっていた最初から…

魅力的で‥危険だ。

「お前んちの近くでカイ君が、たこ焼き焼いてるから行こうぜ」

「あんまお腹空いてない」

「近いから、ちょっと行こうぜ」

帰る途中だから行く事にした。

「おぉ~クニか。食ってけよ」

カイ君は三個上で他中にタメの弟がいる。

ニグロで小柄で痩せている。いつもラリってるかの様に陽気な人だ。

「いいんですか~?ちゃんと焼けるんですか?」

「お前ね、こんなもん気合いだよ」

たこ焼きに、タコが入ったり入らなかったりしている。クニはゲラゲラ笑い、カイ君をからかって楽しんでいるようだ。

「ほら、持ってけよ」

クニは受け取ったたこ焼きを、あたしに渡した。

「食えよ」

近くの長椅子に座り、たこ焼きを割って口に入れた。

「ほら、あんたも食べな」

「いらねぇ。カイ君が焼いたのなんて危なくて食えねぇ」

口に入れた、たこ焼きを思わず吐き出した。

「ちょっとあんたね~早く言ってよ」

頭をひっぱたいた。

「冗談だよ。あの人この間、女んとこ行くって行ってよ~帰って来たから、どうでしたって聞いたら‥ニカッて笑ったんだよ。そしたらよ~歯の間に何か見えて、よく見たら…アハハ‥やっぱ言えねぇ」

思い出して、自分で言って自分でウケてる。

「なんなのよ。そこまで言っといて~どうせ下らない事だろうけど‥」

「聞きたい?」

「別に~言いたいんでしょ?」

「うん」

「早く言いなよ」

「ちぢれ毛だったんだよ」

ヒーヒーとお腹を抱えて笑い、あたしも釣られて笑いが止まらなくなった。バカで下品すぎる。

「おお、クニじゃねぇか。ご機嫌ちゃん」

「あぁ、まさる君これからですか?」

ニグロにサングラス、セカンドバッグを抱え、小柄な女の人を連れている。クニの隣にいた、あたしに目を向けると‥マジマジと見られた‥

「あれ~よしえちゃん?」

えっ?困ってクニを見ると、ニヤニヤと笑っている。

「よしえちゃんでしょ?」

どうしていいか解らず、苦笑いした。

「かっしわばらのよっしえちゃんでしょ?」

はあ?…クニを見ると声にならない声で笑っていた。言った本人は、至って真面目な顔をしている。

ここって笑う所なの?正解が解らない。

「あのさ…俺がどうして、まさるか解る?」

今度は質問か…困った。

「教えてあげよっか?」

「はい」

興味はないけど…とりあえず…

「あのね、俺が産まれた時、母ちゃんがね‥あまりにも可愛くて‥まぁさるみたいって言ったんだよ~わかるかな~」

…とりあえず笑顔‥クニ爆笑。

「んじゃ、またね~よっしえちゃん」

去って行く後ろ姿を、ポカンと見送った‥

言ってる事はハチャメチャなのに、どこか凄みがある人だった。

「あの人、面白いだろ。極悪人だけどな」

「なんか危なかったわ~可愛い彼女連れてたね」

「彼女ちゃあ彼女かな」

「何それ…はぁ~もう帰る」

訳が分からない事が多すぎる‥

今は何も考えず静かに過ごしたい。

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