羊の皮をかぶった狼

サキの小学生の時の友達にピアスを開けて欲しいと頼まれ、休みの日にサキの家に出かけた。

「わぁ~凄い。そのピアス‥くそ高いやつじゃない?」

サキが、あたしのピアスをマジマジと見た。

学校では没収を避ける為つけていない。

つけても安全ピンだ。

「そうなの?」

全然そういうの知らない。

「ブランドのやつでしょ?どこで買ったの?」

「えっ‥買えないよ」

「売ってないの?」

「いや…貰ったから‥買えない」

「えーっ‥こんなんくれる人いんの?いいな~あたしも欲しい」

興奮して騒いだ。あたしにとっては田所くんから貰った物ならガラス玉でも価値ある物だから、ブランドなんてどうでも良かった。

「まぁいいじゃん。ピアス開けよう」

サキの友達とは中学は違うけど仲良くなりピアスも無事開いて、地元のたまり場に行こうと誘われた。

「先行ってて、後で行くわ」

時間も早いし、お腹も空いたし、一回帰る事にしてサキの家を出た。帰り際、空き地の横を通り抜けようとした時

「おーい。どこ行くの?」

声のする方を向くと、空き地の奥に単車の前に座る男達が見え、手招きしている。

地元だし知り合いかな?恐る恐る近づいた。

校門で、いつも不良と声をかけてくる枝くんと大吾くん達だった。私服は初めて見たから尚更誰だかわからなかった。

「どこ行くの?帰り?」

枝くんが、いつものちゃらけた調子で言った。

「はい」

先輩達に注目され居たたまれない。

「送ってくよ」

枝くんが単車にまたがるとエンジンをかけた。

突然の事にボー然と見ていた。

「早く乗んな」

何が起きた?あたしに行ってる?

「遠慮すんなよ~」

枝くんは、からかうようにニヤニヤと笑った。どうするべきか‥何とか無難に回避したい。

「近いから大丈夫です」

とりあえず…やんわりと拒否した。

「遠慮すんなよ。まかせとけ」

もう乗るしかないのか…ダッシュで逃亡?

考えていたら又、予想外の事が起きた。

「俺が送ってくよ」

大吾くんが枝くんを押し退け単車にまたがった。益々、断りずらい状況になってしまった‥

大吾くんなら安心かな‥悪い噂を聞かない。むしろいい噂しかない。乗らなければ収まらなそうな雰囲気に、渋々単車にまたがった。

近いから送る程の距離でもないのに…と思っていたら、家を通り過ぎ集会をやった空き地より奥の、海の見える所で単車が止まった。

大吾くんが単車から降りて

手を出したから掴んで降りた。

「何か飲む?」

小銭をジャラジャラと手の中で鳴らした。

「あ~何でもいいです」

家に帰ろうとしてたのに‥何で今、大吾くんとここにいるんだろう…頭が色々追いつかずにいた。大吾くんは自販機で何やら買うと、両手に缶を持って戻って来た。

「ちょっと、これ持ってて」

両手の缶を、あたしの両手に持たせた‥

次の瞬間‥唇を唇でふさがれた…

一瞬の出来事に何が起きたのか理解できなかった。放心状態でされるがままだった‥

しっかりと両手に缶を握りしめたまま…

なんだこれ‥あの大吾くんだよね?どうなってんだ…

頭の中では別の事を考えていた。ドキドキもしない。ただ流れに身を任せているだけだった。

キスって別にたいした事ないな…

田所くんには、見つめられるだけで身体中が波打つのに…

それから暫くあたしを抱きしめて、黙って大吾くんは単車にまたがった。

「行こう」

このまま乗るのは何だかダメな気がした。

「あの‥近くで友達と約束があるんです」

たまり場まで歩いて行けない距離ではない。

「じゃあ、そこまで送るよ」

誰かに見られたらマズい…

後ろめたさからなのか‥誰にもバレたくないと思った。

「いや‥大丈夫です」

「こんな所に一人に出来ないよ。乗って。送るから」

乗らないと‥帰ってくれなそうだ。

「じゃあ、そこの高校まで‥お願いします」

単車にまたがろうとして始めて、まだ両手に握られたままの缶に気づき‥自分に呆れた。

「本当に、ここで大丈夫?」

いつもの大吾くんだ。

「はい」

何事もなかったように手を振った。

トボトボと、たまり場まで歩いた。

「ゆう、来た~」

サキが走って迎えてくれた。サキの顔を見たらホッとしてドッと疲れた。

思ったより張りつめていたのかな…

ベンチに座り空を仰いだ。

「ハァ…」

「どした?」

「ちょい疲れた」

「らしくないじゃん。ため息なんてついて…幸せが逃げるぞ」

「だね…ハハハ」

ドサッと誰かが隣に座った。

「よぉ、何してんだよ」

声で誰だか解ったから首だけ横に向けた。

「あんたさ~好きでもない人とキスできる?」

「な、なんだよ急に…」

「あっごめん…聞く人、間違えた」

クニは色々と大人の関係だったな…

「お前ね~なんなんだよ」

サキがゲラゲラと笑った。

「そういえばお前‥田所と付き合ってんのか?」

ビックリして上体を起こした。名前を聞いただけで緊張が走る。

「なんで田所くん知ってんの?」

「俺は何でも知ってんの‥いい男だけど、まぁ俺には負けるけどな」

「冗談は顔だけにしなよ」

呆れて、また空を見上げた。

「お前さ~何で他の学校の奴らと遊ぶんだよ」

「関係ないじゃん」

「俺は遊ばないのに」

「遊べばいいじゃん」

「遊んでくれないんだよ」

「いい人だよ」

「どこがだよ」

「この間も、みんなに奢ってくれたんだよ。さりげなくね」

「奢ればみんないい人なのかよ」

「そういう事じゃないよ」

「それで?付き合ってんのか?」

「あのさ‥付き合うって何?」

「はぁ?そりゃあれだろ…」

しどろもどろになっている。

「何?あれって‥」

もう何でもいいや…暫くポケッと空を眺めた。

「お前‥何か飲む?」

「ん…幸せのお水」

思い出して笑けてきた‥フフッ

「何だよ‥お前‥」

「うそ‥ごめん。あったかいの」

クニがフラフラと歩いて行った。

「田所って‥この間の電話の子?」

サキが話した。

「橋向の子だよね?あそこらは昔からこっちの地元と仲悪いから、クニ心配なんじゃん?」

「そうか‥」

「あっちのリンチはエグいらしいよ。マウンテンドューのビンを、あそこに突っ込んで割るらしいよ」

「え~っエグいね」

敵対関係にあるのか…田所くんに危険が及ぶ事だけは避けたい。

例え離れる事になったとしても…


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